内へ内へと向く命の方向 「彼岸過迄」

所要のあと、中目黒で途中下車して、目黒銀座から目黒区役所のなかを通り抜けて、駒澤通りをバスで帰る。
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村野藤吾が千代田生命の本社として設計した、建物のなかは迷路のようで、職員も迷うのではないか。
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とくにいつもと違って中目黒の方から入ったので駒澤通り側の入り口は3階になるのを忘れて、変だ変だとそろそろ痛み出した膝をいたわりながら迷って、けっきょく案内所で尋ねた。
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おかげで、今まで気が付かなかった中庭の池や、それに面した和室、池に写り込む白い柱などを見ることができた。
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ぶらり途中下車の旅のミニミニ版だ。
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先日、市蔵(敬太郎の友人)周囲の人々、高等遊民やブルジョワ連中の生活や口の利き方やお行儀を冷やかすようなことを書いたら、そのすぐ後にこんな文章が出てきた。
市蔵の家の「作」という名前の19歳になる小間使いに珍しく優しい言葉をかけて、「嫁に行きたくはないか」と尋ねると、赤い顔をしてうつむいたのを見て、
其時始めて、自分の家に使ってゐる下婢の女らしい所に氣が付いた。
そして千代子や母と二階で涼んでいるときに作が氷菓子(アイスクリーム)を盆にのせて持ったきたときに、
僕は其度毎階級制度の厳重な封建の代に生まれた様に、卑しい召使の位置を生涯の分と心得てゐる此作と、何んな人の前へ出ても貴女(レデー)として振舞って通るべき気位を具へた千代子とを比較しない譯に行かなかった。千代子は作が出て来ても、作でない外の女が出て来たと同じ様に、なんにも気に留めなかった。
とある。

これはその後に明かされる市蔵の出生の秘密に関わる重要な伏線である。
そうであるけれど、この伏線はこの小説を社会の不平等や維新後にも遺されている階級差の方向へは発展していかない。
「内へ内へと向く命の方向」を逆にして、「外へとぐろを捲き出させる」ために、「外にある物を頭へ運び込むために眼を使ふ代わりに、頭で外にある物を眺める心持で眼を使うやうに」する目的で旅に出るのだ。
これが漱石、らしい、難しいね。
僕などは、さしづめ「頭にない物を眺めてそのままにしては忘れてしまうのでブログに載せる」ぶらり旅なのだ。
Commented by 佐平次ファン at 2021-11-13 12:32 x
「敬太郎」は須永「市蔵」の誤記ですね。
前回もちょっと気になりました。
Commented by saheizi-inokori at 2021-11-13 12:56
> 佐平次ファンさん、ありがとう。直します。
Commented by doremi730 at 2021-11-13 16:16
目黒に13年も毎日仕事に通っていたのに、目黒区役所に行った事がありません。
ぶらりミニ旅ありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-11-14 09:26
> doremi730さん、屋上庭園も面白いですよ。
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by saheizi-inokori | 2021-11-13 12:03 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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