みんな、俺ァもう行くからな

歳を取ったら、食べたいものを好きなだけ食べたらいい、ダイエットなんかナンセンス。
そういう話を聞くことが多いけど、年をとるとそんなにたくさん食べようとは思えなくなるのだ。
甘いものを罪悪感なしに食べられれば快適だろうが、こんなのを↓ひとつ食えばもうたくさん。

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(檸檬どら焼き、自由が丘「黒船」)

バターを使ったあちらのケーキ類もひと匙でいい。
もっと食べたいというところで止めるのがいいのだ。
食べたい気持ちのまま食べると、そのあとの腹の感じが、せっかくのうまかった味わいを消してしまう。
うまいものは、腹いっぱい食べないで、後味を楽しむのが作法のような気がする。
なんちゃって、若い頃は嫌ってほど詰め込んだ大食らいの負け惜しみです。

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「幕末奇談」を読了。
「幕末研究」もめっちゃ面白かったけれど、そのあとの「露宿洞雑筆」と題されたなかのもろもろの聞き書きもメチャクチャ面白かった。

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幕末の大親分、武州小金井小次郎の六十四歳臨終の模様、小次郎が三宅に遠島になった時に島の娘に産ませた「花」女から聞いた実話から。
今日明日だというので、遠方の子分にも声をかける。
便所だというのでおまるをかけようとすると、
「べら棒め、おかわなんぞにかかれるけえ」っていいまして、立ち上がって自分で便所へ行きました。そして戻って来ると、「着物を取替ェってくれ」というので、新しいのを着せると、床の上へきちんと坐ったのです。この時唐紙をしめた隣の部屋から三つ打抜いて、ここへ兄哥(あにき)分の人が前の方になり四百人ばかり子分がずらりと廊下にまでも並んで坐っていました。「身内がみんな揃ってお見舞いに来てますよ」というと「そうか、ではその唐紙を開けろ」という。父は自分で、両袖口を指でおさえて、ぴーんと延ばし、襟を合わせました。この時にはもう額の辺りがうすい紫色に変って、唇などにも少しも血の気がなかったのですが、子分達一同が、畳へ両手をついて頭を下げて並んでいるのを、一人一人、その顔を見るようにして「みんな、俺ァもう行くからな、おめえ達ァからだを大切にしろよ、永えこと世話になった。礼をいうぜ」とまだ元気のいい声でいいました。これが本当の最期、次第に顔色が変わって来ました。がくりッと頭を落とすと一緒に、あの四百の身内が、みんなぴったり畳へ顔をつけて泣いてしまいました。

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国定忠治の子分など侠客の生涯、幕末の武士たちの変わった死にざま、渡世人の作法、妓夫の仁義、近藤勇近辺の噺、幕末の剣客のエピソード、武士たちの言葉遣い、幽霊やお化けの噺、新徴組の実態、、。
どれも実際に聴いた話が幕末という世界の、知らなかった実際を事細かに教えてくれて興味津々、何冊ものすぐれた短編小説を読んだ思いだ。
それにしても昔は命を粗末にする連中が多かったなあ。

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たとえば、例の寅さんでお馴染みの「お控えなすって」、ヤクザの仁義の作法について。

旅人が仁義をのべる時は、尻からげをしたままである。幕末の頃はよく道中していて草鞋銭稼ぎに俄か渡世人になって立ち寄ったりしたが、どうもこの尻からげを下ろしたがる、国分寺の富貴屋の伊之助のところへ香具師が化け込んで、たたき斬られ損になった話がある。
その男は、ばらり尻を下ろすと、戸を開けて敷居中へ入り「お控いなさいまし」といった。伊之助が変な奴だと思いながらも応対すると幾度もお控いなさいましをやった上で、会津の小鉄の若いもンだという。これを聞くと、伊之助やにわに立ち上がって「てめえ香具師だ、化けるんなら、もちっとうまく化けろ」と脇差へ手をかけた。旅人きりきり舞いして逃げ、逃げる時に、菅笠を忘れて行ったという。
会津の小鉄の若いもンは、旅の仁義に決して「お控いなさい」をやらない。ぶッつけに「私こと親分は上坂仙吉」と高びしゃに名乗ることになっている。それに、も一つ尻からげを下ろしたり「お入ンなさいまし」と声のかからぬ中に敷居をまたいだ。これで化けの皮が剝げた。

ヤクザ映画は、ちゃんと仁義を切っているのかな。

Commented by hanamomo60 at 2023-06-24 12:22
こんにちは。
黒船っていろんな味があるのですね。
美味しいって評判のお菓子ですよね。

>食べたい気持ちのまま食べると、そのあとの腹の感じが、せっかくのうまかった味わいを消してしまう

次のご飯に影響を及ぼしてしまいます。
だから控えめにがいいのでしょうね。

99歳8か月ほどで亡くなった母方の祖父が映画で一番好きなのがヤクザ映画だと言っていました。

小次郎の言葉に出てくる『おかわ』おまるのことでしょう?
秋田でもおまるのことを『おかわ』って言いました。

Commented by saheizi-inokori at 2023-06-24 13:26
>hanamomo60さん、もうちょっと食べたい、くらいで止めとくのがいちばんうまいようです。
おかわ、私は落語で覚えたような気がします。
むかしはヤクザ映画が花盛りでしたね。
高倉健、鶴田浩二、、なんかを見たなあ。
Commented by chikusai77 at 2023-06-24 20:19
初めまして、竹斎といいます。ヤクザの仁義、一度だけ目の前で見ました。あれは昭和45年の夏でした。浜松駅での深夜のことです。小指のない男が、旅の途中と思われる男に仁義を切っていました。まるで映画のワンシーンのようでした。ホントにやるんですね。
Commented by saheizi-inokori at 2023-06-25 09:37
> chikusai77さん、いらっしゃませ。手前生国と発しましては、甲斐の国、育ちは信州、ブログの名前を佐平次と申します。
きょうこうばんたん、よろしゅうおたのもうします。
こんなだと、偽者とばれちゃうのでしょうね。
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by saheizi-inokori | 2023-06-23 12:29 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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