孤児列車が走る

このニ三日、夕方の散歩は雨に歩けばだ、歌えばまでにはならない。
歩きはじめは、違和感のある足腰も姿勢を正して、ときどき膝を深く曲げるストレッチをしたりしているうちに心地よくなってくる。
といってもせいぜいが5~6千歩、かつて8千歩の散歩をしていた頃からすると年相応になっている。

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同じ方向だと飽きるから、360度あちたりこちたり、できるだけ馴染みの少ない道を選ぶようにしている。
きのうは用賀駅まで、途中まではなんども歩いているけれど駅まで散歩で歩くのは珍しい。

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バスで行き来している場所は、遠いからバスに乗るという意識があって、はなから歩くのは大変だと思いこんで途中から引き返したりしている。
ところが歩いてみたら4000歩、近所をぐるぐる回っているのと違わない。

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(用賀駅前の環八カンバン)

帰りはバスに乗る、110円のゼイタク。
病院の行き帰りになんども利用するバスだが、時間や利用動機が違うと、なんだか新しい景色を見ているような気になる。

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2011年、メイン州の田舎町。
17歳のモリ―の父親はインディアン、モリ―という名は有名なペノブスコット・インデイアンのモリ―・モラシズにちなんでつけられた。
”ムトゥリン“という、夢占いができ、病気や死を追い払い、狩りをする人に獲物の居場所を教え、霊的な使いを送って敵に危害を加えることもできる力を持っていて90代までインディアン・アイランドを出たり入ったりして生きた。
モリ―の8歳の誕生日に、酔っぱらって帰った父がインデアンのお守りをプレゼントしてくれ、その二週間後に車の運転を誤って死んでしまい、薬物中毒になった母はいなくなる。
モリーは、孤児院と里親の間を行き来して育った。
部族の娘は、反抗的に生きることで自分を守っていたのだ。

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さいきん学校でインディアンの歴史を学んで、ワパナキ族には白人たちよりはるかに優れた技術や文化があったこと、それなのに白人の持ちこんだ病気やアルコール、彼らが資源を使いはたしたことや彼らの土地を奪うための戦争によって三万人の90%が亡くなったこと、インディアンは未開人ではなくきちんとスーツを着て白人たちと誠意をもって話し合いにのぞみ、いくども騙され裏切られてきたことを知って、腹の虫が収まらない。

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どうしても手近においておきたくなつた図書館のぼろぼろになった「ジェーン・エア」を盗もうとして捕まり、罰として社会奉仕を命じられて、91歳のヴィヴィアン婦人の豪邸の屋根裏部屋の整理をすることになる。

ヴィヴィアンは、アイルランドからの移民一家の娘だったが、9歳のときに家族を失い、孤児列車(実在した)に乗せられて、いろんな家庭に引き取られて辛い少女時代を送った過去がある。

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屋根裏部屋の整理はちっとも進まない。
ヴィヴィアンが、いつもそれはとっておこうというのだ。
古くなった「赤毛のアン」は、ヴィヴィアンがはじめて感動して読んだ本、それをモリ―に読みなさいとくれる。

1929年からのヴィヴィアンの物語と現代のモリ―の物語が交互に語られる。
どちらも「おしん」の物語であり、差別の物語であり、そこに現れるさまざまな人間性の物語だ。
僕の読んだ半分まででは、モリ―はヴィヴィアンの過去を知らない。
でもなんとなく好きになる。

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ふたりの辛い半生を追いながら、これから二人はどうなるのか、お互いに何を知ることになるのか、わくわくもしている。

Commented by tona at 2023-05-16 14:17 x
お散歩6千歩でもご立派です。
ヴィヴィアンの過去の過去を早く知りたいです。
自分で読まなければならないかしら。
Commented by tona at 2023-05-16 14:23 x
図書館にありましたので今の本が読めたら申し込みます。
ありがとうございました。
Commented by vitaminminc at 2023-05-16 14:37
キイハントーとか、かんぱち歯科とか(笑)
ダジャレた看板が粋です!
佐平次さんのお散歩実況、毎回本当に味わい深くて、愉しく読ませていただいております。
やがて梅雨が来ますね。雨に唄えばの境地にならなくても、雨の中、お散歩実況をしていただけるだけで御の字であります。

Commented by saheizi-inokori at 2023-05-16 15:57
> tonaさん、お読みになることをお勧めします。
いい本だと思いました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-16 15:58
> vitaminmincさん、かなりみん子さんに感化されています、不肖の弟子ですが。

Commented by tanatali3 at 2023-05-16 20:47
里親探し、奴隷制度、アメリカ先住民部落出身など、題材だけでも厳しい人生模様が予想されます。日本の部落問題にも繋がりますが、移民の国アメリカでは、現在まさにメディアで連日報道されている、バイデン政権の違法移民を亡命認定するか否かで国境がごったがえしています。自民党の難民認定はそれを反面教師にして、強硬姿勢を貫いているのでしょう。日本ではあまり報道されていないと思いますが。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-16 21:40
> tanatali3さん、移民や奴隷の労働力なしにアメリカの繁栄はなかったと思います。
その移民たちも自分たちの暮らしが落ち着くと後からの移民を拒否する。世界の富を手中にしているのはGAFAに代表される一バーセント、世界はどうなる?
Commented by tanatali3 at 2023-05-17 01:16
まったく同感です。悲しいことに、気づかない、また気づかないふりの政治です。先日の政治ドラマの最後、「政治はメディアが作る」に、さもありなんと思いました。
Commented by saheizi-inokori at 2023-05-17 09:33
> tanatali3さん、与党は確信犯なのでしょう、アホじゃないのだから。
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by saheizi-inokori | 2023-05-16 08:48 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(9)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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