あのサントリーはどこに行ったのか

サントリーという会社は、昔はなんとなくいいイメージがあった。
佐治敬三の文化人的スタイル、開高健、山口瞳、柳原良平、「洋酒天国」、サントリーホール、小林亜星の「夜が来る」をバックにしたテレビコマーシャルもしゃれていた。



今はほとんど日本酒ばかりを飲むが、学生時代は、ウイスキー、ブランデイ、ジン、ワイン、ビール、横文字の酒をよく飲み、その方がうまいだけでなくカッコいいと思ったのにはサントリーの広告戦略のせいもあったのではないか。

今のサントリーは、アベの桜を見る会に無償で商品を提供したという。
芸術家のイベントとか、貧しい人たちの慰めのためというのなら、わからないでもないが、こともあろうに、なんであの醜い桜見物に、と呆れる。

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このところ、とてもうるさいコマーシャル、若い女性が絶叫しながら田を耕して、水をごくごく飲んで、また絶叫するのだ。
農作業に対するリスペクトも皆無の、若い女性を商品化した、イヤらしいコマーシャルだ。
なんのコマーシャルかと思ったら、サントリーの天然水。
ほら、サントリーの企業文化がこんな風に変わりましたよ、という広報かもしれない。
経営者が変わると企業文化も大きく変わる、これは悪例というべきだ。
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「雲をつかむ話」、最後まで雲をつかむような、浮遊するような小説を読み終えてしまった。
全部が全部、雲をつかむのではなくて、表紙の絵のように、しっかりした亀の甲につかまったと思ったら、すぐに別の亀がやってきて、その背中で面白い話を楽しんでいると、またすぐに別の亀がやってくるのだ。
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著者が日本酒とドイツ語、二か国語の詩集を一冊二十五マルクで売りますと書いた紙を、一階のベランダの張り出し窓に貼っておいたら、背の高い若い男が、それを買いたいとやってきた。
日本的な模様の包装紙にリボンをつけてくれという注文をかなえるのに時間がかかった。
すると男は顔も上げずに「財布を忘れたので家に帰ってとってくる」といって消えてしまった。
その男は複数の人殺しをして警察に追われている間、著者の家に退避したのだ。
やがて、その男から刑務所改善促進運動のモデルになっている刑務所に入っているという手紙が届き、図書館に通って本を読んでいるうちに、著者から買いそこねた詩集も読んだ、などと書いてきた。
著者の留守に尋ねて来て、会えないままに刑務所に帰ったことを聞き、
自分がコンクリートの壁に閉じ込められているところを想像してしまう。それは思春期からずっと治すことのできないわたしの癖だった。
刑務所、犯人をキーワードにモクモク雲が湧いてモクモクと亀が歩いてくる。
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落語を聞くように、おかしくて一人で笑ってしまうような亀、内田百閒がにやっと笑ってこっちを向いているような亀、異常心理をテーマにした映画のようなドラマチックな亀、離陸前後の飛行機機内(エコノミー)のあるある描写の亀、、。
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それにしても、あかの他人たちとの共同生活を強いられるのでは監獄と同じではないか。外に逃げられないところも監獄と似ている。監獄ならば隣にいる人間も法に触れたことが初めから分かるので、「お前は一体何をやらかして入ったんだ」というような話がしやすいのではないか。飛行機の場合、そういう話はしにくいが、隣にすわった男が人を殺したことがある可能性は意外に大きい。過去十年をふりかえってみても、たくさんの戦争があった。
こういう本にまためぐりあうことを期待して、今日もまた本を読む。
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Commented by wawa38 at 2022-06-13 13:45
アンクルトリスの広告を憶えています。あのキャラ、好ましく思っていたのですがねぇ。

水色のお皿に乗っかった和菓子、美味しそうです。水まんじゅうのようにも見えます(^^♪
Commented at 2022-06-13 16:14 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ppjunction at 2022-06-13 16:32
リーバン・クリーフ、カッコいい!懐かしい!、サントリーのあの爪引きながらの声、良いわね〜。
あの時代はCMがショートムービーでしたね。
理由は判らないが、泣きながら電話ボックスで電話している男性の姿とか。
その映像に被るウイスキー。
CMが楽しかった。コピーも洒落て、素敵でした。
Commented by りんご at 2022-06-13 16:42 x
鳥井春子さんや日本を代表する女性の20年前のインタビュー本を読んでました!
「表裏のある女性は年齢にかかわらず本当に多いです 私 かないませんわ」と笑う
義父の信次郎と毎朝1時間の読経、寿不動産の個人筆頭株主の彼女、生前それを
サントリー文化財団に寄付してたとか。世は株と金 トリイサンの消滅という 
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 17:38
> wawa38さん、トリスを飲んでハワイに行こう!ハワイは夢でしたね。
そうです、水まんじゅう、近所の菓子屋、うまいのです。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 17:38
> 鍵コメさん、根拠は?知らないでいる方がいいのかな。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 17:42
> ppjunctionさん、サミー・デイビス・ジュニアのサントリーホワイトも良かったなあ。
今こんなレベルのCMはないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 17:46
> りんごさん、ちょうど読んでいらしたんですか!
祖母や伯母は寿屋を「すや」とよんでいました。そうよんだこともあるのでしょうか。
Commented by りんご at 2022-06-13 18:15 x
昨夜です さく夜!  南回りの糸でんわ
春子さんは外国を飛び廻った生活から、いつも「着物を着てるお嫁さん」に
日本の強くて美しい女性が2000年前後にたくさん逝かれたなと思います 
Commented at 2022-06-13 19:26 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 21:38
> りんごさん、厳しい時代を生き抜いてきた人が多いのではありませんか?
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-13 21:39
> 鍵コメさん、いやいや、こういうコメント面白いです。ありがとう。
Commented by mumonngamaTNK at 2022-06-13 23:17
サントリーは買いません。 
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-14 07:26
> mumonngamaTNKさん、そういう人が増えたので絶叫コマーシャルかな^^。
Commented by ikuohasegawa at 2022-06-14 16:15
親父が大事にちびちび吞んでからにした「ダルマ」の空き瓶を大事にしていた小学生でした。
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-14 18:26
> ikuohasegawaさん、まさか底に残ったのを飲みはしなかったでしょうね。
Commented by at 2022-06-15 06:30 x
「刑事コロンボ」を見ていると、犯人(常に上流階級)がブランデーやウイスキーをさっと注いで飲む場面が出て来るのに驚きます。
割らないのかい?そう訊きたくなります。
サントリーの件、談四楼のツイッターで知りました。
洒落たCMはバックの切ない音楽とマッチして高度成長期のシンボルでしたが・・・
Commented by saheizi-inokori at 2022-06-15 09:01
> 福さん、職場にも常備してなにかというと気付け薬のように飲むのですね。
私もいちど真似をしてウイスキーを隠し持ったことがあります。
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by saheizi-inokori | 2022-06-13 11:45 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori