天知る地知る

カミさんがもらってきた鎌倉のトマト。

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がぶっとやると、あの懐かしい、ちょっと青くさいトマトの味がする。
塩なんかつけなくたって、このまんまで最高のご馳走だ。
冷やさないほうがうまい。
こういうトマトが少なくなった、甘いだけ、赤いだけ。

台所においとくだけでトマトの匂いがしたもんなあ。
あれは母が出勤前に便所から肥を汲んで当たり四方に黄金の香りをばらまいて、僕たちが草を抜き、アブラムシを退治して育てたトマトだった。

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猪苗代駅に勤務したとき、磐梯高原はトマトの生産地で、トマトジュースの原料として毎日大量のトマトが列車で送られた。
駅のうらには掘り抜き井戸があって、いつも手が切れそうな水が滾々と沸いていた。
そこにプカプカと浮かんでいるトマトを食っては一日の仕事が終わっていった。
真っ青な空に白い雲が浮かんで田圃を涼しい風が通りぬけていった。

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「三国志」の半分を読んだ。
子供の頃に子供用に書き直したものを読んだことがある。
劉備や張飛、関羽などが活躍する血沸き肉躍る物語だった。
あれは明の時代に正史「三国志」を読みやすいように小説の形にした「三国志演義」が元禄初期に日本にも伝わって、それを元にしたものだ。

宮城谷昌光は、この小説を書くにあたって「三国志演義」を忘れるということからはじめたという。
第一巻のあとがき「後漢という時代」から、ちょっと長いけれど引いておく。

後漢という時代をできるかぎり正確に知ろうとした。王朝そのものが盛衰の原因である、と考え、個人の善悪の力を必要以上に擢用(てきよう・ 特別にえらび出して用いること)しないことをこころがけた。そいいう自制のなかで、二年間ほど後漢王朝を凝視しつづけた。曹操を知るためには、祖父の曹騰(そうとう)を知らねばならぬということであり、曹騰が宦官であるかぎり、宦官を識る必要があり、宦官に権力を与えた垂簾政治(皇帝が幼い場合、皇后・皇太后のような女性が代わって摂政政治を行うこと)を理解しなければならない。それらの渾殽(こんこう・ 異なるものが入りまじること)が歴史の世界なのであるが、では歴史の主体とは何であるのか。歴史の主体とは、人以外何があるというのか、といわれそうであるが、私はそのことを考えつつ、後漢の名臣である楊震(ようしん)の、四知、ということばを憶いだした。たれも知らないとおもわれることでも、天が知り、地が知り、わたしが知り、あなたが知っている、それが四知なのである。後漢の時代になっても良い伝統が失われていないことが、その短い語から感じられ、それを承けて小説を書きはじめることができた。小説を書きつづけているいまも四知を忘れたことはない。
後漢の時代に紙を発明したといわれる蔡倫は宦官であり、章帝の皇后の諷旨をうけて、宗貴人を自殺させるが、宗貴人の孫が皇帝(安帝)になったことで復讎され、死刑に処せられそうになる。勅使を迎えた蔡倫は、薬を飲んで従容(しょうよう・ゆうゆうと)と死ぬ。それは王朝の内のささいなことかもしれないが、私には興味深く感じられた。そういうひとつひとつが歴史の力点になっていることをみのがしたくない。それをつづけてゆけば、人と人が近すぎると意った世界に、あらたな天と地とが出現するであろう。
全12巻の「天皇の世紀」も今7巻にさしかかり、いよいよ佳境なのに、こんどは「三国志」、これも全12巻に浮気する。
どちらも、その時代をしっかり読みこんで、きちんとした視点で書いているから、面白いのだ。
安帝の時代の乱れは、アベとその続きの時代の乱れに通じもする。
たれも知らないかのように、みんなの面前でやっちゃうから、もっと悪いかも。

Commented by rinrin1345 at 2023-05-19 12:10
トマトは大好きで植えるのですけど改良し過ぎて難しい品種が多いです。
随分長い本なんですね私などは途中の人物が忘れてしまいそう
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-19 12:39
> rinrin1345さん、市場に出すことを考えると昔のようなトマトは作れないのかな。それに子供たちはあの味を嫌がるかも。
私も忘れながら読んでいます。
でも夢中になると遠い後漢時代に彷徨うことも出来ます。安上がりのタイムマシーンです。

