「心」を学ぶ優しいAI 「クララとお日さま」(カズオ・イシグロ)

大きな桃を食う。
ひとりで食う。
皮がするりと剝けるまでには熟していない、そこまでいったら熟れすぎなのだ。
真ん中に切れ目をいれて両側をずらすようにすれば、、、うまくいかなかった。

山梨にいた祖母は、桃を素手にもってかぶりついた。
いつもそうだというわけではなく、その場面が記憶に残っている。
ぽたぽたと果汁をこぼしながらうまそうに食っていた。
それを思い出しながら、そうやって食った。
今の僕より若かった祖母を。
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図書館予約の長蛇の列、順番がくるまで生きていられるかすら心配になるほどの、を回避して(いただいたクオカードの助けもあり)、贅沢にも自費で買った本。

人工知能を搭載した人間そっくりな少女のロボットAF・クララが語り手であり主人公だ。
最新型ではないが、観察力と学習意欲、吸収力、理解力は、最新型を上回る。
店頭にならんでいたクララと、病弱な少女・ジョジーは、一目でお互いにひかれあう。

クララは、ジョジ―の母に買われて、彼らと家政婦のメラニアンとともに田園で暮らす。
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臓器移植を義務付けられている子どもたちを描いた「わたしを離さないで」で感じた、なんとなく不気味な欠落感・もどかしさを覚えながら読みすすめる。
イシグロの小説がいつもそうであるように、簡潔で静謐な文章の一つ一つが、子供たちの輝く命と人びとの、社会の抱える困難を照らし出す。

おそらく遺伝子を操作するのだろう、リスクを伴う「向上処置」を受けたことがジョジーの病気の原因らしい。
ジョジーの幼馴染で、お互いに一緒に生きると決めているリックは、貧しさのせいと母の判断で、その処置を受けていないから、差別されている(とても優秀だけど)。
母親の元恋人のコネで進学することを断念するリックは、すがすがしい青年だ。
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クララは、ひたすらジョジーにとって何がいいかだけを考えて行動する。
ジョジーの父親(別居している)が、クララにジョジーの「心」を学習できるかと問う。
「「心」は、ジョジ―を学習するうえでいちばん難しい部分かもしれません。」とわたしは言いました。「たくさんの部屋がある家のようだと思います。でも、AFがその気になって、時間が与えられれば、部屋の一つ一つを調べて歩き、やがてそこを自分の家のようにできると思います。
ジョジーの特別なものは、ジョジ―のなかにではなくて、ジョジ―を愛する人々の中にある、クララの発見だ。
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ロボットにも献身はある。
お日さまをエネルギーとするクララが献身の祈りをお日さまに捧げるところは感動的だ。
静かで奥深い感動が残る。
Commented by jyon-non at 2021-07-23 11:14
素晴らしい内容の御本ですね。私も図書館にお願いしたいと思います。🌸
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-23 13:55
> jyon-nonさん、待たずに借りられるといいですね。
Commented at 2021-07-23 19:41 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-24 09:55
>鍵コメさん、ご明察です。ありがとう。
Commented by 19masateru27 at 2021-07-24 22:05
はじめまして
私は 孫の為に 購入しましたが 小六には 少し難しかったみたいです。
カズオ イシグロの小説は 読んだ後 心に悲しみが いつも残りますね。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-25 10:22
> 19masateru27さん、哀しみと寂寥感、それが味わいですね。
小6には、ちょっと難しいかな。
Commented by ikuohasegawa at 2021-07-26 14:30
ご紹介ありがとうございます。
ポチッといたしました。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-27 09:17
> ikuohasegawaさん、ご一読の価値があると思います。
Commented by BBpinevalley at 2021-07-28 17:50
イシグロさんの新しい本ですね。
読んでみたいと思います。
読みやすい明瞭な文章で、気取りがないのが好きです。
題材はますます大胆になりますね。
しかし、ポイントはあくまでも人間的な、愚かしさや哀れさ。
読後に大きく気持ちを動かされます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-07-28 20:57
> BBpinevalleyさん、まさにおっしゃる通り、しみじみと余韻を楽しめます。
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by saheizi-inokori | 2021-07-23 10:20 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(10)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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