臍はどこで噛むの?

梅雨明けだからって、そんなにむきにならなくても、というような青空、あさから肌を刺す日ざし。
タオルケットとシーツなどを洗って干す。

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どなたに勧められたのかを忘れてしまったが、木内昇「万波を翔ける」を読み始めた。

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幕末に生きる下級幕臣の次男坊の物語、700頁近い長編だ。
長いってことは、いつまでも楽しみが続くということ。
ただし出来が良ければだ。
ところが、冒頭の四行目でひっかかってしまった。
強く地面を蹴って、前のめりに進んでいく。総身にまとわりついてくる梅雨時の湿気を払うようにして足を速める。股立ちをとっているせいで露わになったふくらはぎを、最前から小石がしきりと打っていた。横着せずに脚絆を巻きゃあよかったな、と田辺太一は腹の中で臍を噛む。
安政五年、長崎の海軍伝習所で航海学や兵学を学んで、それまでの攘夷の考え方を一変した主人公が、江戸の兄から出仕の話がきたというので欣喜雀躍、江戸本郷の兄の家を目指している。
この文章のどこにひっかかったのか。

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「腹の中で臍を噛む」
臍を噛む:へそを噛むなんて出来っこない。取り返しのつかないことは悔やむことしかできないことから、後悔する意味のたとえとして「臍を噛む」と言う。

「後悔する」なら、腹の中でと言っても、顔や口に出さずという意味もあるから、まあおかしくはない。
でも「臍を噛む」と言うと、「腹の中で」は不自然で違和感がありはしないか。
つまらないことに引っかかってしまったのだ。

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むかし、山崎豊子の「沈まぬ太陽」が、JALをモデルにして、大きな組織の中で正義を追及し、そのことで疎んじられて左遷される男の話だというので、これは面白そうだ、と読み始めたが、百ページあたりで、ギブアップしてしまった。
文章が拙く、ストーリーが陳腐、人物描写や設定が、あまりにも類型的で高校生の作文か紙芝居、下手な劇画のような感じがして、不愉快になってしまったのだ。

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一瞬、あの小説を思いだしたけれど、もう少しもう少しと読むうちに、主人公の漫画チック(緊張すると上司の前で落語の語り口になったり、心配すると貧乏ゆすりが始まる、率直で、積極的かつ明朗)な性格や、諸外国との条約締結業務に携わるために新設された外国局勤務を命じられて気難しい水野忠徳に仕えるという、このところ続けて読んでいる幕末の話の、まったく新しい視点からの話の面白さに引き込まれてしまった。
長いの結構毛だらけ猫灰だらけ、腹の中だろうが外だろうが、臍を噛むことはなさそうだ。

Commented by byogakudo at 2023-07-23 21:58
たぶん面白い小説と思われますが、「腹の中で臍を噛む」を目にしたら、
わたしも引っかかると思います。編集者は著者に何も言わないのでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-24 08:16
> byogakudoさん、そうですよね。校正もなかったのかなあ。
その後もまたひっかかる所が出てきました。
Commented by stefanlily at 2023-07-24 08:55
こんにちは、
海軍伝習所というと師匠は高島秋帆かな?
長崎の電停で終点の…正覚寺の
近くに屋敷跡があります。
山崎豊子は松本清張の多作を疑ってタイプライター(秘書が代作してる)呼ばわりしたんでしたっけ。失礼な。
私は有吉佐和子を遥かに高く評価してますから(比べるのも失礼か)、世の中の評価に怒りです。

東京は暑そうですので、お気をつけて
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-24 10:37
> stefanlilyさん、勝海舟が師匠になるのかな。
山崎豊子は、贋作の宝庫らしく、それを暴露した厚い本もあります。
前に持つていたけど、半分読んで処分しました。
Commented by tanatali3 at 2023-07-24 21:51
毎日遊び惚けてご無沙汰しております。「臍を嚙む」の手厳しい指摘になるほどと納得しつつ、奇しくも山崎豊子の「二つの祖国」が、現在制作中のビデオの過程で当時訴訟問題引き起こしたことを知り、小説家の本分とはなんぞやなどと考えてしまいました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-24 22:10
> stefanlilyさん、贋作ではなく盗作でした。
瀬戸内寂聴は山崎を盗作の病気とも言った由。
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-24 22:13
> tanatali3さん、盗作の常習犯と言われたのですね。
小説家を芸術家の一員と考える私は、自分の文章を書かない作家は認められません。
Commented by tona at 2023-07-26 09:51 x
そういえば考えたことないですが、臍を噛むなんて難しいですよね。
何処で噛むか考えたことないです。面白いところに引っ掛かりましたね。
お腹でなく、頭の中で噛むのでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-26 11:03
> tonaさん、覆水盆に返らず、すんだことを後悔しても何ともならない、不可能なことが臍を噛むに似たりということらしいです。
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by saheizi-inokori | 2023-07-23 11:52 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(9)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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