太宰のせい

きのう、明日は土曜日、大掃除だなあと思ったら、金曜日だった。
どうりでFMでオペラをやらなかった(番組変更かと思った)。
きのうはいちにち儲けたような気がして、酒もすこし余計に飲んだのだが、今朝洗濯など終えて、こうしていると、いっそ今日やっちゃった方がよかったような気もする。
大掃除のすんだあとの心地よさがいちにち延びてしまったようだ。
大掃除は、部屋をきれいにする快感もあるが、終わった後の快感もあるということだ。
つまらないことを、、年をとるということはこういうことなのだ。

太宰のせい_e0016828_11532785.jpg

今朝の東京新聞もマイナカード問題を一面に。

太宰のせい_e0016828_11541215.jpg

きのうテレビで世田谷区長も、いちど停止してしっかり見直すべきだ、なんでこんなに急ぐのかと異議を唱えていた。
岸田の最側近とされる木原誠二官房副長官が、不倫をして隠し子もできたのに、相手側からの養育費の要求にもこたえていない、という文春砲。
不倫については松野官房長官が、事実を否定せず、「プライベートな事なので政府としては何もしない」と答えたが、シングルマザーへの養育費補助に積極性を見せる岸田政権の方針には反する行為だ。
こういうもろもろが、政府に対する不信を助長するのだ。
厳しいことをいっても、それが信頼できる人の言葉なら受け入れる人は多いと思う。

太宰のせい_e0016828_11552272.jpg

「男性作家が選ぶ太宰治」の残りを読んだ。
中村文則は「渡り鳥」を、その文章・文体を激賞する。
「太宰の語り口は天才的で、この作品はその見事さがより凝縮し表現されている」「太宰はこれを書いている時、内容とは裏腹に心地よい熱を感じていたのではないか」。
幇間のような編集者のいやらしさ、哀れさ、滑稽さを、なるほど完璧にスケッチしている。
本作に限らないが、たいていの主人公は太宰自身の投影だ。

太宰のせい_e0016828_11562561.jpg

堀江敏幸は「富嶽百景」。
たしか中学か高校のときに読んだのだから、何もわからずに、ただ「富士には月見草がよく似合う」という言葉の出てくる小説として読んだのではなかったか。
今読むと、明るい文章の根っこにちりちりした焦燥を感じ、それを乗りこえようとする日々に率直で美しいものを感得して、前に進む、この太宰なら死ぬことはなかったのに、と思う。
堀江の言葉も面白い。
注文通りの富士の美しさから遠ざかろうとして「私」は逆に、その絵柄の非凡さを再認識します。小刻みに震える語りの言葉は、非凡が平凡の拍を変えた詐術であることを気持ちよく暴き、鋭角の言葉で描かれた鈍角の幸せのありかを教えてくれるでしょう。(略)
「富嶽百景」は、不思議な明るさに包まれた怯えの百面相なのです。
「鋭角の言葉で描かれた鈍角の幸せ」「怯えの百面相」、うまいことをいうなあ。

太宰のせい_e0016828_11581733.jpg

町田康は「饗応夫人」、「そんな奴おらんやろ。というような人が実は世のなかに沢山いて、実はそんな人がこの世のバックグラウンドで作動するからこの世が成り立っている」。
そんな奴(夫人)の、切なく滑稽な噺。

