運命は冷酷だ ギッシングの短編を読む

シンガポールの次男は、新しいマンション―狭いけれどオフィスに近く、31階建ての30階―を決めて、まいちゃんと柴犬・シイちゃんも元気で合流、イケヤとニトリで家具を探した由。
飛行機に乗せられるケージのなかのシイの情けなさそうな写真をみて心配していたのでヤレヤレホだ。
早く暑さになれるといいな。
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ギッシングの短編集のうち、訳者がこの短編集を翻訳するきっかけになったという、彼が明治大学で講じた「資本家」と「運命と薬剤師」を読んだ。

中年で、健康と逞しさに溢れてゐたが、體つきはすらりとしてゐた。知的といふよりは抜け目のない、見て気持ちのよいといふよりは趣のある顔。いつも流行どほりの服装はしてゐたが、洒落者といふ風はなかった。たしかに消費階級に属してゐるし、どうやらまたみいりの多い階級にも属してゐるらしかった。
薬種問屋の店員をしていたが、こき使われることには馴れないでいた男がふとした縁で金儲けのうまい男と知り合い、自分も金持ちになる。
金持ちの女と結婚するが「二度と金持ちの女と結婚はしないだろう。僕はさういふ連中は好かないのです。僕の親友、ほんとの友達はみんな多少とも苦労してゐる人たちです。で機会があればさういふ人たちを助けて上げることが楽しみなのだ」と、そんな男が主人公の「資本家」。

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もう一人の男は、イングランド西部のある都会の「花咲き緑かげ濃き」郊外に薬局を開業する。
彼がこの物件に希望を抱いたのは、ここが郵便局も兼ねているということだった。
だが、彼を助手に雇い入れた薬剤師たちは、彼には仕事を頼まない方が安全だと感じた。
急がせたり、途中で口出しした日には決して急場に間に合う人間ではなかった。
目鼻だちは甚だまづく、頑固にむづかしい顔をしていた。
笑ってさへそれが嫌味になり、どうしても商人らしい調子の声が出せなかった。
そして、ちょっと気にさはることがあると、まるでそんな積りのない時でも、食ってかかりたくなるのだった。
というわけで、こちらの元薬剤師の助士は、花咲き緑かげ濃き郊外で成功する見込みはなかった、郵便局と併営なんてまずいことだらけだった、それが「運命と薬剤師」。

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対照的な二人の男の人生が、対照的に光と影の人生になる。
僕の人生もこの二人の人生のあいだを彷徨ってここまで来たような気もする。
救いはどっちか一方だけに偏らなかったってことかもしれない。

しかし、「蜘蛛の巣の家」に出てくる人の好い、不運な男も元薬剤師の助士だった。
ギッシングもそうだったのかとググってみたが、そうではなさそうだ。
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ふたつの短編を読み「これらの作品の世界に甚だ興味を持ち」、「蜘蛛の巣の家」という短編集を通読し、「これらの作品は、自分にとって非常に身ぢかなものに感じた」という吉田甲子太郎先生の講義は、どんな風だったのだろう。

Commented by koro49 at 2022-05-01 16:30
クレマチスが色々咲いてますね。
我が家のは、もう少し時間がかかりそう。

息子さんご家族も、新しい生活がスタート。
コロナが収束して、saheiziさんも会いに行けるようになりますように!!

娘さんご家族・・・大変でしたね。
息子家族は、三回目を未だやって内らしく心配してるのですが。
中二の双子以外には接種券は届いたらしいのですが^^;
Commented by saheizi-inokori at 2022-05-01 18:25
> koro49さん、クレマチスもみんなよそ様の庭に咲いています。
私は写真を撮るだけ。
あまり役に立たないかもしれないワクチンでも、やらなければやらないで心配の種ですね。
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by saheizi-inokori | 2022-05-01 11:31 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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