重い本

重さ780グラム、厚さ5センチ、866頁二段組、仰向けに寝ころんで顔の上で開いて読んでいるとすぐ腕が痛くなる。
筋トレを兼ねた読書だ。
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この人の『我らが歌う時』も上下二巻でとても読みごたえがあった。
けれんみたっぷり、古今東西の知識や諧謔、機智をこれでもかこれでもかと、、ダブルミーニングにも気をつけていないと、だいたいが「黄金虫変奏曲』というタイトルからして、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」とポウの「黄金虫」をかけあわせたダジャレではないか。

語り手の女性はマンハッタンの図書館分館の司書、まいにち「歴史上の今日」という「出来事カレンダー」を善意のサービスとして、作成して掲示している。
利用者の質問に答える質問掲示板や引用掲示板もあって、機智に富んだ回答を楽しめる。

1982年の9月のある日のそれは、
歴史上の今日
9月26日
1918年、4年に及ぶ総力戦を経て、連合軍が西部戦線で攻撃を開始、その後ヒンデンブルク線を突破することになる。その2週間後、十一の月の十一の日の十一の時刻、第一次世界大戦は公式に終戦を迎える。翌年のこの日、新設された国際連盟への支援を訴えるべく合衆国内を遊説していたウッドロー・ウイルソンが、その心身機能を奪う最初の発作に倒れる。そしてそのウイルソンとともに国際連盟への期待も潰える。
というものだった。
読んでいた僕は9月26日の2週間後なら10月じゃないか、とひっかかる。
すると本文の中で、彼女がこの掲示を貼ろうとしていると、
平均より小柄な、華奢な体つきの人物が立っていた。痩せた顔は骨格が美しく、皮膚は老化のたるみに抗している。額が弧を描いてほっそりとした鼻の軟骨に至り、色の薄い下唇は切れ目なく長いあごへ続いている。貧血気味の感じがなかったら、クルーカットの髪型のせいで宇宙飛行士に見えたかもしれない。印象的な潤んだ目は、動物によくあるやわらかな苦痛の色を湛え、最悪を聞かされる覚悟はできているといった表情でこちらを注視している。収容所の難民とか、公的保護下の知的障碍者を思わせる、瞬きを知らなそうな目だ。
これで彼の紹介の半分、あとは服装についての同じようにシニカルな観察があって、歳の頃は「統計でいう中央値を二十年ほど過ぎた感じ」の男が「失礼ながら、間違いがあったようです。日付に少々問題が」という。
ほらみろ、やっぱり9月26日か11月11日が間違いなんだろう、と思って読み進めると、彼と彼女の蒟蒻問答が続き、彼女は彼を後ろに従えてもう一度資料をチェックする。
「いや確かに、疑問の余地はありません。それにあなたの索引の扱い方は実に見事だ。ただやはり、、、」そこで彼は巨大な壁かけカレンダーを指さす。二人は笑い声をあげた。九月二十四日。
彼は差し替えの候補として「アイゼンハワーの心臓発作 1955年」とか「1789年の議会による連邦裁判所法の可決」を提案し、彼女が「アイクの心臓発作でももちろん十分です」と答えると、「アイク大好き(アイ・ライク・アイク)、ってね。あなたはいかがです?」というのだ。
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その後、しばらくしてもう一人の知らない男・フランク・トッドが図書館に来て、「スチュアート・レスラーという人物の正体を知りたい、その人はかつて何か重要な仕事をしたことは絶対に間違いない」という。
レスラーとフランクは同じ夜勤のコンピューターの仕事をしているのだが、フランクはレスラーの正体を知りたいのだ。

彼女は悪戦苦闘の末に、ある偶然によって、ようやくスチュアート・レスラーを見つける。
1957年―分子生物学の脅威の年の「スチュアート・レスラー博士―人の生命の製法を解き明かさんとする期待の新星」という記事に載っていた男はあの「日付のマチガイを指摘した」男だった。
フランクという男も得体の知れないめちゃくちゃ優秀そうな変人だ。
彼女とフランクの恋愛、スチュアート・レスラーの物語、いろんな物語が語られるようだ。

彼女がレスラーの死後、図書館をやめて持っている現金の尽きるまでの10ヶ月でレスラーの半生を探求するために分子生物学の勉強を始めたところまで読んだ。
僕もスマホの検索機能をフルに活用しながら彼女の後をついていこうというのだ。
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ところで、ヒンデンブルク線突破の記事のマチガイは「2週間後」でなくて「4週間後」ではないか、これは単なる誤植か誤訳かもしれない。
そうだとしたら、ずいぶんつまらないことでいろいろ調べてしまいました。

Commented by kogotokoubei at 2022-09-04 09:34
電車で読めそうな本ではありませをね^_^

著者は、ビューリッアー賞受賞しているんですね。

こういう本を時間をかけて読むのも、読書の楽しみだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2022-09-04 09:52
> kogotokoubeiさん、電車でも座っていれば読めますが、持ち歩きは重たいな。カフエに持ち込んで読もうと思います。
Commented by mitch_hagane at 2022-09-04 17:19
saheizi-inokoriさん、久しぶりです。

これは面白いですね。
原文に当たってみると、そのとおりで、邦訳は間違っていません。
原文はここで読めます。Google Booksです。
https://onl.tw/XqTEHNh

2週間は誤りで、どうみても6週間が正解ですね。
海外の人で、やっぱりおかしいと指摘している人がいます。
http://russillosm.com/gbv.html

ちなみに、5年間毎日書いたと云っていますが、5年x50週x5日=1,250日となっているので、ウィークデーだけ書くのではないでしょうか。1982年9月26日は日曜日なので、書く日ではなかったのだと思います。9月24日は金曜日ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2022-09-05 08:37
> mitch_haganeさん、ご丁寧にありがとう。6週間?4週間ではないのですか?!
こんな間違いがまだ訂正されていないのはなにかあるのでしょうか。版が改まっていないのかな。
Commented by saheizi-inokori at 2022-09-05 12:43
> mitch_haganeさん、わあっ!なんたる間違い!9月から11月でしたね、6週間当たり前でした。
なんども指まで折って確かめたのに一月抜けていました。お恥ずかしい!

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by saheizi-inokori | 2022-09-03 13:45 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(5)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


by saheizi-inokori
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