しっかりやってくれろ~高杉晋作の最期

夜来の雨だけれど洗濯をした。
扇風機をまわして、これがなかなか乾かないのだ、憂鬱な梅雨の始まりか。
せめて夕方の散歩は、雨の紫陽花を楽しもう。

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きのうも「天皇の世紀」を読んだ。
幕府との戦争で、藩の許しも得ず支払いの当てもないまま買って仕舞った、小さな俗称オテントサマ丸に乗った高杉晋作は、大島沖に集結している幕府の精鋭艦4隻の間に奇襲をかけて、油断して火を消していた敵艦に一泡吹かせてさっさと引き返す。

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(等々力渓谷)

芸州口、石州口の敗北に続いて、老中小笠原長行が指揮にあたった小倉口は高杉の指揮下で小笠原が遁走し小倉城は火をかけて落城する。
小倉の敗北、幕府の敗北は時代を画す出来事だったけれど、渦中にある日本人たちには、そういう感覚がなく、高杉は下関と小倉の往復と連日の深酒で体力を消耗し、血を吐く。
内心萩に帰りたいけれど、陸を輿に乗っていくのは辛く船の便を待って下関にいるうちに危なくなり、萩にいた正妻も呼ばれて看病にくる。
私が高杉と一所にいましたのは、ほんのわずかの間で、その間東行(高杉)はいつも外にばかり出ていました上に、亡くなりましたのは未だ二十九というほんの書生の時でございましたから、私は何にも東行に就いて御話する記憶がありません。(略)
東行の病気は唯今の肺炎とでも申すような病気でございまして、私共が参りました時は、もう大ぶ悪くなった時で沢山吐血をいたしました。ご飯もおもゆ位しかいただけませんので、もうすっかり弱ってしまっていました。井上さんや福田さん等がよくお尋ね下さって、御話をして下さいました。東行は自分の体は悪くなるし、それに引代え世間はいよいよ騒がしくなるので、日に日に昂奮するばかりで、いつもいらいらしていました。井上さんや福田さんに向かっていつも「ここまでやったのだからこれからが大事じゃ、しっかりやってくれろ、しっかりやってくれろ」と言い続けて亡くなりました。いいえ、家族のものには別に遺言というものはありませんでした。「しっかりやってくれろ」というのが遺言といえば遺言でございましょう。
正妻雅子の言葉(「東行高杉晋作」)だ。

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田中光顕の後日談によると、高杉は最後まで気力の衰えをみせず、死期の近いのをさとってか、かねてなじみの料理屋に行くといって、どうしてもきかず、しょうがないので、籠を頼んで、みんなで乗せたが、籠のなかで漏らしてしまい、諦めて病床にもどって、まもなく息を引き取ったとある。
大佛次郎はこう書いている。
正妻雅子はもとより、おうの(高杉の脱藩後、大阪、四国と付き添った愛妓)も病床についていたろうが、高杉がこう言い出したら、誰も制止出来なかったろう。話の真偽は別である。田中のように出世した他人が高杉について後になって語るよりも、長い別居をして迷惑して暮らした正妻の話が、短い期間の生活でも高杉晋作の率直な姿を確実に見ていたように考えられる。
そして、雅子の、高杉のこんな姿を伝える言葉を紹介する。
(高杉が)野山屋敷(牢屋)から出されることになりまして父の家へ帰って参りました。宅にいましても御咎め中のことでございましたから奥座敷の二間を閉め切って、その中に東行を入れました。外からすっかり釘付けにしてしまいまして、それに鍵を下ろして誰も面会することが出来ない様にされました。家内の者も容易に出入りすることは出来ません。(中略)その内外国の船がどんどん彦島へ集まって来るという噂が騒がしくなって、国中がいよいよやかましくなって参りました。それをどうしてか東行が耳にはさみましたと見えて、それからは、居間のすぐ隣に土間のたたきがありました処へ家来に大きな石を運ばせまして、毎日の様にその石を差し上げては下し、差し上げては下していました。何のつもりでございましたか私共には少しもわかりませんでしたが、東行の考えでは長い間一室に閉じ込められていて自由に運動が出来なかったので、力が失せてしまっていたものですから、外国の軍艦でも打ち払うのは、こんなことでは駄目だと思って、あんな力だめしをしていたものと思われます。

