久しぶりに太宰治

保険証をマイナカードに代えるというので、町の小さな医院の事務作業のデジタル化について行けず、閉院するところが増えているという。

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貧しい子供の頃、母が病気になると、近所のお医者さんが自転車に看護婦さんと二人乗りでかけつけてくれた。
それが僕の心にどれだけの安心を与えてくれたことか。
かかりつけ医は国民の命綱だ。
いまでも近所のクリニックの先生にどれだけ救われたことか。
そういう病院を苦しめて、廃業に追い込むなんて、与党の目が市民や弱者の福祉に向いていないことが如実にわかる。

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NHKテレビ「奇跡のレッスン」の録画を見た。
日本のサッカーを国際的に通じるレベルに押し上げてくれたオフトが、横浜の私立中学校のサッカークラブを一週間、コーチする。
基礎を大事に、シンプルにひたすら基礎を教える。
2対4でパス回し、12対12で10回以上パスをつながせる、あの練習の仕方が一般的なのかどうか知らないが、サポートの三角形、視野を広げてスペースを見つけるなど僕にはなるほど基礎とはこういうことか、とサッカーの本質を理解できたような気がした。

今までのただ長い時間を費やす練習を、いちにち90分くらいで終わりにする。
集中できるのはそのくらいだという考え方には全面的に同感だ。
受験勉強だって90分本気でやれば、あとは惰性、時間を長くやったという自己満足の世界だ。

背の小さい、体力のない子にも、「シュートは力じゃない、パスとおなじ、正確にぜんたいを見ることだ」と教え、彼は自分が果たす役割(サポート)の重要性を知り、目の色が変わり、褒められると涙を流す。
見ている僕の眼がしらも熱くなった。

基礎を、その本質を自分の頭で理解し、身体で実行する。
すべてはそれに尽きるな。

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「三国志」第三巻読了。
趙雲が平原の相となった劉備の配下で目覚ましい武勲を挙げるが、兄の喪のために故郷に帰る。
劉備の左右にいる関羽と張飛の存在が大きすぎて、ほかの部下は劉備と腹を割って話すことが出来ない。
旨い酒を売っているのに猛犬がいるために客の寄り付かぬ店のようなものだ。
関羽と張飛より能力の勝る者は劉備に仕えようとしないだろう。
劉備の器量が大きくなれないと見た張飛は「あなたに仕えたい」とは明言しなかった。

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図書館で見かけた本だ。
それぞれの作家が、選んだ太宰作品について一言書いているのが興味深い。
「道化の華」を選んだ奥泉光は、「作家の野心が強くにじみ出て、太宰らしさが炸裂している。であるがゆえに、この作品が自分は一番嫌いだ」。
僕も今は、もう一度読もうという気にはならない小説だ。

佐伯一麦は「畜犬談」を選んだ。
これは未読だったので読んでみた。
「私は、犬について自信がある。いつの日か、必ず喰いつかれるであろうという自信である」と書きだして、犬が嫌いな所以をひとひねりしたユーモアで包んで書き連ね、その犬に慕われ、捨て犬を飼う羽目にいたったこと、その犬を始末しようとしてできなかったことを書く。
犬に対する愛憎は人間(おのれ自身を含む)に対する愛憎のようでもある。
最後の「芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ」という言葉を、佐伯は「いまでもかくありたいと思わされる言葉である」と書いている。
さこそ我が佐伯一麦だと思った。

