名前を覚える

けさも暑いですね。
五時を過ぎたばかりだというのに、ちょっと歩くと背中に汗をかきました。
地鳴りのような蝉の声ととぼけたカラスの鳴き声、それに混じって、ウグイスの声が聞こえたのは嬉しかった。
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(あの木のほうかな)

「星のなまえ」では、星のことを書いた詩人がたくさん登場して、それぞれに面白いのだが、星の名を書く詩が多い。
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たとえば宮沢賢治は、「星めぐりの歌」(『双子の星』に挿入)で、さそり座の首座アンタレス、鷲座、子犬座、蛇座、オリオン、アンドロメダ星雲、大熊座、子熊座、北極星をめぐる。
だが、谷川俊太郎は、ちと違うようだ。
谷川さんは星座や星の名をおぼえたことはあるかもしれないが、それらを詩にちりばめたいという欲望はない。それはそんなに訝ることではないが、先にも書いたように、彼の詩の中には夜空の星がよく顔を出すが、いずれもほとんど無名の星である。
そこには詩人の哲学がある。たとえば星Aと星Bがあるとする。その名で呼ぶとAとBの差異に目を向けないわけにはいかない。白か青か赤か変光星か、一等星か二等星か、何という星座のα星かγ星か。谷川さんは星のもっている共通の分母と、それが他に及ぼす共通の作用について確かめたい。本質をみたい。「ほしみんなすき」(「すき」・『すき』所収)といっている詩人は依怙ひいきしない。だから名前をおぼえない。名前の曇りをとりはらって、じかに星をみたい。
詩人は星を自分の中の取り込んで、内面化することができる。
僕が草花の名前を覚えないのとはわけが違う。
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谷川が「自分と周囲を星になぞらえて」いる詩「私の星座」の後半部を高橋が紹介する。

やがて気づいた 私たちは星座なのだと
私はその中のただ一つの星 どの星とも違う

どんなに近づいても星と星の間には遠さがある

でも星座は決して消え去ることがない
目に見えない心の線にむすばれて

私が死んでも誰かがきっと覚えていてくれる
星と星とをつなぐゆるやかなかたち
誰ひとり中心ではないあの美しいかたち
高橋曰く
この詩は谷川さんと人との関わり方を示しているようだ。谷川さんが一人っ子だったせいもあるかもしれないが、友達や恋人はどうも向こうからやって来て、谷川さんはつかまってしまうのだ。どんなに親しくなっても「遠さ」を感じている谷川さんだった。
僕は、向こうから友達や恋人がやってくることは、あまりなかったけれど、亡妻との結婚式で大学の友人が挨拶で「佐平次は君子の交わりは水の如し、を地でいく」といったのをいまだに忘れない。
別に君子ではないが。
そういってくれた男も去年なくなってしまった。

高橋順子の、この文章の〆はこうだ。
私はものの名を知りたい。覚えたい。名を覚えれば、私はものに近寄り、ものも私に近寄ってくる。親愛感が生まれる。世界がちぢまってくる。居心地もよくなるかもしれないが、近づきすぎれば、いさかいも起こるだろう。谷川さんはそんな猥雑な世界は遠ざけたい。
周囲の人びとは彼に「異星人」の名を奉った。異星人は地球人の付けた星々の名は覚えたくないのかもしれない。花々の名も同様。
僕もほんとうは名前を覚えたいのだ。
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Commented by rinrin1345 at 2021-08-04 09:28
覚えようとすると忘れる、一度間違って覚えると間違ったまま覚えてる。覚えると近くなった気がする、とてもよくわかりますね。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-04 09:51
> rinrin1345さん、リトマス試験紙みたいにどっちが正しいか、いちど間違えると死ぬまで迷い続けます。
もっとも私はリトマス試験紙は関さんと覚えて、赤なら酸とわかるのです。
Commented by miyabiflower at 2021-08-04 10:13
紛らわしい名前をふたつ同時に覚えると
その後ず~~~~っと「どっちだったっけ?」となりますね。
そっくりさんの漢字も同様です。
花の名前はわかると仲良しになれたような気がしてくるので不思議です^^
Commented by okanouegurasi at 2021-08-04 10:19
親しくなっても遠さを感じる、というところだけ似ているなあ。

詩に疎い私にもわかる、優しい言葉で書かれた
谷川俊太郎の詩は好きです。
Commented by jyariko-2 at 2021-08-04 10:26
星と星をつなぐゆるやかなかたち
誰ひとり中心ではなく・・・・・・
っていいなーって思いました
人と深く絡み合う事が苦手な私です
それなのにどこかで求めている侘しい気持ち
やっぱり一人では生きて行けないのですね


Commented by saheizi-inokori at 2021-08-04 11:50
> miyabiflowerさん、荻野さんに萩野さん、ウエムラなのかカミムラなのか。
花の名は和名がいいなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-04 11:52
> okanouegurasiさん、ひらがなが多いのですね。
ことばが生きてます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-04 11:55
> jyariko-2さん、一人で生きていけないけれど、一人で生きているのでもあるようです。
谷川さんの星座のように。
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by saheizi-inokori | 2021-08-04 07:53 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(8)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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