夜があける

5時40分、部屋を出て海岸にいく。

さつきまで赤みを帯びていた雲がオレンジ色に変わって、いよいよおでましだ、お天道様のおでましだ。

智恵子と戯れた千鳥はいない。

一組のカップルが肩をよせあっている。

沖合いには漁船だろうか、一隻二隻。

蜃気楼が観測されるというこの海、水平線の上のモクモクはそれなのか。

黄金のきらめきをあますところなく、見届けてからだのなかにとりこもう。

大きく息を吸う。

からだの隅々まで浄化されていく。

ここからは見えないという銚子から太東岬までながーい海岸線。

その内側は僕の人生を彩るさまざまな人や物語の故郷。

それらにあまねく温かい日差しを届けようと、今しも力強くも、ゆったりと、上りつつあるお天道様。

ありがとう!

やがて生まれいでたお日様は、すっかりその姿を現し、ぐいぐいと高みをめざす。

僕には見えないけれど、砂のなかの生きものたちも動きだしているのだろう。

僕はきびすをかえす。

鬼無里会の仲間たちは、それぞれ部屋のなかからご来光を仰いでいるのか、それとも昨夜、僕が引き上げてからも呑みつづけて、まだうまいを貪っているのか、横着にして愛おしい仲間たち。

待宵草が、デイゴが、ワンちゃんが、僕を迎える。

さあ、きようが始まった。

海を眺めながら、盛りだくさんの朝飯を食べる。

朝風呂にも入ろう。

風呂からみた海にはサーファーたちの影がゆらいでいた。