禅とサリンジャー

いい天気が続く。
洗濯物がよく乾くのが嬉しい。あの二十世紀アメリカを代表するという『ライ麦畑でつかまえて」もふくめて、まったく読んだことのないサリンジャーの小説世界を貫く謎を解いていく。
図書館の長い行列に耐えて、ようやく手に取った。

『バナナフィッシュにうってつけの日』という、グラス家のサーガの最初の一篇で、シーモア・グラス・３１歳は、とつぜん頭を拳銃で撃ちぬいて死んでしまう。
それは、ほんとうに自殺だったのか？
サリンジャーは、『バナナフイッシュ』の刊行後１７年にわたって、グラス家のサーガを発表し続けて、そこではグラス家の人びとは、シーモアのことを語り続け、最後の作品『ハブワース１６、１９２４年』では、そのシーモアが、３０歳を過ぎての自分の死を予言している。
しかも、「ぼくたち[シーモアとパディ―]のどちらかがこの世を去るときには、いろいろな理由で、もう片方がそこにいることになる」ともいうのだ。

『バナナフィッシュ』でシーモアは31歳で死ぬが、そこにはパディーはいないようだ。
天才少年・シーモアの予言も半分しか当たらなかったのだろうか。
多くのサリンジャー作品を読めば感じとられることだが、彼は死者シーモアに対して誠実であることだけを誇りとして書き続けていたようにも見えるというのに。
(目黒区役所)

7歳のシーモアの予言にある「いろいろな理由」とはなんだろうか。
それを考えていく過程で、松尾芭蕉の俳句や弓聖・阿波研造の禅弓術、鈴木大拙の言葉などに触れて、最終的には、サリンジャーの作品において、死者と生者が不思議なやり方で結びついていること、そのような関係自体がサリンジャーの作品を生み出す源泉であったことを詳しくみていく。
時間の存在を疑ったカルロ・ロヴェッリなどもときおり登場する。

半分ちょっと読んだが、サリンジャーの作品を読んでいなくても十分面白い。