慈善という贅沢

ナイジェリアの女性作家・チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの「アメリカーナ」を読みつづけている。

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イフェメルはタクシーに乗りこむ時に、運転手がナイジェリア人でないことを祈るのだ。
ナイジェリア人の運転手なら、彼女の訛りを聞くと、喧嘩でも吹っかけるみたいに、自分は修士号取得者でタクシーはあくまで副業、娘がラトガース大学で学部長から表彰を受けたといいたがるだろう。あるいはむっつりと不機嫌に車を走らせて、おつりを手渡しながら彼女の「ありがとう」を無視する。そうやって同国人の看護師か経理士か医者か知らないが、こんな小娘に見下される屈辱をなだめるのだ。アメリカにいるナイジェリア人のタクシー運転手は全員、自分は本当はタクシー運転手ではないと思い込んでいた。
アメリカ人とおなじような英語をしゃべることは、難しいけれど憧れだった。
しかし、ある日「訛りがなくてアメリカ人の英語のようだ」と褒められたときに、イフェメルは、アメリカ人とおなじように話すことで褒められるということに違和感を覚えて、元のナイジェリア人の訛りで話すことにしたのだ。

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(きのうのランチ「タイカレー」byカミさん)

ウジュおばさんが、まだナイジェリアにいて将軍の妾だった頃、ラゴスのヘアサロンでスタッフたちが寄ってたかってひれ伏すように挨拶し、ハンドバッグや靴を褒めちらすのを見たイフェメルが、「あの女たち、いまにもおばさんに両手を差し出して、拝むためのうんこをそこにどうぞっていい出しそうだったね」というと、彼女は吹き出してから、
いい、私たちはごますり経済のなかで生きてるの。この国の最大の問題は腐敗じゃないわね。問題は、多くの有能な人がごまをすらないために、本来いるべきではない場所にいることよ。あるいはだれにごまをすればいいかわからないか、ごまのすり方を知らないためにね。わたしはラッキーなことに正しいやつにごまをすってる。
といった。
しかし、将軍が死んだら、その親族たちが押しかけてきて、家財からなにから奪おうとしたので、彼女はアメリカに脱出して、医師になるために辛酸をなめることになる。
将軍は彼女の望むものはなんでも与えたが、彼女自身の口座に金を振り込むことだけはしなかったのだ。

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アメリカに渡ったイフェメルは、アルバイト先が見つからず、下宿を追い出されそうになったときに、それまで考えもしなかった「リラックスさせる」という仕事を引き受ける。
添い寝をして触らせるのだ。
百ドルもらったあと、嫌悪感から引きこもりになってしまう。
最愛のオビンゼからのメールに答えることも出来なくなって、アドレスまで変えてしまう。

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ようやくベビーシッターの口が決まり、そこでアッパーミドルクラスのアメリカ人たちを知る。
みんなとてもよく似た人たちで、気のきいた無難な服を着て、気のきいた無難なユーモアのセンスの持ち主で、「すばらしい(ワンダフル)という語をやたらに口にした。
彼らは、アフリカのいろんなところに寄付をしたことを話しあう。
イフェメルは彼らをじっと見つめた。そこには慈善事業に対するある種の贅沢があった。自分には共感できないし、もつこともない贅沢だ。「慈善」を当然のものと見なすこと、知りもしない人向けの慈善にふけること――ひょっとするとそれは、昨日もっていて、今日ももっていて、当然のこととして明日ももちつづけることから来ているのかもしれない。イフェメルは彼らのそこが羨ましかった。(中略)
イフェメルは突然、無性に、受け取る国ではなくてあたえる国に生まれたかったと思った。もてる者であるがゆえに、あたえたという恩恵に浴することのできる人間だったらいいのに、あふれんばかりの同情と共感をもつことができる側の人間だったらいいのにと思った。
まだ半分しか読んでない、まだ半分も残っている。

おまけ、僕も同感。


Commented by etinarcadiareni at 2024-04-11 16:51
>あたえたという恩恵に浴することが出来る
という部分、あるなぁ。。と思いました。
丁度、色々、自分の想いを見つめ直している所でした。

渋谷は、確か、若者の街から、大人の街にしたくて新しくしていたのだった気がするので、当初の目的通り?かもしれません。

綺麗になった宮下公園の手前に、ポツネンと残されたのんべい横丁が、残っていて嬉しいけど、寂しかったです。
Commented by Solar18 at 2024-04-11 17:18
この本、私も10年ぐらい前に読んで、強烈な印象を受けました。外から来た人だからこそ見えることというのがあるのだと知りました。
渋谷、変わっちゃったのですか。
Commented by saheizi-inokori at 2024-04-11 17:59
> etinarcadiareniさん、63年前に彷徨った渋谷、百軒店や恋文横丁、大盛堂、パウリスタ、こけし(お好み焼き)、、とても懐かしい。
Commented by saheizi-inokori at 2024-04-11 18:07
> Solar18さん、知性豊かなナイジェリアの女性、とても鋭い観察を歯に衣着せずに、かつ機知に富む文章は、アメリカ社会をグイグイと抉ります。アメリカ人だけでなく人間図鑑のようにさまざまな人間の生態や本質をも活写しますね。
Commented by stefanlily at 2024-04-12 06:31
おはようございます
面白そうな本ですね!
アメリカのアッパーミドルクラス…米軍のofficer's wives clubというのがあるんですが、夫の出世の為に奉仕活動するんだとか。帰国した友人が保護猫犬活動に参加してたけど、彼女の夫が上官ではないからか、奥様方に召使いのように扱われてたんですね…意外とアメリカのほうが同調圧力多いぽいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2024-04-12 08:37
> stefanlilyさん、>あめりかのほうが、
ともいえないかな。
日本型経営においての家族会などもかなりなものでした。
警察幹部の家族会も亡妻は経験しました。

Commented by takoomesan at 2024-04-13 10:01
面白そうな本だな〜 ありがとう!
Commented by saheizi-inokori at 2024-04-13 15:02
> takoomesanさん、そちらにもあるかも。
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by saheizi-inokori | 2024-04-11 11:46 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori