言葉だけは

持ちもの

とるものもとりあえず
子ヤギを運ぶ麻袋に あかんぼうを包んで
ただそれだけを胸に抱いてきた

テントの三つ目の夜 眠らない子の耳に
草摘みのうた 歌い
砂の降るおはなしを ささやいていると

おさないいのちのほかは
何もかも残してきた故郷から
ことば だけは
持ってくることができたのだ と気づく
荷物検査所でも まさぐられなかった
わたしの持ちもの

伸ばした脚の指さきが
ひんやりした皿のふちに触れる
せまいテントに
幾千万のことばは
小さなひとのすがたで横たわっている
深く 果てしなく 生あたたかい容れもの

必ず 生き延びよう と思う

            草野信子「持ちもの」から。

ブログの友だちから送っていただいた詩集の冒頭に載っていた。
難民の詩、チンギス・ハンの被害者の詩。
そう思って読み直すと なんと亡母が幼い僕を連れて釜山から帰国したときの状況にも似通う。
8月15日、昼食を食べに戻った父から日本が降伏したことを聞かされ、「外国」の中で、私たちの暮らしがどうなるかは分からないことを聞いた母は24歳。
驚きと不安で、私は絶望に近い気持ちになって、夫が再び出勤したあと、子供を抱きしめていつまでも泣いていた。この子がこれからどんなみじめな生き方をするのか、それを親としてどうすることもできないのだと思い、ごめんね、ごめんね、と抱きしめていたような気がする。
しかしやがて、窓や電気の黒いおおいが外され、部屋のすみずみが明るくなったときは、くらい気持ちも一瞬、明るくなってうれしかった。
ねらわれているといわれて、早めに引き揚げることになったのは九月始め。まだ暑いのにできるだけ多くの衣類を身にまとって、汗びっしょりで駅に向かった。私は長男を背負っておなかにもう一人、夫は大きな黒いリュックと今から思うとコッケイだが、ナベやフライパンをリュックに結び付けて、、。それらは、引き揚げの途中、駅に寝たりしながら、一つ、又一つと捨てられる運命にあったのだ。
母の引き揚げのときの思い出の文章からだ。
母もまた
必ず 生き延びよう
と思っただろう。
船のなかで「砂の降るおはなし」をしてくれたかどうかは覚えていない。
言葉だけは_e0016828_10165166.jpg
今も世界中に数えきれないほどの難民がいて、その母たちは同じように、その子供を抱きしめているのだろう。
言葉だけは_e0016828_10162468.jpg
日本という国もまた滅びの道を突き進んでいる。
インベーダー・与党の連中は日本を乗っ取り、安保法制からコロナとの戦いや五輪開催などで、やりたい放題をやって、自分たちでは、どうすることもできない、という無力感を人々に植え付けて、ひたすら亡国の道を歩み続ける。

せめて言葉だけは失わないようにしなければ。

Commented by jyariko-2 at 2021-06-22 12:40
心を持ち感情をもつ人間  人を愛することも出来る
他人の気持ちを推し量ることも出来る
科学の力も知っている芸術や文化の心地よさも知っている
何が幸せかも知っている
隣の人と手を組み苦楽を伴にし笑い会うことも出来る
私利私欲権力の乱用がなければ頑張れる
Commented by maya653 at 2021-06-22 12:40
ほんとうに。。。無力感しかありません。
あの方たちには良心というものがないのでしょうか
Commented by jyariko-2 at 2021-06-22 12:54
絶望したくないです
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-22 13:12
> jyariko-2さん、真逆な人々が我利我利やってます。
まけるもんか!
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-22 13:14
> maya653さん、丸川がいみじくもいいましたね。
別の地平だって。
間違いなくインベーダーたちです!
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-22 13:15
> jyariko-2さん、無力感や絶望こそ彼らの望むところでしょう。その手にのるか!
Commented at 2021-06-22 16:57
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by りんご at 2021-06-22 21:50 x
24歳のお母さまの姿を思いました
諦めたらダメですね 負けていられないですわ
全ての新聞が一斉に「五輪中止」と全面で訴えるのを見たいものです!  
80年前のきょうはナチス・ドイツ200万人がロシアへの「バルバロッサ」作戦を
発動した日です 忘れたらダメな日です( 独の熊谷徹氏のTwitter。。よかったら ) 
Commented by doremi730 at 2021-06-23 09:41
お母様、まだ24歳の身重で引き揚げてこられた時の大変さに
胸が詰まりました。背中に負ぶったsaheiziさんが生きる
原動力になったことでしょう、、
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-23 09:53
> 鍵コメさん、釜山の女学校で学んだ母にとって朝鮮は第二の故郷みたいな感じがあったかもしれません。
亡くなる前に釜山に連れていって良かったと思います。
おっしゃるとおり、沈黙してしまってはいけませんね。

Commented by saheizi-inokori at 2021-06-23 09:59
> りんごさん、2700万人が亡くなった東部戦線、ドイツは反省し謝罪しましたが、日本は歴史を改竄して居直っています。
それが現在の無責任体制を生んだともいえますね。
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-23 10:00
> doremi730さん、今の孫と同じくらいな年だと思うと胸がつまります。
Commented by okanouegurasi at 2021-06-25 07:06
冒頭の詩。胸に響きますね。哀しいけれど人間の尊厳を失くしていない。
いまだに続いています。
避難民たちの苦しみ。<生き延びて>後世に語り継いでほしいと思いますが、どれだけの耳に届くのか...体験しないと解らない、想像力の足りない人間が、世界中に増えていってるようで、怖いです。
Commented by saheizi-inokori at 2021-06-25 09:51
> okanouegurasiさん、想像力は言葉をかけてやることで育つかもしれませんね。
私が言葉によって想像力をはぐくまれたように。
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by saheizi-inokori | 2021-06-22 11:50 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(14)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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