松浦寿輝は「彼は昔の彼ならず」。
三島由紀夫が稲垣足穂について、「男性というものの秘密」を知っている作家と評したが、三島があんなに嫌っていた太宰治も、実はその「秘密」を共有していたような気がわたしにはしないでもない。「晩年」収載の短編はどれも良いが、ここでは太宰的な「男」の滑稽と哀切が見事な文体で活写された「彼は昔の彼ならず」を選んでおく。
貸家を持つ資産家もけっこう気苦労が多そうだと思わせる、ずうずうしい店子と大家の話。
敷金の約束などどこへやら、五円の蕎麦屋の切手を持ってきたので、それを返しに行って引きずり込まれる。
僕もしたたかに酔ったようであった。とうとう、僕は懐中の切手を出し、それでもってお蕎麦屋から酒をとどけさせたのである。そうして僕たちは更にのんだのである。ひとと始めて知り合ったときのあの浮気に似たときめきが、ふたりを気張らせ、無智な雄弁によってもっともっとおのれを相手に知らせたいというようなじれったさを僕たちはお互いに感じ合っていたようである。僕たちは、たくさんの贋の感激をして、幾度となく杯をやりとりした。
ほんとに太宰はうまいなあと思う。
そうそう、僕も若い頃はこんなだったと、居酒屋で隣り合った男と娘息子の結婚の約束までしてしまう落語も思い出し、今の僕にはこんな事ってもうありえないなあとも思った。
ぼうとうに物干し台に上がって、町を鳥瞰し、しだいに舞台となる貸家に焦点を絞り込んでいって、場面を切り替える。
小津映画の冒頭を見ているような感じで、映像が浮かんできた。

太宰のせい_e0016828_11591862.jpg

晩飯のあと歯を磨きながら、FMを聞いていると、さいきん太宰の「津軽」の朗読に出遭う。
つい引き込まれる、これも明るいのだ。
高校時代に芥川の自殺後から、学業を放棄し芸妓あがりの師匠について義太夫を習い、近松や鏡花に心酔したという。
そして21歳で最初の心中未遂は銀座の女給(死亡)。
弟が16歳、三兄が26歳で早世したのも影を落とす。
やはり文芸の影響は大きいと思う。
もっと落語のほうに寄ってくれれば生き延びたのかもしれない。
僕の怠け癖も太宰のせいかもしれない、なんちゃって。

Commented by stefanlily at 2023-06-30 12:44
こんにちは、
三島が稲垣足穂について語っていたのは澁澤龍彦「三島由紀夫覚え書き」でした。稲垣足穂を読みかけたけど、途中で投げましたw
町田康は猫がきっかけで読むようになりました。パンクミュージシャン時代もうっすら知っていたけど。パンク芥川龍之介ですね。容姿も。文体(と呼べるものがある数少ない現役作家)は野坂昭如みたい…と言うほど野坂をたくさん読んではいないけどw
町田康が西村賢太と対談してたのは面白かったです。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-30 13:02
> stefanlilyさん、わたしも稲垣は途中下車でした。
町田も少し読んでみたいけどあのデビュー作?しか知らないです。白川静の本の感想も(町田の)面白かったです。
Commented by miyabiflower at 2023-06-30 15:34
半世紀ほど前のことですが、高校の現国の教科書に「富嶽百景」、ありました。
「富士には月見草がよく似合う」しか覚えていませんが・・・。
現国の先生の音読の声と姿を思い出しました。
そしてこの先生が「国語の教科書は君たちにはつまらないかもしれないけれど
大人になって読んでみると、実におもしろい本なのです」と言っていたことも・・・
当時は ふーんそうなのかしら・・・と思って聞いていましたが
確かにそのとおりですね。
名の知れた文学作品や論文、随筆まで網羅されているのですから・・・。
西堀さんの南極のなにかもあった・・・と記憶があって調べたら
西堀栄三郎「南極越冬記」だったようです。
なぜか高校の現国の試験問題はとってあるのですが(わら半紙にガリ版刷り)、
教科書はとっくに処分してしまいました。
いろいろと読みたくなりました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-30 19:18
> miyabiflowerさん、そう言われてみるとその通りですね。私も国語に限らずみんな処分してしまいました。
今日、「女性作家が選ぶ太宰治」を借りてきました。
Commented by fusk-en25 at 2023-07-01 09:24
文章を読む限り。太宰は確かに上手い。(こともある)
でもなんとなくネチネチした感じがして。
特に発言が嫌いです。
Commented by saheizi-inokori at 2023-07-01 11:21
> fusk-en25さん、そう思って遠ざかっていましたが、今になって虚心に読むと面白かったです。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2023-06-30 12:06 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31