サテン文化人

わが愛する志ん生は、「日本酒は体にいい、ウイスキーは呑むとオシッコになってしまうけれど、酒はうんこになる」といった。
コーヒーは何になるか知らないけれど、若い頃の僕は喫茶店に行ってコーヒーを飲むカネがあるなら、居酒屋で冷や酒を飲んだ方がマシだと思っていた。
例外は、修学旅行先の京都で喫茶店に入ったのは、ちょっと大人っぽいことをしたかったからだし、学生時代に大学前の純喫茶に何度か行ったのは、期末試験の一夜漬け(なんしろ授業にでたことがなかった)の復習かたがた目を開けておくためだった。
あとは、気どって名曲喫茶「ライオン」「田園」、ジャズ喫茶にも一二度くらい行ったかな。
こんなにしょっちゅう行くようになったのは、コロナ禍以降、引きこもりで散歩とクリニック通いに明け暮れるようになってからだな。
本を読むのに気分を変えたい、それに喫茶店の方が集中して読めるのだ。

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というわけで、昨日も等々力から尾山台にむかって歩いているとちゅうで、カフエに入った。
コロンビア産のデカフエ、コーヒーの味なんてわからないと書いたが、これはうまかった。
カップなんかどうでもいいようなことも書いたけど、これも良かった。
欲をいえば持ち手があったほうが、年寄りには飲みやすいと思ったが、それほど熱くなかったせいもあり、片手で包んでもてたから、見た目の方を取って良しとしよう。

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喫茶店で、表紙の写真とおなじようにして、喫茶店文学の本を読む、ってなんだか入れ子の世界みたいだ。
店の片隅に、喫茶店関係の本や雑誌がおいてあったけれど、これはなかった。

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小野十三郎の「大阪の道すじ」。
いつも同じように道に迷う夢をみて、そこには決まって見たこともない神殿が現れるという。
僕も、しょっちゅう見るのが、立派な旅館、山、鉄道、どこと特定できないけれど、それぞれとても懐かしい風景で、そこを迷う夢だ、トイレを探しているときは尿意を催している。

小野は若い頃から喫茶店を利用していて、喫茶店の名前で人生の画期ができる、本郷白山上の「南天堂」時代、大森の「白蛾」時代、大阪南の「創元」時代、そして一番長く今も続いている、法善寺の「ルル」時代だそうで、それぞれの店における交友で人生の一部が描けるようだ。
自他ともに許す「サテン文化人」だ。
大体、土着型というか、悪くいえば、ものぐさなやつが多い大阪からも、小田実や開高健のような行動的な作家が出ている。現代のそういう作家から見れば、さしずめ私などは小心翼々、夢を持たぬ退屈な人間だということになるだろうが、喫茶店通いぐらいがせい一杯の狭い行動圏の中で、いつもと同じ道をいつもと同じように歩いている者にも、又それで、旅行者や、大行動圏に飛び立つ者には窺知できない願望があって、本人ははたが想像するほど退屈していない。
(略)
大阪が庶民の町といわれる所以には、この動かぬ(傍点)ということ、平々凡々たる日常に徹するということが一つあるように思う。私など、その中にあって、いくらか放浪癖も持っている人間だから、その意味で、生粋の大阪庶民だとはいえない。庶民は決して放浪もしないし、知恵や経験を他の地に求めたりはしないのである。もちろん、空想や夢の世界に遊んだりすることはない。いささかでも脱日常の想いに駆られたら、その時点で、私はもう大阪庶民の一人ではないという気がするほど、大阪は現実的で、物の考え方も感じ方も即日常に徹している。
大阪に住むようになって親しく交わるようになった、藤沢恒夫、武田麟太郎、織田作之助たちは、みな共通してものぐさだ、という。

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「彷徨いの街 大阪」、店においてあった写真展の案内。
さて、ほんとの大阪はどうなんだろう。

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店を出て駅前の市場で、本日の特売「塩釜のマグロ刺身」を買って帰った。

Commented by koro49 at 2024-05-16 13:13
私もカフェ、喫茶店で本が読みたいと時々思います。
海辺のカフェ、喫茶店があればといつも思っているのですが、無いのが残念。
家の中もいいけど、あれこれ仕事が目に付くので^^;
図書館があるので良しとしていますが、今はアリさんの働きが忙しくしいのです。
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-16 17:20
> koro49さん、家の中はビデオの映画も苦手です。集中できませんね。非日常的な空間が本の内容に入っていきやすいです。
他にやることがないというのもいいな。
Commented by otebox at 2024-05-16 22:43
茶店の持つリベラルな関係が好きでいつも入り浸っていた。マスターや常連が醸す空気で会うかあわないかすぐ分かる。現実から逃げているわけではなかったが、全く素の自分で勝負できるのが嬉しかった。
僕の感性の大部分は職業や地域社会のしがらみじゃなく、この自由な人間関係から得たものであった。
他人のことはいざ知らず、茶店は自由に呼吸するハウツーの先生だった。ありがとう茶店文化。
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-17 08:45
> oteboxさん、そんなサテンは人生の宝物ですね。
羨ましいです。
店だけじゃなくて、そこに自由を見つけて生き生きと活躍するOTEさんの人柄!
Commented by nanamin_3 at 2024-05-17 09:21
本を持って、ぼーっとできるところを私も欲しいです。
うちの近所は住宅街の真っただ中なので、サテンはおろか、スタバもありません。
素敵な古本屋が喫茶店なんかも営業してくれると嬉しいなぁ、と思うんですが。
そういう意味じゃ、神保町とか本郷とか、街全体がそんな雰囲気ですね。
こっちでもそういう場所をそのうち探してみたいと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-17 11:47
> nanamin_3さん、古本屋と喫茶店は相性がありますね。
経営する方は大変かな、見つかるといいですね。
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by saheizi-inokori | 2024-05-16 11:40 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori