暴走するリニア中央新幹線 「リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」（山本義隆）

今朝は、曇りだし、雨がふりだすという予報を信じて、はなから室内干しをしたら、降ってきた、ざまあみろ、って誰に言ってるんだ。
上半身は暑いのに、短パンの足は冷たい、扇風機が強すぎるのか。ゆうべ、食器洗いをしていたら、ベランダから満月が見えるとカミさんが、教えてくれたけれど、片付けたら見ようと思っているうちに忘れてしまった。
それを見ていたかのように、次男から送ってきた写真、返信もしてないが、元気でいるらしいので、一安心。
何をしていたって、ちょっと手を休めて月を眺めるくらいのゆとりをもたないといけないな。
鷗外をちょっとわきに置いて読んだ。

リニア新幹線を、実現できっこないというタカをくくる気持ちもあって、なんだか遠い世界の出来事のように、感じていたが、東京オリンピックがそうであったように、ＪＲ東海とアベに代表されるアナクロの国家主義者たちは、しゃにむに、実現させようとゴリ押しをしているようだ。

コロナ禍によって、金沢に示されるように、新幹線がコロナ感染拡大に一役買っていた。
山本は、

とするならば今回のコロナ禍は、在来の新幹線をスピードにおいてはるかに超えるリニア新幹線建設の根底にある、より大量の人間をより迅速に運搬することを第一義とするこれまでの鉄道の技術改革を底辺で導いていた思想、そしてそのことによって社会が活性化し経済が成長するはずであるという戦後の高度経済成長期以来の思い込みに対して、さらには経済成長を第一義とする思想そのものに対して、その根本的見直しを迫っていると考えられます。

と述べ、

リニア中央新幹線計画に対する批判は、福島の原発事故とコロナのパンデミックを経験した私たちが現在の日本社会の基本的なありように対してしなければならない総点検の一環なのです。

という。
本書の後半には、広井良典「ポスト資本主義　科学・人間・社会の未来」や斎藤幸平の「人新生の『資本論』」などを引用しつつ、資本主義の根本的見直しについての記述もあって、共感するところが多いのだが、まずは、なぜリニア新幹線に反対するのかを、明らかにしよう。

〇　リニア新幹線の消費電力は、新幹線の4～5倍であり、原発を利用することが前提となっている。
〇　リニアは、その推進機構（インフラ）が、地上の線路にそって何百キロも固定されており、抜本的な改良・進歩の途が大きく狭められている。
他の鉄道との親和性がなく、東京～名古屋～大阪のみに必要とされる孤立した技術である。
〇　超伝導とするために、必要な液体ヘリウムを作るために相当な電力を消費する。
また、実際には、液化されたヘリウムをアメリカから相当な価格で購入しているが、ヘリウム市場はほぼアメリカの独占であり、地下資源としてのヘリウムの供給は不安定とみられる。
〇　超伝導状態が、なんらかの原因で温度が上昇すると、クエンチ（消滅）し、運転できなくなる。１９９９年８月５日、山梨の実験線で、ヘリウムが漏れて列車が停止した。
〇　磁気浮上する高速に達するまでは、ゴムタイヤで地上走行し、ゴムタイヤは側面にも使われている。
リニアの車両は外部から電力が供給されないので、車内の照明や空調は搭載した灯油による発電機を使い、車内の燃料タンクに灯油が貯蔵されている。
パンク、火災（摩擦熱による）は現実に宮崎の実験線で発生、列車が全焼（１９９１）、山梨でも３人が重軽傷を負う火災事故が起きている（２０１９）。
リニアは、大部分を大深度のトンネルを走るので火災事故、とくに煙の充満などは深刻な事態を引き起こす。
〇　リニア完成によって、東京～名古屋～大阪に６０００万人のメガロポリスができると、推進論者はいうけれど、東海道新幹線は、むしろ東京一極集中をもたらしたし、たとえメガロポリスが出来上がったとしても、人口減少社会の日本において、そのメガロポリスと、そこから外れた地域の格差はいっそう拡大する。
〇　災害時に、東海道新幹線と二重系化できるというが、災害時に必要なのは貨物輸送であり、新幹線は役に立たない。
〇　東北新幹線などの例をみても新幹線は、駅構内に人を集めて、地元の商店街を寂れさせている。
〇　山梨、長野、岐阜に予定されている中間駅は、一時間に一本の停車、無人駅、待合室も切符売り場もない、直線かつ最短距離をとるために県内でも不便な位置にできる、、これが県の発展に資するとは考えられない。
〇　南アルプスの大深部（１４００メートル）にトンネルを掘ったら、大井川などにどんな影響が出るかは、全くわかっていない。
大井川は３２ものダム・堰堤が稼働し、多くの人の生活用水や農工業用水に使われているのだ。
山梨の実験線ですら、近辺の水源が枯れる事態が発生した。
〇　豊かな自然と景観を有する国立公園の地下に２０数キロにもわたるトンネルを掘ること自体許されないが、そのトンネルが地下水流を変化させ、豊かな植生に影響を与える恐れが大きい。
〇　長距離のトンネル掘削で発生する膨大な残土の処理も大問題、先般の熱海の盛土の事例は珍しいものではない。
〇　残土、建設資材・機材・人員を運ぶための、驚くべき数のダンプ・カーやトラックの、騒音、景観破壊、排気ガス、地域の動物の生態系への悪影響、セメント生産のための山の切り崩し，Ｃｏ２の発生、、リニアの工事は環境破壊の塊である。
〇　４０メートル以上深い地下には地主の了解も補償も用地代も必要とせずにトンネルを掘ることができるという、「大深度法」の理不尽。
「日経ビジネス」（１８年８月２０日）には、相模原市の職員が、あるビルのオーナーを訪ねてきて「おそらく（支持杭が）リニアにぶつかるので、取り壊してもらうことになる。立ち退きか、低層への建て替えをお願いします」といったという信じられないような話が載っている。
〇　造山運動が激しく活断層帯が二つも走っているトンネルを５００キロで走るリニアの異常時の安全対策は、どうなっているのか。
トンネル内の脱出口を乗客が、安全に避難できたとしても、外は標高１３９０メートルのアルプス山中なのだ。
〇　リニア中央新幹線は、もともとＪＲ東海が、総事業費を全額自己負担とするということで、国の認可を得ている。
それを、２０１６年安倍首相が、閣議決定も経ずに、総額９兆円のうち３兆円の工事費を国からの財政投融資で賄うことを決定し、あたかもＪＲ東海の計画が「国家事業」となってしまった。
融資内容は、無担保で３兆円を貸し、３０年間元本返済を猶予、金利は平均０．８％という、とんでもないもので、不動産取得税も免除されている。
ＪＲ東海の葛西名誉会長とアベは年平均８回弱と頻繁に会合を重ねており、「日経ビジネス」は「第三の森加計問題」と書いている。
〇　リニア中央新幹線が、目論見通りの収益を挙げたとしても、東海道新幹線の乗客が移行してのものであり、ＪＲ東海の収支は悪化する。

とまあ、まだまだ、あるけれど、恐ろしくも無益有害なプロジェクトではないか。