本当の涅槃 芥川賞受賞「ハンチバック」(市川沙央)
2023年 08月 17日
何百枚あるのだろう。
長い間聞かなかったCDが山のようにある。
本は寄贈したり売ったりしたけれど、CDは処分せずに持ち歩いていたらこんなになった。
可哀そうだから、埃をふいてつぎつぎに聴いている。
なんでこんな曲を買ったのか見当もつかないような、曲名も歌手名も知らない、しかもつまらないのもあるが、あるいっとき毎日のように聴いていたCDは、その頃の日常をも思い出させてくれる。
僕は見たことがないのだが「舞踏会の手帖」という映画があって、古い手帖に記された舞踏会の記録をもとに、昔のダンスのパートナーたちをたずねてあるくというようなストーリーだそうだ。
とっくに亡くなった叔父が、学生の僕にその映画の話をしてくれたときに、なんとしゃれた映画だろう、と思ったことを覚えている。
むかしのダンシングパートナーは、稀にはその美しさに何の変わりもない人もいるだろうが、多くは時と共に老いていくのだろう。
老いて醜くなった人も、人生の真実に目覚めた人もいたのだろう。
むかしのCDが見せてくれるのは、僕が今のようになることを何も知らなかった僕の日々だ。
なんであんなに夢中になっていたのだろう。
もうちょっと辛抱すればよかった。
おお、おお、ようがんばとったやないか。
いろんな感慨が湧いて、くだらない音楽も名曲になる。
きのうは図書館で「文藝春秋 芥川賞受賞作品全文掲載」の、市川沙央「ハンチバック」を読んだ。
まだ持ち出し禁止なので、冷房のきいた図書館に坐って夢中になって読んだ。
ハンチバック、せむし、先天的な疾患・ミオチュブラー・ミオバチーで全身の筋緊張低下、背骨は曲がり、右を見られず、常に痰を吸引器で吸い出さないと命に係わる、気管切開で呼吸し、設計を間違えた身体をもった主人公は作家自身のことでもある。
「お金があって健康がないと、とても清い人生になります」、清い人生を強いられている主人公はコタツ記事に風俗体験談などを書いて得た収入を寄付している。
両親の遺産がいくらあっても死んだら国庫に入ってしまう。
フエミニスト・ディスアビリテイ、岩間五郎、米津和子、モナリザ・スプレー事件、安積遊歩のカイロ演説、インセル、コルバン「身体の歴史」、バリバラ、「愛のテープは違法」事件、スパダリ、ナーロッパ、ヲチャー、プチプラ、、知らない言葉が出てくるたびに、スマホで調べながら、自分の無学無知を思い知る。
たんなる同情や思いやりを求める小説ではない。
人間とは何か、僕の人間理解はいかに偏狭であったかに気付かせる。
「重度身体障碍者」という言葉でステロタイプにくくって理解して事終われりとすることへの強硬な異議申し立てだ。
強烈だが、ユーモアがある、哄笑も。
長い間聞かなかったCDが山のようにある。
本は寄贈したり売ったりしたけれど、CDは処分せずに持ち歩いていたらこんなになった。
可哀そうだから、埃をふいてつぎつぎに聴いている。
なんでこんな曲を買ったのか見当もつかないような、曲名も歌手名も知らない、しかもつまらないのもあるが、あるいっとき毎日のように聴いていたCDは、その頃の日常をも思い出させてくれる。
僕は見たことがないのだが「舞踏会の手帖」という映画があって、古い手帖に記された舞踏会の記録をもとに、昔のダンスのパートナーたちをたずねてあるくというようなストーリーだそうだ。
とっくに亡くなった叔父が、学生の僕にその映画の話をしてくれたときに、なんとしゃれた映画だろう、と思ったことを覚えている。
むかしのダンシングパートナーは、稀にはその美しさに何の変わりもない人もいるだろうが、多くは時と共に老いていくのだろう。
老いて醜くなった人も、人生の真実に目覚めた人もいたのだろう。
むかしのCDが見せてくれるのは、僕が今のようになることを何も知らなかった僕の日々だ。
なんであんなに夢中になっていたのだろう。
もうちょっと辛抱すればよかった。
おお、おお、ようがんばとったやないか。
いろんな感慨が湧いて、くだらない音楽も名曲になる。
きのうは図書館で「文藝春秋 芥川賞受賞作品全文掲載」の、市川沙央「ハンチバック」を読んだ。
まだ持ち出し禁止なので、冷房のきいた図書館に坐って夢中になって読んだ。
ハンチバック、せむし、先天的な疾患・ミオチュブラー・ミオバチーで全身の筋緊張低下、背骨は曲がり、右を見られず、常に痰を吸引器で吸い出さないと命に係わる、気管切開で呼吸し、設計を間違えた身体をもった主人公は作家自身のことでもある。
息苦しい世の中になったというヤフコメ文化人の嘆きを目にするたび「ほんとうの息苦しさも知らないくせに」と思い、