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高橋源一郎は「散華」。
昭和19年、太宰のもとを多くの作家志望の学生が訪れ、来なくなったり出征していく。
その一人は、肺を患って枕頭で針仕事をしている母親と静かに世間話をしていて、ふと口をつぐんだと思ったらそれきりだった。
太宰は、その臨終を「比類がないほど美しい」という。
風のせいでなく、おのずから散る花吹雪や薔薇の大輪にたとえて、「天地の溜息と共に散るのである。空を飛ぶ神の白絹の御衣(おんぞ)の御裾に触れて散るのである」といい、故人を「神のよほどの寵児だったのではなかろうか」「人間の最高の栄冠は、美しい臨終以外のものではないと思った」と書く。
だが、高橋がこの小説を選んだのは、もう一人の学生の玉砕、その死の前に太宰に書いた手紙、それに対する太宰の対応故である。
「見事だと思う。読んでください」と書いている。
その手紙とは
御元気ですか。
遠い空から御伺いします。
無事、任地に着きました。
大いなる文学のために、
死んでください。
自分も死にます、
この戦争のために。
太宰は短い作品の中で、この詩のような手紙を三度全文引用する。
天使のくれた最高の詩だというのだ。
太宰治の感動は理解できないことはないが、高橋のように太宰の対応が見事だとまでは思わなかった。
Commented by jyariko-2 at 2023-06-29 12:49
我が長女は小さな医院で働いています
そのようなことになったら大変です
何故そこまでして急ぐのかが全く分かりません
だんだん我が国に誇りが持てなくなってきます
Commented by stefanlily at 2023-06-29 13:54
こんにちは、
私は三島が嫌っているから太宰を嫌いです(そういう理由かw)
短編を少し読んでそう嫌いでもない作品もあるけど、のめり込む程ではなかったかなあ。
広津柳浪でした、失礼しました。
青空文庫はネット上でも読めるし、中には絶版の作品もあるので本当に助かります。

ポプラ社、百年文庫
https://www.poplar.co.jp/hyakunen-bunko/lineup/
広津柳浪「今戸心中」
https://www.aozora.gr.jp/cards/000295/files/42145_53885.html
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-29 13:56
> jyariko-2さん、反対の声が高まらないうちに既成事実を作ろうというのでしょう。
私はとつくに誇りなんて捨てています。せめて自然だけでもと思うけど、それも壊されていきます。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-29 13:59
> stefanlilyさん、私は太宰をだいぶ読みました。晩年の作品など良いですよ。
品川心中は落語です。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-29 14:02
> stefanlilyさん、追って、そちらのブログにイイネやコメントが出来なくなつています。
また試してみますが。
Commented by stefanlily at 2023-06-29 16:41
あれ?
「コメント不可」設定にはしてませんが?
ごめんなさい、分かりません。エキサイトブログ管理者に聞かれた方がよろしいのかも。
医療機関には自民党に投票する人も多いのでしょうに……支持層を自ら減らしてどうするって。
ところで「死の方向に誘われた」 ですが、三浦春馬はドストエフスキー「罪と罰」の舞台、竹内結子は松本清張「黒の福音」(原作よりも役柄が大きく脚色されてた)に出演してます。誘われたかなあ……と思いますね。どちらも好きな作品だけに、怖いなあ……
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-29 21:01
> stefanlilyさん、死に誘われたというのではなく、死や心中に対する抵抗が少なかったのではないか、と思ったのです。
Commented by pallet-sorairo at 2023-06-29 21:14
こんばんは。
私もこの回の「奇跡のレッスン」見ました。
そして
>「シュートは力じゃない、パスとおなじ、正確にぜんたいを見ることだ」
一番印象的だったのが私も同じくこの言葉でした。
この番組を見るたびに思うことではありますが
優れた指導者はたった一週間でこのようにも選手とチーム変え得るのかと
感動的ですらありました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-29 22:22
> pallet-sorairoさん、私が教育者にならなかつたのは子供たちの力をオフトのように引き出す自信がなかったことが最大要因です。
Commented by at 2023-06-30 06:31 x
「富岳百景」が好きです。
音読すればわかるのですが、文の切れるところが独特。
会話のやりとりは落語のようです。

Commented by saheizi-inokori at 2023-06-30 09:46
> 福さん、私もきのう読み直して感心しました。
ちりちりするような気持をユーモアで包む、美しい小説だと思いました。
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by saheizi-inokori | 2023-06-29 12:19 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(11)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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