詩人・茨木のり子の力 「隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国」

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茨木のり子がハングルを学ぼうとした動機のひとつ。

自己理解から始まる他者理解の実践のために、自分が属している社会をより大きな視野にいれて考えようとする際、隣国との関係は欠かせないものである、と同時に朝鮮は自己のルーツでもある。
獄中にある金芝河の救出活動よりも「日本の詩人がやるべきことは、まず彼の詩を読むこと、いいにしろ悪いにしろ、きちんとその詩を批評することではないですか」という安宇植の言葉が、彼女の心に「まっすぐ届いた」。
当時日本には韓国の詩を訳せる詩人は一人もいなかったのだ。
1976年、50歳の時にハングルを習い始めた茨木のり子は、14年後に、訳詞集「韓国現代詩選」を出版する。
「自分の気にいった詩だけ」、12人の韓国現代詩人の作品62篇を訳したアンソロジー。
その翻訳は、原詩の内容を一言一句忠実に訳すより、自分の詩想に合わせて詩句を省略するなどの大胆な翻訳方法を試みたもので、意味の伝わりやすさを際立った特徴とする。
本書はその実例をいくつか丁寧に解き明かす。
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茨木が韓国で知られるようになったのは、1995年以降、尹東柱(日本に留学してハングルで詩を書いたため、治安維持法で逮捕され1945年福岡刑務所で獄死)を愛し日本で紹介した詩人としてだった。
2009年にコン・ソンオク、2011年シン・イヒョンという人気作家が、茨木の「わたしが一番きれいだったとき」に大きな影響を受けて同名の小説を書き、2017年には茨木の「わたしが一番きれいだったとき」が単著として出版されると、彼女の作品は韓国で本格的に読まれるようになった。

金は
どの社会にも転換の時期が訪れるが、大切なのは変化に翻弄されずに正しく身を立てること、それが茨木の詩の言葉の本質的なあり方であり、そこにこそ彼女の詩の原型があるに違いない。茨木のメッセージは激変する韓国社会でアクチュアルなものとして響き、それゆえ人々の心を打ったのである。
と書いている。
ひとりの日本人の生き方とそこから生まれた詩が言葉の違いを乗り越えて隣国の人たちの心を動かした!
思えば感動的なことではないか。
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本棚から引っ張り出した「茨木のり子」、いくつかの詩を読み、茨木の生い立ちやら、人となりについて書かれた文章を拾い読みし、子供の頃からの写真を眺めた。
人見知りをするけれど、まっすぐにかつ優しく人に接する。
高橋順子が、茨木の「人名詩集」は井伏鱒二の「厄除け詩集」に触発されて書かれたことを、茨木が言うまで気がつかなかったことを悔しがったことから、書き始めて、
花の名を書く人は、もののひとつひとつをいとおしむ人であり、花を「花」とだけ書く人は、いつでもものの本質を突いてくる人であった。茨木さんはどちらの型かというと、両方の合わさった型で、具体的なところから本質を突いてくるのだ。(略)
(人名についていうと)茨木さんはあえて具体的な名を登場人物に与えた。現実のざわざわしたところに、じつは詩の輝きもユーモアも哀しみも宿っているのだが、それは力を込めてとりださねばなるまい。
などと書いていて、そんなところをあちこちツマミ読みしたというわけだ。
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本を読んだ後、なぜだか、しきりに本屋に行きたくてしょうがなくなった。
下駄をつっかけてふらっと入るような近所の小さな本屋に。
そんな本屋はもう10年も前に閉まっているのに、抑えるのに苦労するほど強い衝動だった。
「韓国現代詩選」を図書館に予約した。
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(ハッカ)
日本は危ないから行っちゃいけないよ、でもオリンピック関係者だけは大丈夫とアメリカに言われて、喜んでいるように見えるインベーダーたち。
緊急事態宣言の延長期間もオリンピックとの兼ね合いで決めるらしい。
そんな宣言をつぶれそうな飲食店の誰がまじめに守ろうとするのか。
Commented by rinrin1345 at 2021-05-26 18:23
私も彼女のファンです。若い時は全然知りませんでした。知るのが遅すぎました。
Commented by たま at 2021-05-26 18:54 x
最初の画像は、「青梅」のようにて、実は「カリン」(花梨)かと・・・(?)
Commented by saheizi-inokori at 2021-05-26 19:00
> rinrin1345さん、私も遅いのですが、かといって現役バリバリのときに知ってもそんなに打たれなかつたかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2021-05-26 19:02
> たまさん、お寺の境内でみつけました。
ほとんど坊さんの顔をみたことがないなあ。
この写真を載せたら梅がたくさん送られてきて、悲鳴をあげています。
Commented by reikogogogo at 2021-05-26 23:55
本のつまみ読み、私の日常、でもsaheiziさんの読書のおかげで私が満足を得られ、時に古書を探す。それプラスsaheiziさんの目にする写真、風景、植物の様子すごい興味、葱坊主の味、ミントの味、目にした梅が実ってる今の状況ーーーとても満たされてます。
信州でよその木から直にもぎ取って食べた青い梅の味まで思い出してるの。
Commented by saheizi-inokori at 2021-05-27 09:35
> reikogogogoさん、道端で見つける花や木が懐かしい子供の頃を思い出させてくれるのが、散歩の楽しみの一つです。
Commented by wawa38 at 2021-05-27 12:34
尹東柱の詩集「空と風と星と詩」を本棚から引っ張り出しました。
序詞には、何度読んでも胸がふるえます。
なぜ、この人が獄死しなければならなかったのか、と。

高校のときの担任に、詩を書いていますと自分の所属詩誌を送ったら、
「石垣りんの詩は、スローガンだ!」と返事をもらったのを憶えています。
担任は英語が専門で、英詩のように韻を踏んでいるのがよいというようなことが書かれていたと思います。すでに亡くなられましたが、詩の感じ方や、生活のなかでの詩の位置はそれぞれ違うのだと感じたことが忘れられません。

言葉を知ることはその国の心を知ることだから・・・そう言って日本に留学していた隣国の人のことも思い出しました。
Commented by saheizi-inokori at 2021-05-27 13:49
> wawa38さん、同じ国に住んで同じ言葉を話していても心が通じないことが多いのに、他国の人の言葉に共感するのは、思えば不思議なことでもあると思います。

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by saheizi-inokori | 2021-05-26 12:06 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(8)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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