店屋物

店屋物というとまず病気を連想する。
子供の頃、それほどひどくない風邪ひきで学校を休む時、いつもというわけではなかったけれど、母は会社に行ってしまって、あれはどうやって注文したのだろう「かけ饂飩」、駅前から自転車に乗ってたった一つを配達してくれる。
カギのあいている玄関の戸をがらがらっと開けて、「はい、お待ちどうさま、ここに置きますよ」、真っ黒な汁から、ぷ~んと醤油とカツブシの匂いがして、自分ひとり、弟は食えないと思うと申し訳ないような、得をしたような気がした。
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子供を育てる亡妻はときどき調子が悪くなり、店屋物で済まさざるを得ないことがあった。
夜遅く帰宅して玄関先に丼などがおいてあると、ああ、また、と暗い気持ちになった。
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警察のときは、運転士と囲碁のような遊び(ルールも道具も囲碁そのものだが、内容はとうてい囲碁とはいえない)を昼休み中に、10局くらい打って、そのときは蕎麦をとって夢中で食った、食っている間も交互に石を置いたからうまいも何もあったものじゃない。
目の前が横浜中華街で、葱ソバなどうまいものがたくさんあるのに、囲碁のようなものの方が魅力があったのだ。
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国鉄本社の職員局に行ったら、しょっちゅう午前中の会議が長びいて、これは昼飯を食いに行く時間はなさそうだと、労働課総括が判断すると、庶務に「お~い、飯の注文取ってくれ」と怒鳴る。
10人くらいが、てんでに「かつ丼」「カレーうどん」「天丼」「モリ蕎麦の大」「おれはそれに卵つけて」などというのを庶務の男がメモして駅前の蕎麦屋に電話する。
東京北局から給与課に行ったばかりは、さすが本社はちがうなあ、待遇がいいや、と喜んでかつ丼を頼むことが多かった。
ところが給料日になると庶務がまわってきて「え~と、佐平次さんは五千いくらです」と集金するのだ、早く云ってくれって。
それからは「モリの大、玉子付き」が多くなった。
それにしても、人の食うかつ丼はうまそうに見えたものだ。
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病気のときでも、仕事が忙しい時でも、店屋物ってのはなにがなしココロオドルものがあったなあ。
Commented at 2022-06-16 09:51 x
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Commented by みい at 2022-06-16 11:13 x
おはようございます!

サンチ君、かわいいなあ♡
なでなで、抱っこしたくなります^^。

紫陽花は、やはり雨が似合いますね^^。
Commented by jyariko-2 at 2022-06-16 11:57
店屋物 この言葉を知らずに大人になりました
叔母の家に用事で行った時に「店屋物で御免なさいね」と何だったか用意してくれ
その言葉を知りました 20歳ころだったと思います
私にはその店屋物が凄いご馳走に思えとっても嬉しかったのです
子供の頃の食卓はどうだったのか記憶にありませんが不満があった気もしていません
世間を知らなかったってことでしょうね
Commented by 20070707open at 2022-06-16 14:08
店屋物、私も子供の頃から大きな憧れを抱いています。
生まれ育った場所が大学の所有する国有林を管理するところだったので店屋物を取りたくても町から遠すぎて配達してはくれません。
母がたま~に街に行ってビニール袋に冷麺などを入れてもらい持ち帰るのが楽しみでした。
私なんてかつ丼を初めて食べたのは社会人になってからでした。
美味しすぎて・・・こいうものを好きなだけ食べられるように頑張ろう!と思ったものです。
saheiziさんの職場で男の人たちが店屋物をモリモリ食べている様子が目に浮かび、いいなって思いました。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 15:04
>鍵コメさん、ありがとう、未読です。そのうちにね。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 15:05
> みいさん、ありがとう。サンチも15歳ですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 15:07
> jyariko-2さん、お店のものを取り寄せて食べるなんて贅沢なことでしたから、かけ饂飩一杯でも嬉しかったです。
家庭はまさに一汁一菜みたいでした。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 15:12
> 20070707openさん、海外からの観光客に海外から友人がきたら何をたべさせたいか、と聞かれて「かつ丼」と言ってました。
徹夜の連続が多かったですから「腹が減っては戦は出来ぬ」でした。
Commented by rinrin1345 at 2022-06-16 17:50
我が家は田んぼの真ん中ですが一応昔から電話すると持って来てくれます。そのお店が色々減っちゃって。選挙とか急なお客様用で、特別なイメージですよ。
Commented at 2022-06-16 22:20
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Commented at 2022-06-16 22:57 x
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Commented by Solar18 at 2022-06-16 23:04
店屋物という言葉が懐かしいですね。
でも、実家にはこの習慣がなかったので、結婚してそれができる状況になっても、なかなか馴染めませんでした。
ドイツでもコロナ以来、契約レストランから運んでくれるサービス業ができて、店屋物が取れるようになったのですが、まだ頼んだことはないし、頼みたいとも思いません。店屋物はやっぱり蕎麦とかお寿司が似合いそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 23:11
> rinrin1345さん、選挙!事務所で取るのかな?
法事にもありそうですね。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 23:13
> 鍵コメ2220さん、さっそく!ありがとうございました。明日パソコン画面で拝見します。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 23:16
> 鍵コメ2257さん、いしやま食堂!あれは四年前かな、坂下にいるときは手打ち蕎麦を駅でとつたことがあります。あれはいしやまではないかな。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-16 23:19
> Solar18さん、そういえば鰻の出前があったのですが、このところどんどんなくなってしまいました。あれは贅沢なもので嬉しかったです。
Commented by at 2022-06-17 06:29 x
中学のころ、職員室に入ると、丼物や麺の醤油がプーンと漂っていました。

カツどんと言えば、刑事ドラマの名脇役。
「クニは?」「お袋さんは元気なの?」
なんて言いながら、心を開かせていくのです。

Commented by saheizi-inokori at 2022-06-17 09:27
> 福さん、そうそう名脇役!いい得て妙です。
店屋物じたいが人生の名脇役かもしれないですね。
Commented by tona at 2022-06-17 09:55 x
恵まれているのか、そうでないのか?店屋物はよその家でしか食べたことがないです。
saheiziさんの来し方のを読んでいますと懐かしい感じがしてきました。
美味しかったのだとわかります。
最近、藤井さんなどの勝負飯が話題になりますが、どんな感じでお腹に入るのかしら。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-17 12:40
> tonaさん、藤井さんの頃は何を食べてもおいしいのでしょうね。
あの食欲と味覚を懐かしく思います。
Commented by doremi730 at 2022-06-17 14:41
店屋物って70歳の現在まで食べた事がないので、
ちょっと憧れもあります。
でも根がケチなので、コンビニのオカズやご飯も買えない、、
自分で作れば何分の1で出来ると計算してしまう(^^;
きっと寝たきりになって息子の介護を受けるようになったら
憧れの店屋物が食べられるかも、、、
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-17 21:27
> doremi730さん、それは幸せな食生活を送ってこられたのですね。
息子さんたちが今でもご飯を食べにくるのはそのためでしょうね。
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by saheizi-inokori | 2022-06-16 09:24 | 人生の御馳走帖 | Comments(22)

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