目が見える、本が持てる、ページがめくれる、読書姿勢が保てる、書店に買いに行けるを読書文化のマチズモと断じ、本をめくる時の、紙の匂いがいいなどという「本好き」たちの無知な傲慢を本気で憎悪する。
普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢ですと匿名のSNSに投稿する。
「お金があって健康がないと、とても清い人生になります」、清い人生を強いられている主人公はコタツ記事に風俗体験談などを書いて得た収入を寄付している。
両親の遺産がいくらあっても死んだら国庫に入ってしまう。
フエミニスト・ディスアビリテイ、岩間五郎、米津和子、モナリザ・スプレー事件、安積遊歩のカイロ演説、インセル、コルバン「身体の歴史」、バリバラ、「愛のテープは違法」事件、スパダリ、ナーロッパ、ヲチャー、プチプラ、、知らない言葉が出てくるたびに、スマホで調べながら、自分の無学無知を思い知る。
軟弱を気取る文科系の皆さんが蛇蝎の如く憎むスポーツ界のほうが、よっぽどそのひと隅に障碍者の活躍の場を用意してるじゃないですか重度障碍者の日常のいろいろをみて、
世間の人々は顔を背けて云う。「私なら耐えられない。私なら死を選ぶ」と。考えられなくても、話ができなくても、書くことができなくても、生まれてきた人間は人間なのだ。
だが、それは間違っている。(障碍者の)彼女のように生きること。私はそこにこそ人間の尊厳があると思う。本当の涅槃がそこにある。私はまだそこまで辿り着けない。
たんなる同情や思いやりを求める小説ではない。
人間とは何か、僕の人間理解はいかに偏狭であったかに気付かせる。
「重度身体障碍者」という言葉でステロタイプにくくって理解して事終われりとすることへの強硬な異議申し立てだ。
強烈だが、ユーモアがある、哄笑も。
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dokkkoi at 2023-08-17 13:17
こんにちは。
>本をめくる時の、紙の匂いがいいなどという「本好き」たちの無知な傲慢を本気で憎悪する。
おもいっきりパンチを喰らったような衝撃でした。
自分が見える世界しか知らない無知蒙昧を揶揄され、あざけられ、かたき討ちを食らったような読後感でした。
>本をめくる時の、紙の匂いがいいなどという「本好き」たちの無知な傲慢を本気で憎悪する。
おもいっきりパンチを喰らったような衝撃でした。
自分が見える世界しか知らない無知蒙昧を揶揄され、あざけられ、かたき討ちを食らったような読後感でした。
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saheizi-inokori at 2023-08-17 13:24
> dokkkoiさん、強烈でかえつて気持ちがいいくらいのものでした。
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hanarenge2 at 2023-08-17 20:31
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saheizi-inokori at 2023-08-17 20:50
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k_hankichi at 2023-08-18 06:40
いままで視界のなかに入っていたのに意識して見てこなかった、考えたり気づいたりもしてこなかった。そういう領域、人々も、世界の中でいま僕らと共にある。「ハンチバック」には、ほんとうに目が醒める思いでした。
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saheizi-inokori at 2023-08-18 09:42
> k_hankichiさん、まいにちをもっと真剣に生きなければならないようにも思いました。
若い頃、身体が不自由な人たちとともに温泉に入って、彼らのようすをみて感じたことをいまさらのように思い出しました。
若い頃、身体が不自由な人たちとともに温泉に入って、彼らのようすをみて感じたことをいまさらのように思い出しました。
by saheizi-inokori
| 2023-08-17 12:04
| 今週の1冊、又は2・3冊
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