Commented by sonoma0511 at 2023-05-19 16:35
トマトは毎日食していますが私の中に悲しい思い出があります。
小学4年の夏休みの登校日。クラスメイトが亡くなったと聞いた。
近くの孤児院に居た転校生が、抜け出して近くの畑から
農薬のかかったトマトを食べて体調を悪くしたらしい。
真夏の炎天下で、どうしても食べたかったのか?
母に伝えたら、可哀そうにと何度も言いながら涙を拭っていた。
その後、クラスでも彼を語ることがあまりなかったように思う。
私も生前話す機会のない彼だったが、クマガイと言う名を忘れない。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-19 17:09
> sonoma0511さん、鮮烈な思い出ですね。
今のモンサント農薬も決して安全とは言えないようですね。
すぐに死ぬことはないでしょうが。
Commented by tona at 2023-05-19 20:25 x
三国志も長いですね。読み通すこと自体がお元気です!
あのトマトの味、今も覚えています。
今はもうあのトマトにはなかなかあえません。
田舎の方の道に駅に行っても。
Commented by noboru-xp at 2023-05-19 20:26
真っ青な空に白い雲が浮かんで田圃を涼しい風が通りぬけていった・・・詩人ですな~。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-19 21:05
> tonaさん、三国志、こんな楽しみが残っていたと嬉しくてたまりません。
キューリももっと野の菜らしい味がしましたよね。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-19 21:07
> noboru-xpさん、回想は人を詩人にするのではないでしょうか。
Commented by hanarenge2 at 2023-05-19 21:09
夏の野菜ですね
真っ赤な 青臭いトマト
昔は苦手で(子供時代です)粉末ジュースつけて食べたりしました

実家はトマトを出荷した時期がありまして トマトの匂いはそこらじゅうに^^

出す時は青いトマトなんですが

一番美味しいのは枝で真っ赤になった奴 出荷できないのでそれは家用でした
今から思えば トマトソースとかケチャップ作り放題だったのに・・・・・
たくさんあり過ぎて 捨ててましたわ><
Commented by gakis-room at 2023-05-19 22:01
トマトもそうですが,キュウリの味もなくなりました。
Commented by at 2023-05-20 06:45 x
いつぞやさん喬が高座でトマトの思い出を語りました。
青臭くて酸っぱいのがトマト、そんな話でした。
今の物は万事甘くなっていますね。
リンゴも蜜柑も子供の頃は首をすくめたくなるほど酸っぱい味がしました。

Commented by stefanlily at 2023-05-20 07:53
長崎県の地元では大島のトマトがおいしいです。トマトの天ぷらもあるとか。
三国志は北方謙三が翻訳?してますね。お若い頃はハードボイルドな作風(未読)の方だった印象ですが。
週間新潮の連載が面白いです。
若き日のスペイン旅行中、面白いおじさんに会って、翻訳家の佐伯さんだったと。
私も佐伯さんの翻訳作品読んだ覚えあります。
横浜が強いと思いきや、バウアー投手炎上以来おかしくなり、阪神が独走状態…昨日は負けたんだっけ?
鷹は昨日西武に勝ちましたが、内野を抜けたヒットも源田遊撃手が居たら、違ってたかも。
イースタンで三塁打を含む二安打だとか。彼の復帰も間近かな。
西武とは永遠のライバルでいて欲しいので、今の事態は本当に気の毒です。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-20 10:35
> hanarenge2さん、田舎では砂糖をかけて食べる家もありました(砂糖は貴重品という感覚が残っていましたから、ありがたがって)。
子供でも嫌がらないように品種改良をして今に至ったのかもしれないですね。
収穫しないままほっとかれた真っ赤になりやがて腐っていったトマトを思いだしました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-20 10:36
> gakis-roomさん、そうですよね、あの味だから味噌とあうので、今のようになんの味もしなくなると味噌をつけると味噌を食っているような感じがします。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-20 10:40
> 福さん、夏ミカンの酸っぱさに夏を感じました。
重曹をつけなくても甘いのは似て非なるものです。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-20 10:52
> stefanlilyさん、宮城谷昌光は白川静の著作に会って古代中国や金文字などを独学したといいます。
北方謙三のハードボイルドは何冊か読みました、面白かったです。
佐伯?どういう人ですか。
なかなか翻訳家の名前を覚えないなあ。
きょうのヤクルトは調子がもどったDENA、今永のスライドかな、期待できないな。
Commented by jyon-non3 at 2023-05-20 17:50
ホントにそうですね。あのトマトの匂い、子供の頃の暑い日。電化製品もそうは普及していない時に食べた🍅。

青い香りにこれこそ🍅と胸が思い出す度キュンとなります。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-20 19:08
> jyon-non3さん、トマトと砂糖湯とマーガリンを塗ったトーストが晩御飯、それでも家族三人で楽しく食べました。
Commented by stefanlily at 2023-05-21 01:11
フィリピン人で生のトマトが苦手という女性がいて「私がお寿司をあまり好きではないのと同じことかしら?」なんて言うてましたw
調理したトマトは良いが、生が苦手だそうです。
翻訳者は佐伯彰一さんでした。
数年前に訃報がありましたね。ヘミングウェイ、フォークナー作品も翻訳してはりました。
ヘミングウェイは高見浩、フォークナーは加島詳三訳を主に読んでいるので、佐伯さん訳だったかはどうかな…
確か、川端康成のノーベル文学賞の推薦文by三島由紀夫、の英訳が佐伯さんではなかったかな…?
ドナルド・キーンの作品中に出てきたような。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-21 09:51
> stefanlilyさん、ありがとう、名前は知っていました。
きっといくつか意識しないで読んでいます。
訳者のことをもっと意識しないと失礼ですよね、訳者がだめで売れなかった本がいくらもあるでしょう。
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by saheizi-inokori | 2023-05-19 11:47 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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