僕たちはどうしようもない人非人なのか 「鬼池心中」(井上光晴)
2020年 10月 25日
けさもいい天気、きょうは洗濯休みの日とのんびりしていたけれど、日のぬくもりに、そうだ、カミさんのシーツとホーフを洗おう、というわけで結構な分量の洗濯になった。
あすこそは絶対に洗濯や休業だぞ。
井上光晴「鬼池心中」を読んだ。
廃鉱による離職者の悲惨な状況を、どこか滑稽に、幻想文学的に描く。
自分の母親をそれと知らなければ買春しそうになるような酸鼻を極める状況はなにがなし夢のなかの出来事に通うものかもしれない。
石油エネルギーへの転換によって経済は成長をするが、長年炭鉱で働くしか生きていけないように訓練された人々は奇怪な空虚に放り出されて、虚しく彷徨するしかないのだ。
スガを代弁者にする、貪欲貪婪な者どもは、自力自助ということばで彼らの死に向かう彷徨の後押しをする。
「地の群れ」所収の4篇を読んでいると、どこか大西巨人の「神聖喜劇」の語り口を思い出させる。
粟津則雄のあとがきに、井上光晴の語る小説の方法が紹介されている。 晩飯の食器洗いを手伝っていたら、また足が痛くなったので椅子に座って休もうと、なにげなく見たNHKテレビ「世界は私たちを忘れた~追いつめられるシリア難民~」は、被爆者、被差別部落民、炭鉱離職者の悲惨と同じような悲惨な状況がレバノンのシリア難民にも存在していることを、生々しく伝えて、歯を磨くのも忘れて最後まで見入った。
夫が爆死したある女性が、状況に負けないで「強く生きる」ことを決意して、子供たちを育て、絶望の淵にいる飲み水すら不足している難民テント暮らしの女性たちの相談相手になったり、「女たちが売春をしなくても生きていけるように」裁縫を教えもする。
多くの男たちは精神を病み、幼い弟や妹の世話を焼き病気の母親の介護もし、そうして健気に身を売って一家のタツキを稼ぐ妹に暴力を振るうのだ。
殴られも蹴られても「シリアにいたときのお兄ちゃんを好きだ、あの好きなお兄ちゃんに戻って欲しい」という。
こんな状況に追い打ちをかけたのがコロナ。
一日働いて300円(それで一家を食わせる)にしかならない農作業の手伝いすら出来なくなる。
レバノン人たちにコロナの巣のように言われ襲撃される。
ようやくありついたゴミ捨て場の仕事をしている少女(一家を支えている)はゴキブリ、ゴミ女呼ばわりされて、心が傷ついたという。
その子が頼りにしていたお兄ちゃんは誘拐され内臓を抜かれた姿でゴミ捨て場に放り出されていた。
52歳の男は9人の生活を支えることに絶望して焼身自殺する。
臨死の床の男に、息子がなんでこんなことをしたのかと問うと、こういう状況を世界に知って欲しくて火を被った、という。
テレビに写されたあのシリアの少女たちは今現在も、家族が生きるか死ぬかの瀬戸際で、「死んだ方が楽かもしれない」と思いながら、辛うじて一日一日を生き延びているのだ。
GOTOなんとやらで何万円も得して遊んだ人が褒めたたえられて、あの子たちが蔑みのなかで絶望的な日々を過ごしている。
僕および僕たちはどうしようもない人非人なのか。
大江健三郎は、「核時代に人間らしく生きることは、核兵器と、それが文明にもたらしている、すべての狂気について、可能なかぎり確実な想像力をそなえて生きることである」とする核時代の想像力論を唱えた。
小説で、テレビで新聞で、少しでも世界の狂気を知ること、それが僕が「人間らしく生きていく」ことのせめてもの助けになっているのか。
あすこそは絶対に洗濯や休業だぞ。
廃鉱による離職者の悲惨な状況を、どこか滑稽に、幻想文学的に描く。
自分の母親をそれと知らなければ買春しそうになるような酸鼻を極める状況はなにがなし夢のなかの出来事に通うものかもしれない。
石油エネルギーへの転換によって経済は成長をするが、長年炭鉱で働くしか生きていけないように訓練された人々は奇怪な空虚に放り出されて、虚しく彷徨するしかないのだ。
スガを代弁者にする、貪欲貪婪な者どもは、自力自助ということばで彼らの死に向かう彷徨の後押しをする。
「地の群れ」所収の4篇を読んでいると、どこか大西巨人の「神聖喜劇」の語り口を思い出させる。
われわれはどうにもならない状況におかれることによってその状況全体を把握することができる。窮鼠猫を噛むというわけではありませんが、私が小説の主人公たちを、時に重すぎるような過去でしばるのも、その理由からです。粟津は、この小説集に収められた4篇(「手の家」についてはこのブログで触れていない)の作品は、そういう方法のさまざまなあらわれを生き生きと示しているといい得る、とあとがきを〆ている。
現実の状況をどこまでも追いつめていくことによってそれを反対側に転化していく。どうにもならない状況、出口のない状況をえがき出すことによって、逆にその状況を解放する手段を発見する。自由をたたかいとる道をさがしだす。それが私の小説の方法です。
夫が爆死したある女性が、状況に負けないで「強く生きる」ことを決意して、子供たちを育て、絶望の淵にいる飲み水すら不足している難民テント暮らしの女性たちの相談相手になったり、「女たちが売春をしなくても生きていけるように」裁縫を教えもする。
多くの男たちは精神を病み、幼い弟や妹の世話を焼き病気の母親の介護もし、そうして健気に身を売って一家のタツキを稼ぐ妹に暴力を振るうのだ。
殴られも蹴られても「シリアにいたときのお兄ちゃんを好きだ、あの好きなお兄ちゃんに戻って欲しい」という。
こんな状況に追い打ちをかけたのがコロナ。
一日働いて300円(それで一家を食わせる)にしかならない農作業の手伝いすら出来なくなる。
レバノン人たちにコロナの巣のように言われ襲撃される。
ようやくありついたゴミ捨て場の仕事をしている少女(一家を支えている)はゴキブリ、ゴミ女呼ばわりされて、心が傷ついたという。
その子が頼りにしていたお兄ちゃんは誘拐され内臓を抜かれた姿でゴミ捨て場に放り出されていた。
52歳の男は9人の生活を支えることに絶望して焼身自殺する。
臨死の床の男に、息子がなんでこんなことをしたのかと問うと、こういう状況を世界に知って欲しくて火を被った、という。
テレビに写されたあのシリアの少女たちは今現在も、家族が生きるか死ぬかの瀬戸際で、「死んだ方が楽かもしれない」と思いながら、辛うじて一日一日を生き延びているのだ。
GOTOなんとやらで何万円も得して遊んだ人が褒めたたえられて、あの子たちが蔑みのなかで絶望的な日々を過ごしている。
僕および僕たちはどうしようもない人非人なのか。
大江健三郎は、「核時代に人間らしく生きることは、核兵器と、それが文明にもたらしている、すべての狂気について、可能なかぎり確実な想像力をそなえて生きることである」とする核時代の想像力論を唱えた。
小説で、テレビで新聞で、少しでも世界の狂気を知ること、それが僕が「人間らしく生きていく」ことのせめてもの助けになっているのか。
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tsunojirushi at 2020-10-25 19:04
痛いお言葉です。自分が病苦から抜け出せたら、誰かを助けたいです。
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zhimuqing at 2020-10-25 19:51
『娘は戦場で生まれた』というシリアのドキュメンタリー映画があり、コロナの前の映画ですが、なかなか壮絶なものでした。小学生ぐらいの子供が日本の漫画のキャラクターの絵を描いて遊んでいるのを観て、なかなかやるせない気持ちになりました。NHKのドキュメンタリーも探して見てみようと思います。
それはそうと本日ホンジュラスのおかげで核兵器禁止条約への批准国が50になりましたね。51番目でも良いので批准してほしい(しなくてはならない)のですが、スガーリンにそれを望むのは無理なのでしょう。早々に交代させなければ。
それはそうと本日ホンジュラスのおかげで核兵器禁止条約への批准国が50になりましたね。51番目でも良いので批准してほしい(しなくてはならない)のですが、スガーリンにそれを望むのは無理なのでしょう。早々に交代させなければ。
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rinrin1345 at 2020-10-25 21:01
毎日お掃除とお洗濯。素晴らしい。いつになったら見習えるものやら
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saheizi-inokori at 2020-10-25 21:57
> tsunojirushiさん、起きていることを知るだけでも!
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saheizi-inokori at 2020-10-25 22:00
> zhimuqingさん、早々に条約はナンセンスなどと自民党の連中が言い出しているようです。スガ~リンだけの問題ではないですね。
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saheizi-inokori at 2020-10-25 22:01
> rinrin1345さん、せめてこれぐらいやらなくては、ボケがもっとひどくなります。
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fusk-en25 at 2020-10-25 22:20
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Solar18 at 2020-10-26 00:29
「可能なかぎり確実な想像力をそなえて生きる」ことは本当に難しいです。しかも、そうできたとしても、人間らしく生きることはできるのでしょうか。そもそも人間らしくって、なんなのだろう。
もしかして、身勝手で欲だらけで、自分のすぐ身の回りの人ぐらいにしか配慮できないのが、「人間」という名の動物の実態なのではないかと、自らを振り返っても思うのですが、、、。
もしかして、身勝手で欲だらけで、自分のすぐ身の回りの人ぐらいにしか配慮できないのが、「人間」という名の動物の実態なのではないかと、自らを振り返っても思うのですが、、、。
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j-garden-hirasato at 2020-10-26 07:09
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kogotokoubei at 2020-10-26 08:08
そのNHKスペシャル見ました。シリア難民の男の子の兄が、臓器売買のために誘拐され亡くなっていた、という話が、あまりにも残酷すぎます。
彼ら彼女たちを、忘れてはなりませんね。
彼ら彼女たちを、忘れてはなりませんね。
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olive07k at 2020-10-26 08:14
晴天の秋日和の一日。
主治医の散歩は無しで・・との お言葉を無視して
懐かしい場所へ 飛び回った 2日間
(根岸公園 東扇島公園)
ボンヤリとしていた 老い姫の
目がキラリ。あの頃に戻って(^^)
久しぶりに歩かせてみました。
洗濯ものも ほったらかしで。
あの日は どうしても 無性に
出かけたくなりました。
壮絶な番組を
きっちりと 見ることが出来ない・・
気弱な私、、が 居ます(恥)
主治医の散歩は無しで・・との お言葉を無視して
懐かしい場所へ 飛び回った 2日間
(根岸公園 東扇島公園)
ボンヤリとしていた 老い姫の
目がキラリ。あの頃に戻って(^^)
久しぶりに歩かせてみました。
洗濯ものも ほったらかしで。
あの日は どうしても 無性に
出かけたくなりました。
壮絶な番組を
きっちりと 見ることが出来ない・・
気弱な私、、が 居ます(恥)
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saheizi-inokori at 2020-10-26 08:59
> fusk-en25さん、全身小説家、いろんな側面を見せるのですね。
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saheizi-inokori at 2020-10-26 09:02
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saheizi-inokori at 2020-10-26 09:04
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saheizi-inokori at 2020-10-26 09:06
> kogotokoubeiさん、あの男の子が生きたままお腹を切られるときの恐怖や絶望感を想像するとたまらないです。
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saheizi-inokori at 2020-10-26 09:10
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tona
at 2020-10-27 21:05
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シリア難民のこと、ここを読んで聞きしに勝るひどいもので、絶句してしまいました。
>GOTOなんとやらで何万円も得して遊んだ人が褒めたたえられて・・・
いくら得したと自慢もしていますよ。なんかあまりに違う世界でため息が出ました。
>GOTOなんとやらで何万円も得して遊んだ人が褒めたたえられて・・・
いくら得したと自慢もしていますよ。なんかあまりに違う世界でため息が出ました。
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saheizi-inokori at 2020-10-27 22:09
> tonaさん、これが現実の世界、それぞれに経済をまわさなければならないのかもしれませんが、なんとも割りきれない思いがします。
ましてGOTOが限られた人たちだけの者でコロナ対策に十分なカネが使われていないと思えばなおさら。
ましてGOTOが限られた人たちだけの者でコロナ対策に十分なカネが使われていないと思えばなおさら。
by saheizi-inokori
| 2020-10-25 12:36
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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