ユーガとフーガ

この間「優雅ですね」というコメントをいただいた。
え?俺が!?
驚いて、でも僕のブログを見ていると、うまそうな和菓子を食って、バッハを聴いて、散歩に行ってカフエに入る。
たしかにこれを客観的にみたら、優雅ですね、とちょっと冷やかし気味に言ってみたくもなるのも不思議じゃないな。
うわべはそう見えるかもしれないけれど、内実は心静かになるなんてこととはほど遠く、いつもガサゴソ、落ち着きもなく、うろつき回っているのだ。
そもそも、生まれも育ちも貧乏暮らし、ガサツの国からガサツを広めにやってきたような男だ。
といいながら、けさもカミさんが出してくれる、叶匠寿庵の「蓬餅」をほおばって蓬の香りに遠い田舎をおもうているなんざ、やはりユーガともみえないことはないかもしれない。

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優しく雅、やはり僕の本質には皆無だ。
新明解に訊ねてみよう。

ゆうが【優雅】①行動に節度が有って、上品な様子だ。⇔粗野
粗野と並べられたら圧倒的に粗野に近い、いや粗野そのものだな。
上品とか節度のありそうに見える人、セレブな方などとご一緒すると、場違いなところに引っ張り出されたようで、自分を見失ってしまい、オドオドしたり必要以上に胸を張ってみせたりもする。
そして、ここが僕のイヤらしいところで、そういう上品な方に「お」をつけてお上品でいらっしゃること、と内心軽蔑したりもするのだ。
志賀直哉に逆恨みをぶつける「如是我聞」の太宰治的ヒガミなのだ。

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(僕は「お」洗濯などしない、無料で洗濯をする)

新明解さんは、②を用意している。
② ゆとりが有って(悠然としているように見えて)、うらやましく感じられる様子だ。「ーな生活」

これだね、年金暮らしの隠居が、ほかにすることもなく、図書館から借りた本を読み、ラジオや昔買ったCDを聞いて時間を過ごし、運動不足を解消するために散歩をし、時に誘惑に負けてカフエに飛び込む、それが、近所の床屋もいうように「悠々としていらっしゃって」「うらやましく」見えるのだ。

してみると、僕が優雅に見える人たちも、そう見えるだけで内実は粗野なのかもしれない。

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かつての国鉄総裁、石田礼助の「粗にして野だが卑ではない」という言葉を想う。
優雅に見えなくてもいい、粗野でいい、でも決して卑になってはいけない。
それこそ、ほんとうに至難の道だ、日暮れて道遠しだなあ。

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「「無伴奏チェロ組曲」を求めて バッハ、カザルス、そして現代」(エリック・シブリン)読了。
クラシック門外漢にも面白く読めて、なんだかバッハが、カザルスが親しく感じられる。
子だくさんのバッハ、自分の名前を曲の中に埋め込んだ。
六十歳もはなれたマルタと結婚したカザルス。

ジャーナリストの筆者も、スペインのカザルスの別荘のあったところで、ローレンス・レッサーの弾くチェロ組曲を聴くまでは、この曲のことも知らない、ポップスの評論家だった。
曲を聴き、ローレンスが、この曲のバッハ自筆の譜面がないこと、バッハが作曲してのち、二百年もの間埋もれて、練習曲の集まりだと認識されていたのを、若きカザルスが偶然発見した譜面に命を吹き込むことで、チェロ組曲は、クラシック最高の名曲となったこと、などを話すのを聞きこの曲の秘めた物語を知りたくなったのだ。

バッハとカザルスと筆者の探求の旅が交互に奏でられる、楽しい読み物でもある。
エリック・シブリンの驚くべき探求心(自らチェロを習い、チェロ組曲に挑戦もする)に敬意を表したい。

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我が家にもあるはずのチェロ組曲を、やっとみつけた。
何でもいいからバッハのものだけを取り出してみようと思ってガサゴソやっていたら、出て来たのは、ロストロポーヴィチのではなくて、アンナ―・ビルスマ。
さっそく第一番から第三番まで聴いてみたら、カザルスの演奏とはずいぶん違って、透明というか、すっきりした、いかにも一つの楽器から聞こえてくるような印象、カザルスのはまるで合奏のようにいろんな音が重なり合って、複雑多様な世界・宇宙を表現しているようなのだ。

CDを整理していたら、その副効果で、探していたマーラー「大地の歌」、カレーラス「鳥の歌」も出て来た。
「大地の歌」は、はじめてCDの聞けるオーディオを秋葉原で買ったときに景品としてもらってきたもの。
帰宅して、さっそくかけたときに、亡妻も「すごい!いい音」と喜んだのが昨日のことのようだ。
バッハのチェロの「鳥の歌」は家にはなかった。

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貧しく、就活に必死だったけど意にそまないと喧嘩早かったバッハ、生前は無名のままで、むしろ息子の方が有名だった。
フランコ政権を支持する国には足を踏み入れないと、大枚を積まれて招待されても肯んじなかったカザルス。
彼らこそ、粗野に見えても卑しくないだけでなく、言動に節度をもった本当の「優雅」な生き方だった。

翻訳・武藤剛史
白水社

Commented by unjaku at 2024-05-13 16:33
あら・・・私はsaheijiさんは、熱くって傍へ行って余計なことを言うと
やけどしそうで怖いお方と思っていました。
でも、バッハがお好きなんですもの。教養人でいらっしゃいます。
私は、音に弱くて、全然曲を覚えられないのです。

それは父と母のせいで、貧乏人には必要ないと、ぼろくそ言われて育ったからです。
なので、私は粗野でガサツです。
Commented by hanarenge2 at 2024-05-13 18:07
ガサツの国からガサツを広めに・・・・で思わずあははと^^

蓬餅 いいですねえ 

母が手摘みした蓬で ついたお餅はほんのりと塩味で 蓬の香りと色が本当に食欲をそそりました
うちはあんこ入りは作りませんでした

今でもあんこの入っていないのがあると真っ先に求めます

「粗にして野だが卑ではない」

今は華美軽薄で卑の政治屋が増えました 与野党問わず
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-13 18:34
> unjakuさん、平熱6度5分です。歳の割に高いかな。
私もレコードを初めて買ったのは高校時代、ラジオにプレーヤーをつないで聴きました。
特別奨学金を貯めて買いました。
粗野でガサツ、もしそうなら同士ですね。ガサツ連盟粗野本部。
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-13 18:48
> hanarenge2さん、売っている草餅は、色だけで味や香りの感じられないものも少なくないように思いますが、これはしっかり蓬でした。
ヒトのカネで贅沢三昧を当たり前と考える政治屋を撲滅したいです。
Commented by daikatoti at 2024-05-14 10:08
草餅の乗ってるお皿、前にも出てた事ありますよね。
何かの記念品か何かでしょうか。どうもこういうのが好きなもので気になります。
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-14 13:10
> daikatotiさん、さあ、カミさんがとっかえひっかえ、どこでどうしたかは知りません。
Commented by etinarcadiareni at 2024-05-15 01:28
横レス失礼します。

daikatoti様

ロイヤルコペンハーゲンの器ですよね。
私も気になっていました。

詳しくはわからないながら、
バックスタンプを表にして大きくしたデザイン。
使い勝手が良さそうです。

無粋なコメント失礼しました💦
Commented by saheizi-inokori at 2024-05-15 09:38
> etinarcadiareniさん、今訊いてきました。
カミさんが友人からプレゼントされたもののようです。
私には「猫の皿」です。
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by saheizi-inokori | 2024-05-13 11:45 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori