鷗外の「新しい女」 「ぢいさんばあさん」「安井夫人」

土曜日、だるい身体に鞭をいれて大掃除と洗濯、サンチがぴったりついて歩いて激励してくれるのがウレピイ。
さすような光の下で洗濯物を干し終わって一時間ほどしたら、曇ってきたので、スマホをチェックしてみると、11時から雨が降るという。
やれやれ、室内に干しなおしたが、雨は降らない、もうそのままにしておく。
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ブログを訪ね歩いていたら、マウスが不調、スマホからネットで調べていろいろやるが、うまくいかない。
NECの121コンタクトセンターに電話して、門前払いをかいくぐり人間によるサポートで回復する。
僕も似たようなことをやったのに、彼の言うとおりにするとパソコンが勝手に再起動したりして不思議なことだ。
心臓の不調を医師に訴えて、心電図をとると異常なしになるようなものか。
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鷗外の「ぢいさんばあさん」、「最後の一句」に続いて、「天寵」、「二人の友」、「堺事件」、「安井夫人」を読む。
鷗外がこんなにも読みやすく面白かったかと、いささか興奮する。
鷗外選集21巻を大事に持ち歩いてよかった。
とは言え、古本屋では5千円前後で手に入るのだ。

読んだ小説の、それぞれに登場する主人公たちが魅力的だ。
「ぢいさんばあさん」のばあさんは、わずか4年の新婚生活ののちに、夫が生来の癇癪をおこして刃傷沙汰を起こし、無期限の免職追放になった後も、夫の祖母に仕え、夫の家の墓を守り通し、図らずも37年ぶりに恩赦によって許された夫と再会する。
そのあとの二人は、
近所のものは、若しあれが若い男女であったら、どうも平気で見てゐることが出来まいなどと云った。(略)
二人の生活はいかにも隠居らしい、気楽な生活である。爺さんは眼鏡を掛けて本を読む。細字で日記を附ける。毎日同じ時刻に刀剣に打粉を打って拭く。体(たい)を極めて木刀を揮る。婆さんは例のまま事の真似をして、其隙には爺さんの傍に来て団扇であふぐ。もう時候がそろそろ暑くなる頃だからである。婆さんが暫くあふぐうちに、爺さんは読みさした本を置いて話をし出す。二人はさも楽しさうに話すのである。
婆さんは、将軍家斉から、永年の夫の留守中の貞節を褒められて銀十枚をもらう、その時、夫は72歳、婆さんは71歳だった。
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「ぢいさんばあさん」の婆さんは、別に夫になる男を好いて結婚したわけではなく、当時の習俗のままに、他人の意思で嫁に来たのだが、「安井夫人」は、当初姉が勧められた縁談を聞いて、自ら結婚したい、と意思を明確にした「新しい女」だった。
16歳で器量よしで有名な、おとなしい女性が、30になる、痘痕があって、片目で、背の低い、男のもとに嫁きたいといったのだ。
江戸儒学の集大成とされ、近代漢学の礎を築き、谷干城や陸奥宗光など多くの逸材を育てた安井息軒の妻・お佐代さんのことだ。

お佐代さんは、美しい肌に粗服を纏って、質素な仲平(息軒)に仕え、多くの子供を育てて一生を終わった。
夫に仕えて労苦を辞せなかった。そして其報酬には何物をも要求しなかった。
お佐代さんは必ずや未来に何物かを望んでゐただらう。そして瞑目するまで、美しい目の視線は遠い、遠い所に注がれてゐて、或は自分の死を不幸だと感ずる余裕を有せなかったのではあるまいか。其望の対象をば、或は何物ともしかと辨識してゐなかったのではあるまいか。
こういう生き方に感動する僕は古い、女性差別の観念にとらわれた人間なのかもしれない。
しかし、この二人は僕の身の回りにいた人たちの面影を偲ばせるのだ。

「堺事件」については、また別の記事に書く。
Commented by jyariko-2 at 2021-08-21 14:37
あーあ 我が人生悔いがあるようなないような・・・・
欲(?)を言えば有り・・・いろいろ振り返れば有り・・・・・
雨漏りのしない家でまあまあ健康でここまで来た と思えば有難く・・・・・
後悔することばかりですが もう一度やり直してみても
ワタシはワタシ 同じ事なのかもしれないとも思います
Commented by reikogogogo at 2021-08-21 19:11
saheiziさん懐かしい本です、半世紀も昔になりましたが箱がついた鴎外選集確か20冊ほどでしたよね、全集千葉の家に運んで全集読まずに消えた本です。今此の時に読み聞かしてもらえるなんてすごい感激に、夏の避暑長いときは1ヶ月、頻繁に行き来、当時は私も良く読書をしてた、暮しの手帖子供たちの児童文学全集、推理小説、手当たり次第ーーー今や積ん読、本箱にみな眠ってます。

幼児の頃親が読み聞かせてくれた時代、saheiziさんが読み聞かせてくれるーーー貴重なページ。
Commented at 2021-08-21 19:37
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-21 22:03
> jyariko-2さん、あの松本であのブログを書き続ける人生は素敵です!
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-21 22:07
> reikogogogoさん、かろうじて積ん読のまま捨てられる選集と、楽しい時間を過ごすことができました。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-21 22:08
> 鍵コメさん、がんばった甲斐がありましたね。
ほんとによかった!
Commented by okanouegurasi at 2021-08-22 03:19
うムムム...多分日本人のマジョリティが好きであろう(貞淑)ですね。
森茉莉は甘やかして育てたようで当てはまらないけれど、、鴎外が憧れた女性像なのでしょうか?
Commented by at 2021-08-22 07:24 x
「最後の一句」は中学時代に教わりました。
お上の事には・・・
お挙げになった鷗外の作品は人が生きる上での忍耐とか自己犠牲とか、
そのようなテーマが語られていますね。
厳めしい風貌が目に浮かぶようです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-22 09:00
> okanouegurasiさん、うムムム、やはり。
鷗外の作品では、たんなる盲目的な貞淑ではないように思いました。
男のほうも、自己をむなしくして仕える何事かがあるのです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-22 09:10
> 福さん、最後の一句は、運命に抗う少女の姿を描いています。
忍耐や自己犠牲は、単に長いものに巻かれるということではなかったようです。
安井夫人も、本人はそうと意識しなくても「遠い理想」に向けて献身したのではないでしょうか。
Commented by tona at 2021-08-23 19:34 x
夏目漱石が終わったので、次は芥川龍之介と森鴎外全集へと思って芥川に突入したら。字が小さいのと有名な作品ではなく気概を削がれたのでつまずき、ついでに鴎外もやめて「安井夫人」だけ読もうと思っていたところでした。安井夫人みたいな人が一体どれくらいいるのでしょうか。
私自身が安井氏みたいに冴えないのに、私も安井氏のような人は外見だけで嫌だと親に言ったかもです。なんて傲慢な私。安井夫人、すぐに読んでみます。


Commented by saheizi-inokori at 2021-08-23 22:46
> tonaさん、題名だけを知っていても、ちゃんと読んでなかったり、教科書で読んだりしていても、なにも分からなかったり、鉱脈を掘りあてた感じがします。
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by saheizi-inokori | 2021-08-21 14:06 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori