気力

本も読まないでよく働いた土曜日の夜は導眠剤（たまに飲む）のせいもあって、よく寝て寝坊した。
よく寝たのに、それともよく寝たせいか、気力が湧いてこない。
けさは洗濯がない日だから、寝坊してやれと思ったら、気力まで寝坊して起きてこないのだ。

ゆっくり、サンチのトイレの片づけ、ルンバの起動、ベランダの花に水やりをパジャマのまま、やる。花好きの皆さんが、花と対話するように水やりをしているのを、おお、今の俺もそうだと気づく。

きのう新品にとりかえたＪＢＬのＦＭから、ウイリアム・ベネットのフルートが流れてくる。
シューベルトの歌曲の優美さにしびれながら、洗面所の掃除をしていると、ルンバが騒音をたてながら近づいてくる。
うるさいけれど、なんだか血の通った仲間が、俺もがんばってるかんね、といいに来たようで温かい気持ちになる。



ベネットは、フルート奏者はオーケストラの一員で演奏するときは、フルートの役割をはみ出すような音を出さないように気を付けなければならないけれど、ソリストとして演奏するときは、フルートの力のすべてを引き出すようにいろんな音にチャレンジするのだ、と、そんなことを言っていたらしい。
これは、人間の生き方にも当てはまるのかもしれないなと思った。

JBLを居間に持っていって、フルートの美しく大きな音に満たされながら、ゆっくりストレッチをした。
昨日バタバタしてゆっくりストレッチや筋トレをしなかったら、テキメンに左の肩が重い。
悪かったなあ、謝るつもりで丁寧に首を廻し肩を廻し、ズワイショ―もつけくわえる。
いろいろやった最後は片足立ち、二分半続けられるようになった、それも調子の良い時の話だ。

ようやく気力が目覚めて、新聞を開くと、長生きの秘訣は体操と交流、編集日誌では「きょうよう」と「きょういく」がヒントだとある。
教養と教育ではなく「今日用」と「今日行く」だって。

要するに生きて行こうという気力が必須だね。
そのために、何かやるべきことがあり、会わなければならない人がいて、行くべきところもあり、サンチをなぜてやり、花やルンバと話し、部屋を片付け、身体を動かし、美しい音を聞いて、神経や血流に「目覚めよ」と呼びかけることだ。

それでも気力が湧いてこない、またはそもそもそんなことをやる気力すらない。
そのときは御名御璽、そういうこった。