イスラエルはどうしてあんなひどいことができるの?

昼過ぎ、店に顔をだして、できる?ときいたら、いらっしゃい、どうぞ、二か月ぶりくらいの床屋だ。
むかしは美容院に行くほどの毛髪量を誇っていたけど、今は見る影もない、草原よさらば砂漠化。
落語仲間に、もうすぐ愛する志ん生の頭になります、とラインしたのを思い出して、そのうち、自分でバリカンでさあっとやれるようになるね、というと、もうこれ以上は禿げないというではないか。
でも、てっぺんはカッパになることもあり得るって、なあんだ。

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子どもの頃、梅干しを竹の皮に挟んでしゃぶったのが、うまかったという想い出を、そうそう、あったなあ、懐かしいなあ、もう二度と来ないあの頃、、と一瞬夢見る床屋でもあった。
いつもは多い愚痴がきのうは少なかったのは、甘酸っぱい思い出に浸っていたからかもしれない。

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深夜、目が覚めて枕元の落語のテープをかけたら、ラジオ深夜便『矢野誠一・演芸よもやま話』で、矢野が学生時代から寄席に通って落語をきいた話、志ん生のせりふ「学校じゃ教えない」そのままで、ふりかえってみると自分は寄席でいろんなことを学んだという。
好きな落語家の筆頭に志ん生をあげて、若い頃からの稽古三昧(女将さんが、あれだけ稽古してるんだから、そのうちなんとかなんだろう、と思っていた)が、今の融通無碍の志ん生独特の落語を生んだという。
並び称せられる文楽がきっちり図った様な話なのと対照的に、やるたびに変る、それがおもしろい、悪いときでも面白い、それこそが名人だ、と、僕もそうそうとうなづきながら聴いた。
さわりだけ、と「火焔太鼓」の一節をきかせたが、ざっかけない夫婦のやり取りのなかで、夫がわわしい妻に対してさりげない思いやりを感じさせるセリフに、ああ、こういうところだなあ、志ん生のいいのは、とおもった。

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禿げ頭のことから、志ん生づいていたら、けさ大掃除ではたきをかけていて、この本が目につく。
ここにも小沢昭一と矢野誠一の対談があり、なにより、内田百閒と志ん生の「深夜の初会」と題した対談もある。
なんど読んでも楽しい、今日はこれで過ごすことにしよう。

四方田犬彦「見ることの塩」のなかで、四方田を案内してパレステイナの危険な場所に同行した、早尾貴紀のツイートで面白いのがあったので、紹介する。

「イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの?」
中学生の質問に答えてのオンライン講演だ。
1967年から軍事占領されたガザ地区は、2000年代からは陸海空の封鎖が強化されて、外部との出入りがほぼできない「巨大監獄」の状態になった。
2023年10月7日の武装蜂起は、このような軍事占領に対する最終的な一斉蜂起、最後の抵抗である。
それにたいして、イスラエルは、発送電、上下水道などインフラ設備、住宅、学校、病院やモスク・教会、、社会全体を破壊している、これは民族を集団として否定する民族浄化(エスニック・クレンジング)だ。

なぜ、欧米諸国(日本も)はイスラエルを擁護しているのか。
早尾は、イラン出身で在米の研究者、ハミッド・ダバシの「イスラエルの対ガザ戦争にはヨーロッパ植民地主義の歴史全体が含まている」という論考を紹介する。

ヨーロッパ植民地主義の特徴。
① セトラ―・コロニアリズム(入植者植民地主義)
ヨーロッパの中で宗教的なマイノリテイやアウトロー的な存在の人たちが、集団で入植し、自分たちのコミュニテイをつくり、最終的には国をつくる。
アメリカがその実例だが、イスラエルも迫害を受けたユダヤ人たちがパレステイナの地でイスラエルという国をつくりあげた。
② マニフェスト・デスティニ―(明白なる天命)
アメリカで先住民を追い出して土地を自分のものとすることが、神に与えられた使命だとしたように、イスラエルも「約束の地」という言葉を政治的に利用してアラブ人を追い出している。
③ 「すべての野蛮人を根絶やしにせよ」
コンラッドの「闇の奥」に出てくる言葉、南北アメリカでも先住民の大虐殺が起きている。
これとどうようなイデオロギーをイスラエルももっている。

以上の三つは欧米至上主義の特徴で、それをイスラエルも共有し、反復している。
ネタニヤフ首相やヘルツォ―グ大統領は「ガザ攻撃は西洋文明を守る戦争なのだから、欧米はわれわれを支持し、支援せよ」という趣旨の発言を繰り返している。

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23年11月、ドイツを代表する哲学者、ユルゲン・ハーバーマスは「イスラエルのガザ攻撃は正当な反撃であり、ヨーロッパはイスラエルと連帯すべき」という趣旨の声明を連名で発表した。
ダバシは、これはヨーロッパ近代合理主義の哲学者が持つ限界であり、ヨーロッパ中心主義とレイシズムを持ち、それを植民地主義、帝国主義というかたちで実践してきたことを反省していないとする。
ハーバーマスは、民主主義を成立させる理性は、ヨーロッパ人しか持っていない、アラブ人にはないとし、ドイツの良心的知識人は一貫してイスラエルを支持している。

早尾は日本について、1902年の日英同盟によって、朝鮮に対する単独の植民地支配を手に入れ、イギリスがパレステイナを手に入れたときは相互承認の形で、南洋諸島の委任統治を認めさせた。
第二次大戦後も一貫して、日本はヨーロッパ植民地主義の枠組みのなかにあり、現在もイスラエルを擁護している、ガザの悲劇は他人事ではないという。



