山狩り 「JR上野駅公園口」
2021年 05月 22日

孫娘が心配して来てくれるが、これからの娘の人生の邪魔になってはいけないと、「探さないで」と書き置きして上野駅公園口のホームレスとなったのだ。

彼はいちどシゲちゃんに誘われてそのコヤのなかでカセットコンロに鍋を乗せてワンカップ大関を熱燗にしてご馳走になる。
珍しく、シゲちゃんは自分のことを語り、明日台風を避けて台東区の図書館に行かないかと誘った。
彼は自分もシゲちゃんと同じ昭和八年生まれの72歳で、息子が生きていれば45歳になるとか、打ち明け話の類は一切したくなかった。
捨てることのできない過去の思い出は、みんな箱にしまった。箱に封印をしたのは時だった。時の封印の付いた箱は開けてはならない。開けたら、たちまち過去に転落してしまう。

息子は大難産で、その10日前に税務署が家中に赤紙を貼っていき、「これっぱっこの金もねぇ、これっぱっこの金もねぇ」、といいながら産婆のところまで走った。
金のことを訊かずに白い割烹着で妻の大きな腹に黒い喇叭型の聴診器を当てた産婆は、やがて「男の子です。おめでとうございます。親王殿下と同じ誕生日で、ほんとうにおめでたい。」といい、妻が赤ん坊を抱くとこんどは方言で「ほんとにめごいおぼこだない」というのだった。
皇太子の名前の一字をとって浩一と名付けたのだ。

ホームレスは、テントをたたみ家財道具一切を指定されたところに移して、自らは雨であろうが嵐であろうが、ねぐらを探さなければならない。
解除になったときは、たいてい前の場所は立ち入り禁止になっている。
移動を禁じられた時間より前に公園に戻ったことはない。でも、戻ったとして、何の不都合になるのか?何の違反になるのか?何を害したり、侵したりするというのか?誰が困って、誰が怒るのだろうか?自分は悪いことはしていない。ただの一度だって他人様に後ろ指を差されるようなことはしていない。ただ、慣れることができなかっただけだ。どんな仕事にだって慣れることができたが、人生にだけは慣れることが出来なかった。人生の苦しみにも、悲しみにも、、、喜びにも、、、。

群衆の燥いだどよめきのなかで、彼は「挑んだり食ったり彷徨ったりすることを一度も経験したことのない人生」、自分が生きた歳月と同じ七十三年間を送ってきた人の「柔和としか言いようのない眼差しをこちらに向け、罪にも恥にも無縁な唇で微笑まれている」二人を見て、昭和39年10月10日、プレハブの六畳一間の部屋でラジオから流れてきた昭和天皇の声を聞いたことを思い出す。
第十八回近代オリンピアードを祝い、ここにオリンピック東京大会の開会を宣言します。不意に涙が込み上げてきた。

「容疑者Xの献身」再論 納得できない人権無視

とくに雲の上に。 「緊急事態宣言下でも五輪開催」とIOC

上野駅構内を横断する「東西自由通路」は、かつてJR東日本が駅舎橋上化・超高層ホテル新設との3点セットで画策した大規模プロジェクトの残滓かと。して、通路中央部に残る「突起」は、将来、その上に商業施設を増築するときのために密かに用意した「支柱基礎」かしら…(?)。
2
今、unburroさんのところでこの本についてコメントしたところでした^^
私も読みました。読んでよかったと思います。
昔、通学で通る新宿や池袋の地下には、新聞紙やダンボールに囲まれて多くの人たちが住んでいました。
渋谷のガード下にも小さなおばあさんがぺたりと座っていたし、公園には小屋も並んでいましたっけ。
青島幸男が都知事のとき、新宿駅地下のホームレスを撤去させたことが忘れられません。
私も読みました。読んでよかったと思います。
昔、通学で通る新宿や池袋の地下には、新聞紙やダンボールに囲まれて多くの人たちが住んでいました。
渋谷のガード下にも小さなおばあさんがぺたりと座っていたし、公園には小屋も並んでいましたっけ。
青島幸男が都知事のとき、新宿駅地下のホームレスを撤去させたことが忘れられません。
> たまさん、その突起をテーブルにして会食する人たちが多いですね。私もいちどやってみたい。
「JR上野駅公園口」を読んで納得がいかない部分があるんです。
田舎なら10万円弱の年金があれば充分生活していけます。
娘に迷惑を掛けたくないと言って東京へ舞い戻りホームレスに
なるのも、娘は自らの存在を否定されたにほかなりません。
この2点が気になりました。
田舎なら10万円弱の年金があれば充分生活していけます。
娘に迷惑を掛けたくないと言って東京へ舞い戻りホームレスに
なるのも、娘は自らの存在を否定されたにほかなりません。
この2点が気になりました。
> noboru-xpさん、私も娘や孫のことが気になりました。
しかし結婚している娘は自分で世話ができないから、孫に見に行かせたのでしょう。
それを彼は重く受け止めたのだと思います。
また10万円もの年金って彼らももらえるのでしょうか。
しかし結婚している娘は自分で世話ができないから、孫に見に行かせたのでしょう。
それを彼は重く受け止めたのだと思います。
また10万円もの年金って彼らももらえるのでしょうか。
文庫本の117頁には「国民年金も月々七万円づつある」と書いてあります。
好き好んでフォームレスになった人にはあまり興味が
亡くなり途中で読むのを止めました。
亡くなり途中で読むのを止めました。

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
> noboru-xpさん、そうですか、私には他人事に感じられませんでした。
さへいじさん、こんにちはw
コメントするのに逡巡してまして、出遅れちゃいました。主人の昔の知り合いに、家族を捨て、離婚し西成のあいりん地区(大阪)に引っ越しした人がいました。定年まで勤めた銀行マン。本の虫で、やはり転居先でもずっと読書されてたようです。こういう心境分からなくはない。周りからは好奇の目で見るでしょうが、その人の生き方ですから。突き詰めたらこうなった。逃避もしくは世捨人!西行みたい。長々失礼しましたw
コメントするのに逡巡してまして、出遅れちゃいました。主人の昔の知り合いに、家族を捨て、離婚し西成のあいりん地区(大阪)に引っ越しした人がいました。定年まで勤めた銀行マン。本の虫で、やはり転居先でもずっと読書されてたようです。こういう心境分からなくはない。周りからは好奇の目で見るでしょうが、その人の生き方ですから。突き詰めたらこうなった。逃避もしくは世捨人!西行みたい。長々失礼しましたw
> baobab20_z21さん、そんな生き方もあるかな。
この上野駅の彼は、家族のためだけにすべてを尽くしてきて、けっきよく長男と妻に死なれてしまった。その無常感もさることながら、自分が無用になって孫から尽くされることを受け入れようがなかったのではないかと思います。
この上野駅の彼は、家族のためだけにすべてを尽くしてきて、けっきよく長男と妻に死なれてしまった。その無常感もさることながら、自分が無用になって孫から尽くされることを受け入れようがなかったのではないかと思います。
by saheizi-inokori
| 2021-05-22 13:40
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
Comments(13)