白鶴亮翅~白鶴が翼をひろげる

夕方の公園、誰もいないかと思ったら、どこからか可愛い「もういいよ」の声。

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かくれんぼは永遠なり、か。
いくら呼んでも探しにこないときの、不安な気持ちを思いだした。

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なにかの楽器のような、アーモンドのような月がずっとついてきてくれた。

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多和田葉子の新刊が図書館の順番がきたので、さっそく読んだ。
ドイツに行きたくてドイツ留学の男と結婚して、そのまま離婚してベルリンに住むわたし・美砂が貸家に引っ越すところから始まる。

隣りに住む老人・Mは東プロイセンから追われてきたドイツ人、ゲイのパートナーは自らを、同化して消えた民族・プルーセン人の血を引いていると信じて、その謎をおいかけてあちこちを彷徨っている。
戦後ポーランドでドイツ人として差別され、西ドイツに逃げてからはポーランド人として差別されたので、スラブ人もゲルマン人もいやになってプルーセン人だと主張し始めたのだ。
読んだばかりのハザール人のことや国籍を持てない在日朝鮮人のことなどを思いつつ読む。

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ひとや物ごとに、積極的にアプローチするのをためらう美砂だが、Mとは波長が合って、誘われて太極拳の学校に通う。
そこで知り合う女性たち、英語教師をしているフイリピン人、「グリムの森通り」でお菓子屋をしているドイツ人、富豪のロシア人未亡人、中国人の太極拳教師、歯医者などとの更衣室での会話、そこからのちょっとした冒険が淡々と語られる。

関西の友人からもらい受けたので、へんな関西弁をはなすCD再生装置など家電と話しながら、美砂は仕事の実用書の翻訳の傍ら、趣味でクライストの「ロカルノの女乞食」を訳している。
音だけの幽霊が出てくる話なのだ。
太極拳仲間との冒険には、幽霊や昔話などがモチーフとなるのだ。
留学時代の友人カップルは映画「楢山節考」を見て、日本の国民性は残酷だというけれど、すなおには頷けない美砂。

Mとの戦死者数をめぐる、まやかしの話から、中国人教師の出身地が満州の長春であること、日本の傀儡政権のこと、民族ってあるのだろうか。

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新聞に連載されたらしく、説明の繰り返しがあったりするが、読みやすく、お得意の言葉遊びもたんとでてくる楽しいエッセイを集めたような小説だ。

白鶴亮翅(はっかくりょうし)は太極拳の技、呼吸と意識のコントロールなど、むかし自己流でずいぶん長いこと続けていた気功を思いだして、なんで止めちゃったのか、そうか亡妻の病気だったなあ。

目の前の敵から身を守り、身体を正しく保つことで、健康を守る。
人はそれぞれ偏見する無知から自分を守ること、と多和田はいうのだろうか。



Commented by テイク25 at 2023-10-26 11:14 x
読みたいけれど新刊じゃあわが町の図書館にはないだろうなあと思いつつ検索したら、ちゃ~んとあって貸し出し可能でした。中々こういうことはないのですが、今回はラッキーでした。
ご紹介有難うございます。

先日半月だと思って眺めた月がアーモンドになっているのですね。今夕確認します。
Commented by saheizi-inokori at 2023-10-26 12:22
> テイク25さん、申し込んで何ヶ月か待ちました。それでさつさと読みました。
Commented by jyariko-2 at 2023-10-26 16:08
十三夜を豆月夜と言うんですって
アーモンド ピッタリですね
Commented by saheizi-inokori at 2023-10-26 17:37
> jyariko-2さん、アーモンドが穫れるのはいつでしょうね。
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by saheizi-inokori | 2023-10-26 10:53 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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