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ゆうべ録画でNHKの「72時間」をみた。
瀬戸内海、愛媛県上島町の岩城島、戦時中に裸の山になった島中央の積善山に桜を植えて、島の人々は卒業祝いに、還暦祝いに、、人生の節目で桜を植え続けて、いまでは3千本の桜が咲き匂う島となった。
桜を植えた人、それを見に来る人、スマホで撮って伝える人たちの短いけれど長い人生の言葉を酒の肴に聴いた。
長州と幕府が戦争をしたのは、この島の近くなのだろうか、ふっと晋作の面影もみたような気がした。

Commented by Tadachka at 2023-05-29 15:56 x
saheiziさんが幕末に生まれていたら、きっと活躍したな。
そんな気がする。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-29 19:48
> Tadachkaさん、ありがとう、でも臆病者ですから、志士にはなれなかったと思います。
この時代にどう生きていたか、そんなことを考えながら読むのも楽しいですね。
Commented by stefanlily at 2023-05-30 00:05

近藤正臣の曾祖父?も幕末の志士だったとか。龍馬伝はあまり見ていなかったけど、正臣さんが印象的な演技をしてらしたのは覚えてます。若い頃のギラギラ感も良かったけど(昨日も松本清張原作ドラマの再放送。近藤正臣、風吹ジュン、Pレディーのミー)
高杉晋作の妻の手記、興味深いですね。松本清張が高杉も龍馬も、新政府で生き延びていたとしても、持て余されたのではと書いていたような。亡くなる前に既に役割を終えていた感…と。うろ覚えですが。時代小説の数も決して少なくはないけれど、あまり清張の興味を惹く分野ではなかったのかな。同時代にもっと時代小説の他作の人も居たし。

ヤクルトファンのサイトです。12球団各チームのサイトがあり、試合実況は実際に試合が進行中に球場、TV、ネット等で鑑賞中のファンが投稿。試合の実際の内容結果とは違う現実逃避wや、ジョーク(ネタ)を投稿する人多数。投稿内容から察するに、年齢高い人も多々居ますよ。

ツバメ速報、試合実況5月28日↓
http://tsubamesoku.blog.jp/lite/archives/1081796797/comments/7185369/
Commented by kogotokoubei at 2023-05-30 08:03
高杉晋作、坂本龍馬、吉田松陰、みな、あれだけのことを成し遂げ、30歳前後で亡くなっています。
それに比べて岸田の32の息子は・・・。

比べれては、維新の偉人に失礼と知りながらも、そんなことを思ってしまう、今日この頃です。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-30 10:38
> stefanlilyさん、幕末が清張の興味を惹かなかった?なぜかなあ、研究者には興味のあるテーマかもしれないですね。
ある分野を書こうとすると資料集めだけでも異常なエネルギーとコストが必要になる、そうしてまで新たに幕末を究めようとはしなかったのですね。
ツバメ速報、ありがとう。
さいきん、こちらでソフトバンク、もう一人、ヤクルトファンのブログを発見し、まいにち訪問しています。
ファン歴が長いといろんなことに詳しいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-30 10:39
> kogotokoubeiさん、まあ、私自身も80歳になってこのざまですけれどね。
あんな息子を育てなかったことだけホッとしています。
Commented by めぐ at 2023-05-30 18:41 x
お祭り騒ぎみたいなサミットが終わり 静かになってホッとしています。学校を休みにして 通行止めも多くて地元に不便を強いた割には 結果が冴えないなあーと思ってました。
サーロウ節子さんは一刀両断に切り捨てていましたね。鋭い判断力だなと思いました。
子供の頃大人は賢くて立派なんだと思っていたので 自分が大人になる頃には戦争は無くなっていると思っていました。
あの方の息子さん いい年しておかしなことしてますね。それに母親は派手なお着物でお点前を披露してましたが お茶の師範くらいされるのかしら?床の間 茶室での振る舞いと同じく官邸でのお行儀は教えなくても判るはずです。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-30 21:23
> めぐさん、おっしゃる通り、だらしのない大人が多数派になり、その子供たちはいつまでたっても子供のままのようですね。
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by saheizi-inokori | 2023-05-29 12:21 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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