アメリカの堕落に吉田茂と岸信介はどう対処したか 「アメリカの世紀と日本」
2020年 12月 21日
戦後の世界情勢はローズヴェルトの理想主義とはかけ離れた冷戦を招来した。
アメリカ(ダレス)は、日本にアメリカの陣営につき憲法改正と再軍備をすることを迫る。
日本がソ連の統制下に入ることはアメリカにとって死活問題だからだ。
「戦争で負けて外交で勝った歴史はある」と側近に語る吉田茂は、この状態を日本の好機ととらえた。
アメリカの言うなりにはならず、日本の安全保障問題はあまり重大でないかのように語り(内心は、アメリカ軍が駐留していればソ連は攻めて来ないと確信していた)、日本は米国の理想を源泉とし、敗戦の経験に裏打ちされた平和憲法を有しているのだから、国民はこれを大切にし、国際社会で新たな道を歩む決意を固めていると(内心ほくそ笑みながら)ダレスにいうのだった。
再軍備に反対する世論の存在を示すために裏から社会党にダレスの滞在中にデモを行わせた。
さらに東南アジアの国々が日本の再軍備を恐れていることにも注意をむけた。
新憲法が参政権の付与にこだわった女性たちが改憲に反対であること、条文上改憲が難しいことも述べた。
側近の宮澤喜一は、吉田の言葉を手記に記す。
吉田は講和条約、日米安保条約、日米行政協定の三つの合意文書を結び、日本の占領状態を継続させた。
日本は安全の代価として自らの独立を差し出して(五百旗頭真)アメリカの属国に成り下がったのだ。 吉田茂が政権を失うと(1954)、アメリカと日本の実業界は社会主義者の挑戦を受けて立つべく保守勢力を糾合して「自由民主党」を誕生させた。
吉田の後任の総裁たちは、いずれもアメリカべったりとはいかなかったが、そのなかでただ一人米国が協働できる総裁が岸信介・旧秩序の代表だった。
旧秩序の残滓を払拭するという戦時中のローズヴェルトならびにそれを実行に移そうとしたマッカーサーの方針からいかに逸脱していたかを示すのがアメリカと岸の緊密な関係である。
官僚組織と軍幹部の結託により上から制度化していった「日本型ファシズム」を体現する存在、A級戦犯として巣鴨に三年収監されながら釈放され国会議員となり自民党の結成に尽力した男だ。
筆者は60年安保闘争における日本人の「魂を賭けた」闘争について記した後、「安保闘争の遺産」として次のように書いている。
果たして2014年の集団的自衛権をめぐる戦いをどのように評価しているのだろう。
今日も続きを読む。
アメリカ(ダレス)は、日本にアメリカの陣営につき憲法改正と再軍備をすることを迫る。
日本がソ連の統制下に入ることはアメリカにとって死活問題だからだ。
「戦争で負けて外交で勝った歴史はある」と側近に語る吉田茂は、この状態を日本の好機ととらえた。
アメリカの言うなりにはならず、日本の安全保障問題はあまり重大でないかのように語り(内心は、アメリカ軍が駐留していればソ連は攻めて来ないと確信していた)、日本は米国の理想を源泉とし、敗戦の経験に裏打ちされた平和憲法を有しているのだから、国民はこれを大切にし、国際社会で新たな道を歩む決意を固めていると(内心ほくそ笑みながら)ダレスにいうのだった。
再軍備に反対する世論の存在を示すために裏から社会党にダレスの滞在中にデモを行わせた。
さらに東南アジアの国々が日本の再軍備を恐れていることにも注意をむけた。
新憲法が参政権の付与にこだわった女性たちが改憲に反対であること、条文上改憲が難しいことも述べた。
側近の宮澤喜一は、吉田の言葉を手記に記す。
いずれ国民生活が回復すればそういう時(再軍備する時)が自然に来るだろう。それまでは当分アメリカに(日本の防衛を)やらせて置け。憲法で軍備を禁じているのは誠に天与の幸で、アメリカから文句が出れば憲法がちゃんとした理由になる。その憲法を改正しようと考える政治家は馬鹿野郎だ。口の悪い憎まれっ子ぶりだけを引き継ぐ孫が「ナチスのようにやれ」などとほざくとは夢にも思わなかっただろう。
吉田は講和条約、日米安保条約、日米行政協定の三つの合意文書を結び、日本の占領状態を継続させた。
日本は安全の代価として自らの独立を差し出して(五百旗頭真)アメリカの属国に成り下がったのだ。
吉田の後任の総裁たちは、いずれもアメリカべったりとはいかなかったが、そのなかでただ一人米国が協働できる総裁が岸信介・旧秩序の代表だった。
旧秩序の残滓を払拭するという戦時中のローズヴェルトならびにそれを実行に移そうとしたマッカーサーの方針からいかに逸脱していたかを示すのがアメリカと岸の緊密な関係である。
官僚組織と軍幹部の結託により上から制度化していった「日本型ファシズム」を体現する存在、A級戦犯として巣鴨に三年収監されながら釈放され国会議員となり自民党の結成に尽力した男だ。
CIAは佐藤(栄作)の要請を受け、大統領の許諾を得た上で、友好的な自民党員に金銭的支援を行っている。初めは岸に数百万ドルを送り、その後は他の親米保守派や社会主義穏健派、右翼団体、またヴェトナム戦争中には保守派の記者にも資金援助を行った。当初は民主主義を倒すことの背徳性が意識されたが、慣れが生じると、資金援助は反復作業と化した。ケネデイ大統領も説明を受けて、その継続を承認したものの、金額を徐々に減らすことを指示している。
安保闘争に連なる1950年代の出来事の成果の何が一番重要かと言えば、大勢の日本国民を政治に参加させたことである。何百万もの日本人を結集させた安保闘争には、広範かつ多様な組織や活動家が参画していた。当初デモを後押ししていたのは左翼政党、労働組合、学生団体だった。だが未来にとって大きな意味があったのは草の根レベルの市民が加わったことである。市民のほとんどは、イデオロギーや党派性によって動いたのではない。組織に動員されたわけでっもない。むしろ政府による抑圧への怒り、広く定着した反戦姿勢、「民主主義」尊重の信念にのずと突き動かされたのだった。(略)2018年に上梓された本書、ぼくはまだ半分くらいしか読んでいない。
仮に日本が独力で戦争の問題に向き合うことになっていたとしたら、降伏後のもっと早い時期に改革のエネルギーを結集できたかもしれない。普通の市民の行動志向には、そう思わせるところがあった。
果たして2014年の集団的自衛権をめぐる戦いをどのように評価しているのだろう。
今日も続きを読む。
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りんご
at 2020-12-21 17:30
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すごい。直球明解な解説を感謝いたします!
いま「日本に政府ってあるのだろうか。権力を用いて
自分たちの利益をむさぼる集団は存在するが」という
言葉を目にしたところです 続きをお待ちしております
いま「日本に政府ってあるのだろうか。権力を用いて
自分たちの利益をむさぼる集団は存在するが」という
言葉を目にしたところです 続きをお待ちしております
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saheizi-inokori at 2020-12-21 18:10
> りんごさん、日本の側からだけでなくアメリカ側からみた日米史のなかの日本の権力者像、ダレスやキッシンジャ―の苛立ちや怒りが興味深いです。
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ikuohasegawa at 2020-12-23 05:24
自分で読んでみようと思いましたが、Amazonで ¥5280 を見て断念しました。
saheiziさんの次の稿をお待ちします。
saheiziさんの次の稿をお待ちします。
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saheizi-inokori at 2020-12-23 06:25
> ikuohasegawaさん、アマゾンは安いのも出ていませんか?
by saheizi-inokori
| 2020-12-21 11:33
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
Comments(4)