清少納言は「すばる」を見たか 「星のなまえ」

おとといは、ほとんど眠れなかったので、夢の中のような一日だった。
器用に昼寝ができないタチなのだ。
若い頃からそうで、どこでもすぐに居眠りする友人から「佐平次さんは長生きできないな」といわれたことがある。
若いころは真徹が続いて、人と話しているときに気絶しそうになって、腿をつねったり、洗面所で顔をバシャバシャやってくるなんてこともあったが、見兼ねた先輩が会議室で少し寝て来いよ、と言ってくれても、いざとなると目がさえてしまうのだった。
今は昼寝は苦手だが、ひねもすふわふわとしていた。
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さすがに、昨日は10時前に寝て、夜中に一度トイレに起きただけで、5時半まで寝ることができた。
別人18号くらいに若返った気分で、サンチと散歩、洗濯二回、大掃除をやれた。
サンチが、常にくっついて歩いては見守るのが、激励のようだった。
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頂いたマンゴーを食う元気も出て、賽の目に切ってヨーグルトをかけたり、そのまま食ったり、うまいもんだよ、畑のタニシ。
タニシなんて、そんなに食ったことはないのだが、こんなセリフを言わなかっただろうか。

それはいいのだが、いろいろやりすぎて朝飯が10時過ぎ、今頃、ブログを書きはじめる始末。
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きのう、のたりのたりしながら、それでも読むにつれて引き込まれていった「星のなまえ」。
それについて、書きたいことがいろいろあったけれど、また出かけなければいけないので、少しだけ。
高橋は、星のことを書いた作家たちのことを書く。
そのひとり、清少納言、といえば、だれしもあの
星はすばる。彦星。夕づつ。よばひ星をかし。尾だになからましかば、まいて。
を想起するのではないか。

高橋は、この名調子についての謎をあげている。
どうして「すばる」を一番に挙げたのか。
「すばる」は、初冬の宵の空の東の中ほどに、青白く、燐が燃えるように、ぽっと光って見えるが、目を引くという星ではない。
シリウスなら、今の東京でも光っているのに。
枕草子の星は文献から来ているのではないか、と高橋。
「丹後国風土記逸文」の浦島伝説の条に見えるそうで、語源は、記紀にあらわれる神々の玉飾り、御統(みすまる)と見られている。
ことばの響き、勢いも申し分なく、星々の筆頭に置くにふさわしいと思われたからではないか。
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次の「彦星」も、織女(たなばたつめ)の方がよほど明るいのに彦星だけ、やはり名前でこっちを挙げたのではないか。
「夕づつ」は、「宵の明星」・金星であるが、「明けの明星」はない。
悩ましいのは「よばひ星」、流れ星のことだが、「尾さえなかったらのなら、とりわけ素敵なのに」とは何事か。
流れ星の光跡を「尾」と見たのだろうが、その「尾」がなかったら流れ星ではないのだ。
もっとも、彗星なら「尾」はつきものであるが、彗星は長い尾を引くから美しいのであって、彗星は尾があってなんぼのものだと、高橋の旧知の天文学に詳しい人がいう。
清少納言は、流れ星と彗星を混同していたのではないか、と。
高橋は、
やはり清少納言は言葉の人なのである。「夜這星」のなまえがそぐわない、と批判的に言っているわけではなくて、夜這いならもっとひそやかになさいよ、あの派手な尻尾ときたら、どうでしょう、と呆れて見とれていたのかもしれない。もう少し踏み込んでいえば、「よばひ星」というのは流れ星のことですよ、とものを知らぬ人びとに教えてあげようとしたのではないか。清少納言は稀に見る機知縦横の才女だが、ちょっとそれが鼻につくところはある。当時の人びとがどのくらい星についての知識をもっていたかも知りたいところである。
僕も知りたいな。

