話をしよう

いつもはトーストと野菜スープにヨーグルトの朝食を、うまいうまいと食っているが、今朝は昨夜の鳥鍋のスープで雑炊を作ってもらった。
卵を溶いて、蕪や葉っぱをきりこみ、油揚げと大根の味噌汁にヨーグルト、寝不足は多幸感をもたらすのか、と思うほどうまかった。
話をしよう_e0016828_11441502.jpg
寝不足というのは、カイカイだ。
昨日皮膚科で塗り薬を変えてもらって、すこし楽になったと思ったけれど、あったまってうとうとするとジワ~ツンツン痒みの虫が背中を腰にいっせいに這いまわって、クビやら頭やら顔やら、とうとうグシグシ頭を掻いている。
小三治もだめ、小さんはもっとダメ(声が低すぎる)、呼吸法もかえって痒みに集中してしまうじゃないか。
「聞き流す雑学」という動画で、「ハンサムを二枚目、道化を三枚目というが、一枚目から八枚目まであるのだ」なんていうのを何時間も聞き続けて(なんどかトイレにも行き、そうすると冷えて痒みが消える)、とうとう朝を迎えて、洗濯機を回した。
まあ、痒くて眠らないでも雑炊をお代わりできたんだから、そんなに心配しなくてもいいのか。
明けない夜はない、っていうし、でも夜が怖い。
話をしよう_e0016828_11450483.jpg
皮膚科の帰りに梅が丘のカフエで、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(村上春樹訳)を読み終えた。

ホテルのロビーで、デートの相手を待つ、さまざまな女の子たちを眺めて「そんな女の子たちがこれからどうなっていくんだろう」と考えて、「車の燃費のことみたいなことしか話さない男」とか「ゴルフの結果でムキになって不機嫌になってしまうような男」とか「本なんて全然読みもしない男」、「救いがたく退屈な男」たちと結婚しちゃうんだろうな、と思って「気が滅入ってしまう」ホールデン。
周りに見える男たちのほとんどが、インチキ野郎なのだ。

愛する弟の墓にお参りにいっても、雨が降り出すと、あわてて自分の車に戻って、ラジオなんか聞いて、しゃれた店で夕食を食べるみんなに耐えられない。
僕が真剣に死んじまったら、遺体を川にどぶんと投げ込んでくれないか、それが良識ってもんだ。
ろくでもない墓におしこめられるのだけはまっぴらだ。
話をしよう_e0016828_11460549.jpg
ホールデンは彷徨する。
誰か崖から落ちそうになる子をキャッチするんだ、そのためにクレージーな崖っぷちを歩くのだ。
いいえ、それはキャッチじゃなくて「出会う=ミート」の間違いだよ、と分身のような妹・フイービーが教えてくれる。

福さんが、コメントしてくださったので、小満んの「あちたりこちたり」という落語を思い出した。
はためには滑稽なようなあちたりこちたりだが、ホールデンがとつぜん泣き出すところに来ると僕の涙腺も緩みそうになった(世田谷のマダムたちの前で泣くことはできなかったけれど)。
話をしよう_e0016828_11465562.jpg
(けんちんソバって言うけど、うどんに近い。甘くて、こんなのも悪くない)

英語の口述表現の試験に落第して学校から追い出される。
その試験では話が脇道にそれると、生徒たちが「脇道!」と怒鳴るのだ。
誰かの話が脇道にそれるのが好き、その方がずっと面白いのに。
それは、話のポイントから外れないということではない、話のポイントから外れない人は好きだ。
でも、ポイントにいつもいつもしがみつくような人は好きじゃない。

僕もだ。
世の中はシンプルなようでいて複線だらけなのだと思う。
脇道にそれるのは、傍がそう見ているだけで、歩いている人はまっすぐに歩いているのかもしれない。
迷っているうちに、見通しが開ける場所に出てくるってことも多いのじゃないか。
話をしよう_e0016828_11492473.jpg
(外側は枯れて落ちなんとしてるのに内側に青い葉が残っている。未熟とみるか、若さとみるか)

ホールデン少年は、彼の話をまともに聞いてくれて、受け止めてくれて、まともに一緒に考えてくれる人を求めている。
自分もそうでありたいのだ(でもわかってくれない)。
それなのに、、インチキ野郎ばかり。

僕は女の子と遊ぶことも、ましてホテルのバーでカクテルを飲むこともしなかった、インチキ野郎だった学生時代を顧みながら、あの頃読んだ太宰治のことも考えながら、この小説を読んだ。
しみじみいい小説だと思った。
Commented by jyariko-2 at 2021-11-30 16:35
痒いのはいたたまれないですね 遺体のも嫌ですが
そんな夜は長い事でしょうね
インチキ野郎ですか そうかもしれないけれどそれが〇〇〇なんて言ったらダメ?
話の脇道に入って出られなくなる事が有ります
脇道の話しているうちにあれ?なぜこの話してたんだっけ?って
Commented by kuroguly18 at 2021-11-30 16:37
痒いのも辛いですね。
良い薬に出会えると良いですね。
Commented by baobab20_z21 at 2021-11-30 16:51
確かに、話しのできる奴と出会いたかったという主人公のくだり、、込み上げるものがありますね。
インチキ、そして薄っぺらいのが多いですし。

翻訳は、やっぱり今のが好みです。ファウストの昔の訳とわりと最新のとを比べても全然違う。やっぱりアップデートしてますね。

カユカユが大変そうで…お可哀想に。私も痒がりですが、痛みよりも痒みのほうが耐えがたい気がする。
お大事にしてくださいね♪
Commented by saheizi-inokori at 2021-11-30 17:01
> jyariko-2さん、ぐるぐるまわっていたり、ね。
Commented by saheizi-inokori at 2021-11-30 17:02
> kuroguly18さん、抑える薬を飲んでいますが、強いので恐る恐るです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-11-30 17:04
> baobab20_z21さん、かけば気持ちがいいのですが。
それを堪えるのがツラい!
Commented at 2021-11-30 20:59
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-12-01 09:35
>鍵コメさん、ありがとう。
今朝は幾分よくなりました、これから又医者です。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2021-11-30 11:56 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31