ゆたけき秋

土曜日の大掃除、ＦＭラジオが後押ししてくれる。
ベランダで窓拭きをするときは携帯ラジオを窓際まで持っていく。
なつかしいマンドリンの調べ。



何枚も重ねて置いてある絵の額の埃をはらっていると、訴えかけた一枚。

１９５１年　春日清彦とある。
遺作コピーを絵葉書大にしたものを飾ったのだ。
あの頃の近所の仲良し家族のお父さん、信州大学で美術を教えていて、早世された。
いっしょに絵を描きにつれていってくれたこともある、温和そのもののおじさんだった。
画題は「家族」、後ろ姿の女はもしかすると亡母かもしれない。
貧しくても、いや貧しいから、みんな助け合って、学びあって、楽しんで、いい付き合いだった。

試みに、名前を検索してみたら、「地の塩の画家　春日清彦展」というのがヒットして、その最初にこの絵が載っている。
遺された奥さんが、苦労して開いた遺作展なのに、僕は見にいかなかったことが、今頃悔やまれる。
亡母を心の友としてくれた、春日さんのおばさんも、もうとっくにいないのだ。

パット・バーカー「女たちの沈黙」を読み始めた。
トロイヤ戦争で、ギリシャ軍に滅ぼされたリュルネソスの王妃・ブリセイスが、敵将・アキレウスの奴隷となっての物語。
良くできた歴史映画を見るような、迫力のある場面とブリセウスの心理描写に一気に惹きこまれる。

その前に手に取った、坪内祐三編「明治文學遊學案内」も、とても面白いけれど、こちらは僕の本だから後回しにして、図書館から借りたギリシャ神話派生の歴史小説を読もう、いそいそ。

後回しにした罪滅ぼしに、「明治文學遊學案内」のなかの「明治の作家は、ダイナミックで、しょっちゅう喧嘩していて、」と題した嵐山光三郎の文章から、ひとふし。

鉄幹が主宰した雑誌「明星」からは、白秋、啄木、吉井勇、杢太郎らが出て、白秋や啄木は鉄幹に連れられて観潮楼へ行った。白秋は鉄幹に盗作されたのを怒り鉄幹のもとから逃げた。鷗外は『青年』『雁』といった小説を書いたけれどもまるで売れなかった。
それに対しロンドン帰りの漱石の本はよく売れた。鷗外はさぞくやしかったろう。漱石に対しても批判があり、秋田雨雀は「時代錯誤の人」だと言い、正宗白鳥は「理屈でこねまわした作物」と断じ、内田魯庵は「ほとんど西洋の新作を読んでいない」とまでけなした。いまでこそ漱石、鷗外と並び称せられるけれども、当時にあっては価値は確定したものではなかった。先輩格の田山花袋は「漱石はどこがいいのかわからない」とまで言い切っている。

このほかに、ゆうべ寝る前にパラパラめくったら、引っ張り込みそうにした木田元「わたしの哲学入門」も待っている。

きのうは、三茶の歯科医にも行ったのだった。

なんだか豊かだなあ。