自民党総裁候補よ、君は日本をどうしたいのか？

昔、家に電話機がついている人は金持ちか、仕事上必要な特殊な人だけだった。
中学のときに、僕がベートーヴェンの交響曲のなにかを好きだと知った、クラスの女の子が「電話すれば電話で聞かせてあげる」というではないか。
公衆電話で、いくらコインを持っていけば良いってんだ！
社会人になって、社宅に会社が電話を入れてくれたときは、嬉しかった。

電話を持っていない頃、たいていの電話番号は空で覚えていたのが、信じられない、今は目の前に書かれた番号すら空で回せない。

いろんな連絡とかご機嫌伺いは、もっぱらハガキだった。
旅先には切手を余計にもっていって、風呂上がりに浴衣に着かえて、晩飯のまえにいろんな人に一筆書いた。
その人を思い出しつつ、ふさわしい言葉を探す喜び。
なぜか今は、そういうことをしなくなり、はるかに手軽なメールですら、送らなくなった。
旅先の絵葉書に記された一筆のもたらす感興は、いつでも送れるメールでは代わりが務まらない。
便利になって人情や情緒が希薄になったような気がする。
30年前に中村哲は「アフガニスタンの診療所から」に、こう書いている。

今や全世界で、皆がおそれながらも口に出しにくい事実は、我われが何かの終局に向かって確実に驀進しているということである。我われの未来を考えるのは幾分恐ろしい。我われはいっぽうで地球環境や人口問題を問い、他方で経済の活性化を語る。だが明白なことは、自然破壊なしに経済成長なく、奴隷なしに貴族はなく、貧困なしに繫栄もないということである。さかんに使われる生活水準ということばにしても、いったい何をもって「生活」と称するのか、「欧米なみ」ということばに私は何かやりきれぬものを覚えるようになった。
今まで「発展途上国」ということばが、「後進国」の差別的イメージをさけるために使われてきた。だが、はたして何に向かっての発展なのか。もっと公平にいうならば、「先進国」も、「発展過剰国」といいかえるべきである。無邪気に技術文明を謳歌する時代はすでに過ぎ去った。

30年経って、今は多くの人が、同じようなことをいうようになった。
そして、毎年の異常気候による災害の多発、グローバル化による世界的コロナ・パンデミックを目の前にして、いよいよもって、従来通りの経済成長路線の妥当性を疑わせる事態が招来したかのようである。
「ペスト」における「ペストと闘う唯一の方法は誠実さだ」という主人公の言葉が、リアルな切実さを人々に感じさせる。

にもかかわらず、スガは、自らのなすべき職務が何なのかを探る努力すら放擲しているようだ。
アフガニスタンに在留する邦人のことに少しでも考えが及べば、あんな、みっともない後手後手の（派遣される自衛隊員にも失礼な）自衛隊機の派遣などありえない。
カブールが陥落した15日には防衛省内では、退避計画の検討が始まっていたのに、スガは「ほとんど関心がなかった」（政府関係者・東京新聞）、岸防衛相も2０日の記者会見で、自衛隊の派遣はしないと述べている。
スガがようやく動いたのは22日、退避対象５００人に対して、邦人一人、アフガン人１４人しか輸送できなかった。
韓国が、いったんカタールに避難した大使館員が再び戻って、アフガン人職員や家族ら約４００人の移送に成功したのと対照的な愚鈍さだ。
スガの「誠実さ」とは無縁の自助強要路線は、コロナ対策だけでなくアフガン対策においても、ぶれることなく一貫している。

中村の言うように「何のために発展するのか」という哲学のかけらもない、ただただ数字だけの経済成長を、いまだに金科玉条にして、世界の劣等生をヨタヨタと演じているスガ政権を自民党は担ぎ続けるのか。
岸田にせよ、誰にせよ、「日本をどうやって滅びの道から生還させるのか」を明らかにすべきだ。
自民党にそれを要求するのは無理であろうとは思うが。