愛は凶暴なもの

きのうはサンチとの散歩のとちゅうで、カフエに入った。
まえから気になっていたけど入るのは初めてだ。
スタッフも客も若い人ばかり、サンチはもてて尻尾をフリフリ。
いぜんは人見知りしていたのに、さいきんはそうでもなくなった、もっとも若い女性には前からだらしがなかったかな。
サンチを膝において本を読んだが、やはり集中できないので、そうそうに帰った。

愛は凶暴なもの_e0016828_11484274.jpg
「フィンツィ・コンティー二家の庭」のつづき。

わたしは、ミコルの不在の間、兄のアルベルトの部屋で、彼の親友・マルナーテと話す習慣になる。
ほとんどわたしとマルナーテが議論して、アルベルトは黙って、マルナーテを応援するような態度で話を聞く。

ピグーニャ毛織の灰色のズボンに、枯葉色の、彼の素敵なセーターのひとつをはおり、栗色の英国製の靴をはき(あとで、ドーソンのだといった。ミラノのサン・バビラ附近の店で見つけたそうだ)、フランネルのシャツをネクタイなしで首で開けて着て、歯のあいだにはパイプをはさんでいたアルベルト。
特別にデザインしたフイリップスのステレオ再生装置とクラシックとジャズのレコード、窓よりにななめに置いてある、金属の広い照明ランプにのしかかられている大きな製図用の机、「ドムス」とか「カサベッラ」とか「ストゥ―ディオ」などのイギリスの雑誌から少しずつデザインを拝借し、コペルタ通りの建具屋に作らせたのだ。

わたしは、またフィンツィ・コンティー二家の人たちと晩餐をともにすることも多くなる。
鶏の肝臓入り米スープ、ゼラチンで固めた七面鳥の肉団子、黒オリーヴとほうれん草添え牛舌の煮込み、チョコレートケーキ、生果物と乾燥果物-くるみ、はしばみの実、干しぶどう、松の種子。
ばら色がかったフランス風の木製の家具、弓なりに撓った人の口めいた暖炉、総皮張りの壁。
かぎりなく親密な、かぎりなく閉ざされた、いわば埋葬されたかのような密室。
決められた席のエルマンノ教授の左側だけが空いている。
そこは<わたしのミコル>の坐っていた席だと教授が教えてくれる。

わたしが教授の好意でまいにち論文を書くために通ってくる部屋の有様、それに続く教授の書斎、さらに二万冊の書庫、、。

富と歴史が作り出した夢のような空間の描写を読みながらも、僕は彼らを待ち受ける運命ードイツの火葬炉のことを思っては、ある種の焦燥感、寂寥感、喪失感に囚われる。

愛は凶暴なもの_e0016828_11551179.jpg
わたしが、高校時代からおなじみで第二の家みたいにし、館長にもよくしてもらっていた図書館の閲覧室のテーブルに坐り、カバンのなかから必要なものを取り出した瞬間、
館員のひとりのポルドゥレッリ―七十歳くらいの太った陽気な男で、マカロニ、スパゲッテイなど麺類の大食家で、方言以外では喋れないーが走りよって来て、ただちに退去するように通告した。太鼓腹を突きだしセカセカと入ってきて、わざわざ口にだして、事務的な甲高い声で説明した。館長の至上命令である、すぐさま退去してほしい。その朝の閲覧室は中学生たちでとくに混んでいた。この場面は墓場のような静けさのなかで、少なくとも五十組の眼と耳とで追われていたわけだから、このことからだけでも、テーブルの本やノート類を集めて、またカバンにしまい、そして、一歩一歩、ガラスの入口の扉まで歩いていくのは、実に不愉快きわまりない気分だった。

愛は凶暴なもの_e0016828_11555333.jpg
さてミコラだ。
ヴェニスで卒論をしあげて(ドイツ人教授の猛反対によって優秀賞はとれなかった)、フェルラーラに帰って来る。
わたしは強引にだきしめ、キスをするが、彼女は「手遅れだ」といい受け入れない。
恋愛できない数え切れない理由があるといって、
まず、わたしと恋愛するのは、兄と、アルベルトを相手にするのと同じくらい障害が多い。たしかに小さいころからわたしに惹かれていた。そしておそらくそのせいだろうが、いまでも彼女を抑圧的にさせる。あなたは、、、あなたは、わたしの横にいるのよ、わかる?まえにではなく。しかし愛というものは―想像したかぎりではーおたがいに相手を圧倒し打ち勝とうと決意すべきものらしい。テニスよりずっと激しい、残酷な、凶暴なスポーツなのよ!どんな攻撃でも受けとめ、それをやわらげようとする生真面目さはしりぞけねばならない。

  解けもしない無益な問題にとらわれて
  恋に生真面目さをまじえようとした
  愚かな夢想家なんぞ
  永遠に呪われるがよい

ボードレールがはっきり警告しているわ。そこで、わたしたちはどうかしら?ふたりとも愚かしいまでに生真面目で、水の二滴ほどに一から十まで似ている(<同類は戦えないのよ、そうでしょ!>)、だから、相手を打ち負かすことなんてできっこないんじゃないかしら?真面目に引き裂きあうことなんてできて?
駄目なのだ。彼女からみれば、どうやら神がわたしたちをそういう宿命のもとに置いたらしく、希望をもてそうもないのだ。
うーむ、難しいなあ、僕も生真面目だったと思う。


名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2022-04-26 12:00 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(0)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori