敗戦前夜の荷風 「『断腸亭日乗』を読む」(新藤兼人)

皮膚科で飲み薬を変えたせいか、やたらに眠くてかったるくて、大掃除やストレッチをやっても意欲が湧いてこない。
きのうなど、本を読むつもりで横になって、けっこう賑やかなラジオの音楽を聴きながら半覚半睡、起きなきゃあ、という気持ちと、甘い眠りを貪る気持ちが、いったりきたりで、一時間以上過ごしてしまった。
認知症ってのはこんな感じなのだろうか。
やばいから、薬をもとに戻そう。
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午後は僕の膝で、鼾をかいて寝ているサンチが、夕方近くになると、やにわに起き上がって、胸にのしかかってきたり、後ろに回って、耳を舐めたり、肩にのり頭の上に座って窓の外を眺めたりする。
俺を何だと思っとる!
「散歩行くか」とささやくと、飛び上がって喜ぶ。
こうされると、だるいなんて言ってられない。
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サンチ、きょうで13歳、カミさんと同じ誕生日なのだ。
カミさんは、さっきから子供たちや友達から送られてきたプレゼントに歓声を上げている。

爺さんは、だいぶガタが来たけれど、もう少し頑張っていろいろやらなければならない。
いつになったら、もういいよ、となるのかは、神のみぞ知るだ。
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緊急事態が始まって、しまったと思ったのは、図書館に予約した本を借り出していなかったことだ。
まあ、しょうがないから、蔵書を讀んですごそう。(今調べたら前に予約してある本は借りられる由)。
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下北沢の古本屋で手に入れた「『断腸亭日乗』を読む」を読む。
新藤兼人は、自分の住んでいた椎名町のアパートが空襲で焼けて、「住居がないことが痛切に身にしみ、改めて空襲というものを見直す」気持ちになっていたときに、荷風の『罹災日録』を手にし、そのなかで荷風の偏奇館が空襲で焼けるさまをどのように書き表しているかに、興味をもつ。

昭和20年3月9日、偏奇館焼亡の記事を『断腸亭日乗』で読んだことが、そのほかの『断腸亭日乗』に深くついていくきっかけになったと新藤はいう。
何処で、何が、どんなふうに起きたか、見事なシナリオを見るように、事の次第、その場所、時間の流れ、人物の動きを押え、客観描写としては、「下弦の繊月凄然として愛宕山の方に昇るを見る」とくる。まことにこころにくいばかりです。また偏奇館の炎上を見ることが出来ず、その方に火焔が立ちのぼるのを見て、「偏奇館楼上少なからぬ蔵書の一時に燃るがためと知られたり」とする。事実だからこういう描写が出来るのでしょう。事実をその目で見た人でないと書けない記述です。書物が焼ける口惜しさよりも、その事実を冷静に見たいのです。(中略)
わたしたちのショウバイもそうですが、見たものでなければ信じない。そういう癖があるんです。
さらに見たものを、どういうふうに、もう一度再生産して表現するか。(中略)
事実だけでは文章は書けません。観察があっての文章です。こういうところの描写力が荷風はすごいんです。
シナリオは余分なことや、美文で書いても何にもならない。
俳優やスタッフたちが、共通して感じたり、知ることが出来る表現が必要だ。
正確に人間の動きと、考え方を伝えなければならない。
ですからわたしはここの文章を読んで、その正確さと、表現の的確さにほんとうに参ってしまいました。
僕も、ここの引用を三たび読み直して、なるほどとおもった。昭和20年8月13日から15日までの三日間の記事を「『断腸亭日乗』のなかでもっともよく光るところ」という新藤。
荷風は安住できるところを失くし、心細く、勝山にいる谷崎潤一郎を訪ねていく。
谷崎も「疎開日記」を書いている。
二人の優れた文学者が、どういう考え方をもって戦火のなかを生きたか、それぞれの個性が良くわかる。
荷風によって認められた谷崎は、心身共に疲労困憊している荷風が頼めば、勝山に住む便宜を(なんとしても)図ってくれたかもしれないが、そう思えばなおのこと、勝山にいるべきではない、と(何が待っているか、分からない)荷風は岡山に引き返す。
新藤は、そういう荷風の行動を「自分の心と、他人の心を比べてみて行動ができるということは、優れたひとつの感性、品性をもった人ではないか」といい、「ここが非常に光っているように思えました」と語っている(本書は4回にわたって開かれた「岩波市民セミナー」の講義)。
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6月2日、小雨の東京駅を去って明石に向かう時の記事に、
発車の際汽笛も鳴らさず何の響きもなければ都会を去るの悲しみ更に深きを覚ゆ。
とあるのを、すばらしい一行だと感じ入ったら、新藤もこの一行を引いて
さすがと思います。こういうすぐれた表現が『断腸亭日乗』のあちこちにみられるのです。こういうところがただの日記ではなく、まさに荷風の日記だという感じがします。そのときの状況を文学的な文章の力で表現していく。これが荷風が、自分の代表作は『断腸亭日乗』だと言っているところであり、生涯この日記の添削をやってきたということなんです。
という。
同じ文章に感じ入った点は、いい気分だが、わが日乗の「ただの日記」にすらなりえていないことには、シュン。
Commented by unburro at 2021-04-25 15:15
ふと思いついて、検索したところ、
荷風が、この『断腸亭日乗』を自作朗読している番組を
見つけました。

カルチャーラジオ NHKラジオアーカイブス
「声でつづる昭和人物史」の永井荷風の回です。
YouTubeで、聴くことができました。
https://youtu.be/CUhCZjRjGfM

1945年の録音で、聴き取りづらいところもありますが、
柔らかい声で、お洒落な外見と共に、
これはモテただろうなぁ、と実感しました。
Commented by doremi730 at 2021-04-25 16:32
奥様とサンチちゃん、お誕生日おめでとうございます!
今日はご馳走かな?

「居残亭日乗」楽しく拝読、且つ勉強させて頂いております♪
Commented by jyariko-2 at 2021-04-25 18:32
サンちゃんの顔が 人の顔に見えて来ました
もしかしてワタシ認知症?
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-25 18:42
> unburroさん、ありがとう。
第一回だけ、とりあえず聞きました。わたしには想像に近い声でした。ちよっと私に似てる、なんちやって。
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-25 18:46
> doremi730さん、ありがとう。こんやは肉解禁です。
サンチはいつもと同じですが。
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-25 18:48
> jyariko-2さん、はは、観察眼が鋭いのですよ。
Commented by baobab20_z21 at 2021-04-25 21:36
さんちちゃん、じゅうさんさいのおたんじょうびおめでとう。ぼくたちは捨て猫なのでおたんじょうびがありません。さんちちゃんがうらやましいです。っと我が家のチビ達が言ってましたww
Commented by hanamomo60 at 2021-04-25 22:10
こんばんは。
サンちゃんもう13歳ですか!
人間なら何歳かな~。
奥様もお誕生日おめでとうございます。

皮膚科の薬はとても眠くなると友人も言っていました。
夫が眠たがるのもそのせいかな~と今更思いました。
クスリは怖いですから納得いくまで先生と話した方がいいと思います。

東京の緊急事態宣言のニュースを聞いたとき、ご隠居はすぐに図書館に出向いたのかな~と思いました。
それにしてもオリンピックなんてできるのでしょうか?
初めからしっくりいかない東京五輪でした。
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-25 22:23
> baobab20_z21さん、ありがとう。
かみさんも誕生日なんですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-25 22:28
> hanamomo60さん、ありがとう。こんやは肉解禁でした。
薬は勝手にもとに戻しました。
眠れるのはいいけれど、昼間は起きていたいです。
五輪をごり押しすることが、支持率低下につながることを思い知らせましよう。
Commented by kogotokoubei at 2021-04-26 08:17
いえいえ、梟通信は、ただの日記ではない!
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-26 09:49
> kogotokoubeiさん、ありがとう。
日記ともいえないヘンテコなものです。
Commented by okanouegurasi at 2021-04-26 23:42
サンチは犬相がとても良いですね。
ペットは飼い主に似るというから...
また、サンチの事だけですみません。いつも文学、日本の行政いろいろ勉強させていただいてます。
Commented by saheizi-inokori at 2021-04-27 09:22
> okanouegurasiさん、ありがとう。私に似ず犬柄のいい男です。
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by saheizi-inokori | 2021-04-25 12:42 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori