プロ野球の見方が変わるかも  マイケル・ルイス「マネー・ボール」(ランダムハウス講談社)

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「プロ野球選手の価値は守備力より打撃力で判断すべきだ。”エラー”の定義なんていい加減なもので守備位置がどうだったかが反映されていない。」

「打撃を見る場合打率よりも大事なのは四球を含めた出塁率、長打率、1打席あたりの投球数(早いカウントで打つやつはだめ)。選球眼があるかどうか、早打ちせずに好球を待ち四球をよしとする性格かが大切。」

「盗塁の成功率は30パーセント未満、それで成功しても1点しか取れない。犠打はアウト数を増やしこそすれ得点数を増やす結果にはならない。だからやるべきではない。」

「投手は四球を与えない、長打を打たれない、三振を取る、それは出来るが打たれた場合シングルヒットになるかどうかはほとんど投手の関与できない事柄だ。」

要するに1ゲームは27のアウトを取られれば終わり。それなら出来るだけアウトにならないことが求められる。

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年俸の高い選手を集めなくてもいい成績はあげられる。長いシーズンは統計の支配する世界だ。年俸をはずむ球団の考え方が間違っている。ホントに働ける選手を見抜く力がない。見た目とか印象で決めたり。
他の球団の見向きもしない選手をデータで選び出す。”欠陥商品”の中にも玉のような選手はいる。こういう選手をスカウトして成績を上げさせて注目する他球団に高く売りつける。そして又安い選手を探す。名選手経験者などのスカウトではなく野球を知らないような頭のよい男がいい選手を見つけてくる。シーズン途中、特にオールスター戦直前はトレードのチャンス。スタート時点のレギュラーを何人も変えてしまう。

実際にこういうやり方でメジャーで実績を上げているのがオークランド・アスレチックスだ。2002年度のヤンキースの選手年俸総額1億6000万ドルに対し、アスレチックスは4000万ドル。でもアスレチックスの勝利数はいつもトップレベル、アメリカンリーグ西地区でプレーオフの常連だ。この球団のゼネラルマネージャーがビリー・ビーン。黄金のルーキーと騒がれてプロ野球に身を投じたが結局大成せず。その経験を通じて”メジャー向きの性格・資質とは何か”を極めたのが野球界の常識を否定することになったのだ。監督はお飾り、すべてをゼネラルマネージャーが仕切る。豪華な執務室にふんぞり返ってはいない。ロッカールームをうろちょろする。でも試合は見ない。”興奮して科学野球を忘れるから”。

ビリーの科学は彼が考え出したものではない。
人口200人のカンザス州メイエッタの中流家庭に生まれたビル・ジエイムスというカンザス大学大学院を出て食品工場の夜間警備員をやっていた男がソモソモのはじめだった。野球が命のビルは自費出版で「野球抄1977ー知られざる18種類のデータ情報」という本を出す。その後1988年まで毎年発行される「野球抄」はデータを増やし新しい野球観を発表し続け多くの賛同者を得ていく。大手企業の研究者、大学の学者、アナリスト、数学の天才、、。”セイバーメトリックス”と名づけられる野球のデータ研究が学問に近づいていく。高度な数学理論、膨大な過去のデータ、コンピューターの発達、、ついに野球の理論的データ解析を商売にする会社も出来る。

しかしメジャーの人々は自らの経験や見識を根底から否定されることは望まなかった。プロスポーツ界には案外(?)保守的な人が多い。既得権を守ろうとするのかも知れない。ビリーの成功を目の当たりにしても「あれは偶然だ」という”オーソリテイ”が主流なのだ。むしろ野球以外のビジネス界から経営改革の見本として広範な注目・反響を集める。

1983年弁護士あがり、野球のことを知らないアルダーソンがアスレチックスのGMになって初めてビジネスとしての球団経営のために何が必要かを模索する。そこで出会ったセイバーメトリックスの考え方を導入する。それを後任のビリーに引き継ぐのだ。ビリーはこういう考え方を聞いて”言葉に表せないほどの興奮を覚える”。選手時代に教え込まれた既成概念をひとつづつ捨てて新しい考え方に適応していった。

ビリーという型破りの魅力的な男は主役ではあるが話は彼のことにとどまらない。野球とは縁のなかったハーヴァード大学出のエリートがビリーの補佐役としてパソコン片手に活躍する。ビリーのおかげで人生が変わってしまった選手たちの物語が語られる。彼らの人生・生活・実戦心理・人生観、実際の野球シーンが臨場感をもって描かれる。
男たちのギリギリの物語だ。

上の写真はアスレチックスが20連勝した時のスコット・ハッテバーグ(まさにビリー哲学の申し子)が”奇跡のホームラン”を打つところ。泣かす話だぜ。

俺はビリーやハッテバーグみたいな人間が大好きだ!

アスレチックスの野球に対する考え方はWikipediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9に詳しい。
Tracked from イチロー語録 at 2006-05-16 14:12
タイトル : 上司崩壊―「野茂型」「イチロー型」が日本のビジネスを変える
あー、今日は試合がないんだ…。 ということは… 明日から16連戦! メジャーはすごいよね。 ... more
Tracked from 墓の中からコンニチワ at 2006-11-04 09:57
タイトル : 独裁者になりたい!
2006年7月3日の「プロスポーツは美しくないと....」で私は「日経朝刊スポーツ面で豊田泰光、浜田昭八といった人たちが書いている囲み記事を愛読している」と書いた。そして11月2日、豊田泰光氏が、わたしがずーっと昔から思っていることをズバリ書いてくれた。OCR処理して引用する。 ********************** 西武・松坂、阪神・井川、ヤクルト・岩村と渡米志望者が続出している。球団側もフリー・エージェント(FA)でタダで出て行かれるより、選手の夢をかなえてやるといいつつ、ポスティングと...... more
Commented by antsuan at 2006-04-16 06:12
外人監督の広島カープよ、早くこの理論を取り入れて強くなってくれ。
Commented by saheizi-inokori at 2006-04-16 09:07
anntsuanさん、カープフアンですか?私は衣笠を尊敬しています。人間が素晴らしいですね。
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by saheizi-inokori | 2006-04-15 23:02 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori