土曜日のハイドン 「ある男」(平野啓一郎)

大掃除と洗濯を終えて「題名のない音楽会」をみながらの遅い朝飯。
堤剛の「G線上のアリア」、これは中学の下校時にかかる曲だったような気がする。
いや、ドヴォルザークの「新世界」が中学で、これは小学校の下校時だったか。
堤剛と若い演奏家たちが、ハイドンの「チェロ協奏曲第一番」を演奏、生命の躍動するような調べに、さっきまで息があがってCOPDが進行したのかと落ち込んでいた気分が明るくなった。
80歳の堤剛が、こんなに若々しく大きな楽器を操りながら、ときどきいい笑顔で若い共演者に頷いてみせるのに激励された。
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(三茶で)

「音楽は人生を豊かにする」というようなことを堤が言ってたが、僕にとっても音楽は欠かせない。
五球スーパーから聞こえてくる音楽、それはクラシックというより、グレンミラーやサッチモなどの軽音楽、映画音楽、深夜放送のシャンソンや中南米音楽、社会人になってからは酒を飲んでは、その地の民謡、「よいとまけの歌」「喜びも悲しみも幾歳月」「公園の手品師」、、歌謡曲もよく歌った。
音感が悪いうえに、レコードなどない暮らしだったから、蘊蓄を傾けるほどに音楽を聴き分けることはできない。
ただ「好きか嫌いか」、それもそのときの気分で聴いている。

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平野啓一郎「ある男」、ちょっと前に読み終わっているのに、アナキズム絡みの本のことばかり書いていたので、中身を忘れてしまいそうだ。

幼子を病気で亡くし、そのときの夫のありように我慢ならなくて離婚した女、宮崎の実家の文房具屋で、強引に親権を主張して連れてきた男の子・9歳?と実母と暮らす。
孫を可愛がっていた父が亡くなり、空虚な心をもてあましていたところに、店に現れた男がスケッチブックや画材を買って行く。
樵をしている余所者、無口な謎の男は度々店に来ては画材を買い足していく。
たまたまその絵を見せてもらうと、中学生が描いたような、下手ではないが特別でもない、だけど真心と懐かしさを感じさせるような風景画、それをみているうちに女は泣いてしまう。

そうして、二人は結婚して、女の子も生まれて幸せに暮らすのだ。
ところが、その幸せも長くは続かない、女の子が3つの時に男は木の下になって死んでしまうのだ。
まことに不幸の続く人にはこれでもかこれでもかと不幸は執念深いのだ。

男は自分の実家と絶縁しているから、もしものことがあっても、絶対に連絡するなと言っていたが、女は男の兄に連絡する。
伊香保温泉の旅館を経営している兄は、遺影をみて「これは弟ではない、知らない人物だ」という。
女が前夫との難渋した離婚調停で世話になった弁護士、それが小説の主人公だ。
女はその弁護士に相談し、弁護士は真相をつきとめるべく動き出す、それが小説のストーリーだ。
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弁護士も、死んだ謎の男も、とちゅうで出会う人たちも、みんな悩み、苦しみを抱えている。
その悩み苦しみは、親がちゃ、生まれてきた者には何ともできない原因によることも。

ミステリを読むような興味がページをくらせる。

人はお互いの過去をどれだけ知っているのか。
人を知る・愛するということは、その人の過去や背景も含めてのことなのだろうか。
普通の人間とはどういう人間だろうか。

意味深長といえば意味深長な小説だが、僕はほとんど感動することはない。
ただ女の連れて行った長男坊主、人生のはじめに妹と死別し父と別れ、すぐに祖父とも死別、なついた新しい父親にも死別した長男坊主、その子の悲しくも健気な成長が、心に響いた。
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主人公が電車の中で出会った妊婦とおたがいに共感のこもった会釈をする。

彼女と交わした微笑が、心地良い余韻を残した。そして、このささやかなやりとりをまったく知ることのないお腹の子供のことを考えた.”彼”なのか”彼女”なのかはわからないが、とにかくあの子が無事に生まれて、成長して行くまでには、こうした無数の、匿名の善意が必要なのだった。そして、自分がその一つになり得たことに慰めを感じた。

これが、もしかするとテーマの一つかな。

あの時代に、地方で泣きながらマイケル・シェンカーを聴いて人に悪いヤツはいないね。俺にはわかるよ、それは。

僕の知らないミュージシャンのことが、いくつも出て来て、その都度スマホで聴いてみたりした。
みんな音楽、だね。

他人を通して自分と向き合うってことが大事なんじゃないですかね。他者の傷の物語に、これこそ自分だ!ってことでしか慰められない孤独がありますよ。
僕が小説を読むのもそれかな。

ううん、三勝四敗でいいんです。わたし、こう見えても、ものすごい悲観主義者なんです。—真の悲観主義者は明るい!っていうのが、わたしの持論なんです。そもそも、良いことを全然期待してないから、ちょっと良いことがあるだけで、すごく嬉しいんですよ。
この人、僕からみたら楽観主義者だ。
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京都俵屋「栗のおまんじゅう 栗 栗あん入り」
クリーっ、という感じはしない、もちもちした餡。
あと味で「ああ、栗かあ、、」と思わせる。
Commented by shinn-lily at 2022-10-15 13:53
平野啓一郎さんの本、難しいそうと敬遠していましたが、今読みたくなりました。
こういう刺激が嬉しい!
Commented by saheizi-inokori at 2022-10-15 19:09
> shinn-lilyさん、私は平野は初めてかな、これは面白く読めましたよ。
Commented at 2022-10-16 05:31
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2022-10-16 09:53
> 鍵コメさん、音の楽しみとは言い得て妙ですね。
知らないバイオリニストでした。今聴きながら書いてます。
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by saheizi-inokori | 2022-10-15 13:42 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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