高橋は、野尻抱影など人の著作から、星々の出典「倭名類聚抄」(「枕草子」の60年ほど前に源順が書いた百科事典的国語辞典)を知った。
「孫引きするのはよろしくないので」(すんません、僕はひ孫引きばかり)、同書を探すために、自転車で本郷の真砂図書館にいく。
地図で見て、
本郷通りから菊坂を下りていって左に入った辺りにある。菊坂には樋口一葉が通ったという伊勢屋質店の土蔵が残っている。二人の女性作家が私の頭の中で星となって明滅した。街の地図には等高線はない。炭団坂という急な石段のわきを自転車をうんうん押して上がらなければならなかった。空にも坂はあるのかな、などとつまらないことを考えながら。
こういう文章を読むと嬉しくなるなあ。
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真砂図書館で、漢文の本を調べて「明星(あかほし)」「長庚(ゆふつつ)」「牽牛(ひこほし)」「織女(たなばたつめ)」「流星(よはひほし)」「彗星(ははきほし)」「昴星(すはる)」が、載っていることを確認する(かっこ内は読み方)。
高橋の結論は、
清少納言は夜空を頭に描いて「星は」と書きはじめたのではなかったらしい。彦星と織女の区別もつかなかったのではないか。「倭名類聚抄」の中から気に入った星々を挙げていったのだろう。(略)
後世「星はすばる」がこれほど喧伝されるとは、才女も想像しがたかっただろう。こんな想像をするのは不届きだが、もしも「星はあかぼし」と書き始めたのだったら、なんだか梅干しみたいだし、人の記憶にとどまることはなかっただろう。言語感覚の素晴らしさはやはり有無をいわせないものがある。
どうです、夢うつつに読んでも面白いでしょう。

Commented by tsunojirushi at 2021-07-31 15:19
お昼寝できない体質、全く同じなのでシンパシー。「さて」と事を構えると目がさえてしまうんですよね…。
数日前に清少納言をディスった紫式部のことを読んだので、こちらもタイムリーで興味深いです。
Commented at 2021-07-31 21:00
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by okanouegurasi at 2021-07-31 22:45
朝一番にニコニコしながら楽しく読みました。
才女過ぎて、当時の宮廷人には煙たがられたって、1000年たっても楽しめる清少納言。読み方もほとんど知らなかったので、素敵な贈り物をいただいた気分です。手書きの手帳にさっそく記載しました。(星の名前)高橋順子も。
良く寝る、寝ないで極端に差が出るのは同じく。サンチと一緒に散歩の記事も嬉しいです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-31 22:56
> tsunojirushiさん、起きて本を読もうとすると眠くなるのに、じゃあ寝るかと上掛けをかけて目をつむるとパッチリ、損な性分です。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-31 22:59
> 鍵コメさん、感染してもワクチンを打った人は軽症がほとんどだというのを、信じて、でも静かにしています。
この暑さだと車がほしいです。
Commented by reikogogogo at 2021-07-31 23:00
畑のタニシ信州の味から始まって、「星の名前」saheiziさんのお陰で興味深く面白いさに誘われます。何十年もの生活空間だった本郷通り、菊坂、真砂図書館、辿ってます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-31 23:00
> okanouegurasiさん、さて、今夜は?
眠れますように!
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-31 23:02
> reikogogogoさん、本郷の地名や坂は、どくとくの懐かしさがあります。
菊坂の銭湯はまだあるのかなあ。
Commented by ikuohasegawa at 2021-08-01 05:33
私も寝付けぬ夜はありますが、8・4・7秒の呼吸法は効きませんでしたか。
Commented by vitaminminc at 2021-08-01 05:58
捻じ曲げ解釈が得意なワタクシは、清少納言にどつかれないのをいいことに、「尾」を「尾を引く思い」の比喩と受け止めましてございます。夜這いするなら爽やかに、後腐れがないようすぐに立ち去りゃいいものを、ダラダラとしつこいのは嫌いなのョと(笑)

後手後手コメントで恐縮ですが、26日の空を泳ぐ鯉、素晴らしいです。目から涼しくしていただき、ありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-01 09:34
> ikuohasegawaさん、とてもとても、でした。
なんか次元の違う不眠でした。
Commented by saheizi-inokori at 2021-08-01 09:37
> vitaminmincさん、なるほど!高橋順子に教えてやりたい。
池の鯉、今朝も撮ってきました。
サンチは、そんなとこにいないで、さっさと行こうよ、とリードを引っ張りましたが。


Commented by touseigama696 at 2021-08-01 09:58
本を読めなくなった最大の原因は
読み始めて3頁以上起きていられた
ことがないからです(苦笑)
三食のその都度 食後大抵
2~30分はうたた寝し 夜も
就寝前に必ずと言っていい程
うたた寝していて
そうした時間を加算すれば
一日に6~7時間は寝ているでしょうが
まとめて眠れるのは精々2時間です
寝るのに困ったことはありません(笑)
ですから
ほんとに寝る気でないかぎりベッドに
横になりません 横になったら3分は
起きていられないからです
本が読めるわけありません
saheiziさんが羨ましいですよ(涙)

Commented by saheizi-inokori at 2021-08-01 10:12
> touseigama696さん、私はそちらがうらやましい、ぜったい!
眠れないと本が読めなくなりますよ。
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by saheizi-inokori | 2021-07-31 14:27 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(14)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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