「ホロコーストを経験したユダヤ人が、どうしてジェノサイドをする側になるのか」
イスラエル国民を構成するユダヤ人は3階層のグループに属している。
① ヨーロッパ出身で、シオニズム運動のもと自ら入植して、先住パレステイナ人や英国とも戦ったマッチョなシオニスト
② ホロコーストの生き残り。
大戦後もヨーロッパが受け入れなかった難民が、ユダヤ人の人口を増やしたい新生イスラエルに移住した。
弱いユダヤ人の象徴で、イスラエルは、彼らを尊重したわけではない。
③ユダヤ系アラブ人。
1950-60年代に、アラブ地区に住むアラビア語を話すユダヤ人たちを、ユダヤ人の人数をふやすために半強制的に移民させたが、彼らはヨーロッパ出身のシオニストからは差別を受けている。

すなわち、イスラエルの主流派ユダヤ人は、ホロコーストの生き残りではなく、むしろシオニズムに参加しなかったから、そんな目に遭ったとして生き残り(サバイバー)たちの証言に耳を傾けることもしなかった。
そのくせ、アイヒマンの裁判を「ホロコーストがあったからイスラエルが必要なのだ」とイスラエルを正当化する宣伝として、政治的に利用し、「イスラエル国民」の統合をはかった。

イスラエルをユダヤ人国家と規定すると、国内に20パーセントを占める先住アラブ人は邪魔な存在となる。
そのためパレステイナ人を見えない存在にして二級市民扱いをしている。

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建国時の1948年から73年までの四次の中東戦争、占領地における弾圧などを通じて、顔認証システムはじめさまざまなセキュリテイ技術を開発・実用化してきたイスラエルは、軍事産業を世界各地に売り込んでいる。
「パレステイナ実験室」で実用化された占領テクノロジーが、輸出されて、いまや欧米と日本の「イスラエル化」が進んでいるといえる。
しかし、それは安全をもたらすのか。むしろ植民地主義とレイシズムを悪化させ、不安定要因をばらまいて、抵抗の要素を拡散しているのではないか、と早尾。




Commented by unjaku at 2024-06-08 14:59
かなり前、初めて行った「中学生同窓会」で、出席してくださったY先生。
若い日にはふっさふさだった頭髪が、もうかなり乾いた砂漠のようで、
教え子一同びっくりしたものですが、
「先生!いったいどうしちゃったのよ。その環境破壊!」
もう爆笑でした。

イスラエル・・・子供だった時代には、パレスチナへ入植する人々の
幸せそうな写真や映像を数多く見ました。
あの当時には、まさかこんな時代がやってくるとは考えもしませんでしたが、
先日行った「ロバート・キャパ写真展」では、住む土地を奪われ逃避行する
パレスチナ人の写真を何枚も見ました。
Commented by saheizi-inokori at 2024-06-08 17:33
> unjakuさん、どうしたのよって聞かれてもなあ。
パレスチナ人を追い出したあとに、キブツを作り、それが理想郷のようにもてはやされたのも、欧米の印象操作だつたのですね。
赤軍派のテルアビブ襲撃もありました。
Commented by stefanlily at 2024-06-09 03:01
こんばんは、
デヴィッド・リーン監督作品も「アラビアのロレンス」もピーター・オトゥールも好きなんですが、それを堂々と言えない世の中が…
イスラエル建国が欧米諸国の思惑絡みというのが描かれてますからね。
私は大谷翔平には何の興味も無いけど、TEロレンスはある意味、大谷と水原一平を併せたような存在だと感じます(極論)。
ロレンスは通訳で英雄で詐欺師で…と色々な面があるので。
漫画家の神坂智子先生が「TEロレンス」という作品を描いてます。
かなり資料読み込み現地取材もしておられて、リーン監督映画では描かれなかった部分も多々あります。
Commented by saheizi-inokori at 2024-06-09 10:01
> stefanlilyさん、その映画はみました。
切りとられた部分だけで面白く見たのは、見方が浅かったかもしれません。
ロレンス、大谷水原合成論、面白いです。
Commented by tanatali3 at 2024-06-09 14:20
欧州の大航海時代に始まる植民地主義の三要素は私も同感です。③の「すべての野蛮人を根絶やしにせよ」は「勝者の論理」をボトムラインとした白鷗主義(ユダヤ人なら選民思想)。①の国と宗教(イエズス会やプロテスタント)、軍隊と奴隷制度による植民地拡大などなど、掘り下げたら話が長くなりますね。

アウターバンクスで管理官の話に端を発し、歴史を読み返して、鬱状態に陥いり、参りました。
人種と宗教、国境問題は陸続きの長い歴史がありながら、侵略と戦争に終止符を打てない現状に歯ぎしりしきりです。
Commented by saheizi-inokori at 2024-06-10 09:28
> tanatali3さん、もともとは仲良く共生していたのが、一挙に憎悪の渦に巻き込まれるのは、民族や宗教のせいではなく戦争なのですね。
パレステイナもセルビアも、民族と宗教の違いが戦争の原因になったのではなく、戦争によってひきおこされた異常な状況が、エスニックな自己同一性を人々に準備させた、と四方田も書いています。
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by saheizi-inokori | 2024-06-08 14:03 | 梟のゴタク | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori