人生のエンドロール

五月晴れというにはちょっと早いかもしれないが、気持のよい青空だ。
しかも世の中は連休とやらで、テレビには家族連れの映像が多い。
こういう日に脳裏に浮かぶのは、会津から千葉へ転勤したときの、小さなおんぼろ平屋の社宅の庭。
子供が二人以上でなければ、新しいコンクリ4階建ての宿舎に入居資格はないというので、お腹の中に下の子はいたけれど、壊す直前の宿舎に入った。
土の庭があるのが嬉しくて、下駄をつっかけて、赤んぼの長男を抱いて出て、高い高いをした。
洗濯物がさわやかな風にはためいて、赤ちゃんの笑い声がして、それを妻がほほ笑んで見守り、塀のきわにはタンポポが咲いていた。
小さな鯉のぼりも立てていた。
僕の人生のエンドロールには必須の情景だ。

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あれからすぐに娘が生れて、近接する新築の宿舎に移って、四年ほど住んだ。
横浜に引っ越すときは、同じ階段の人たちに送別会をやってもらい、泣いて別れた。
何年もたってから、千葉に行くことがあると、ちょっと寄り道をして玄関口で一言二言挨拶を交わしてくることも何度かあった。
我ながら、あの快活さ、人懐っこさはまるで別人のよう、いったいいつからどこにいってしまったのだろうか。

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きのう早まって本の写真をアップしながら、記事の内容は藤本和子のシオニズムについての話になってしまった。
イスラエルのガザに対する残虐で執拗な攻撃のことが気になってのことでもあったのだが、昨日夜のNHKテレビでは、スーダンの内戦による救いのない悲惨な状況も教えられた。

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12の短編のうち、三つ読んだ。

「セル・ワン」
ナイジェリアのスッカの大学教授を父に持つ兄の非行、それを甘やかす母を、冷静な目で妹が語る。
筆者の実体験も投影されているのかもしれない。
若者(学生も)のカルト集団の暴力、賄賂が必須の警察や汚い監房、、この作家の描くアフリカの後進性と一部の現代性が不思議な世界をつくる。
一本筋の通ったヒューマニズムがここちよい。

「イミテーション」
米国とナイジェリアで事業を展開する裕福な夫、彼はナイジェリアに住み、彼女はアメリカで夫が見つけてきたナイジェリア人のハウスキーパーと暮らす。
夫が別の女を家に引っ張りこんでいると(おせっかいな)友だちから嬉しそうに教えられる。
そのあとの、ハウスキーパーとのやりとりなどが巧みに描かれる。
彼女は、ナイジェリアに戻って問題(夫)と正対することを決意する。
「アメリカーナ」にも描かれた、成功したアメリカーナがナイジェリアに戻るモチーフだ。

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「ひそかな経験」
イスラム教徒とキリスト教徒、ハウサ民族とイボ民族の争いはナイジェリアの宿痾なのか。
暴動のなかで、イボ人キリスト教徒の医学生主人公は姉とはぐれ、イスラム教徒でハウサ民族の女に救われる。
フラッシュフォワードの手法で、あとで起る重要な事実が挿入されるのが、切実な今の状況の悲劇性を高める。

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どれも、無駄のないきびきびした文章で、登場する人物や状況・背景をリアルに描き出す。

Commented by 20070707open at 2024-04-28 20:07
saheiziさんの千葉へ転勤したころの情景の描写がまるで映画のワンシーンのように浮かんで心に響きました。
そういう思い出を作り心に留め置くために人は生まれてくるのかもしれませんね。。。
Commented by saheizi-inokori at 2024-04-29 10:37
> 20070707openさんの場合は、どんな光景でしょうっか?
Mさんと一緒に海岸でお握りを食べているところ?
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by saheizi-inokori | 2024-04-28 12:13 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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