愚かさの蔓延に驚いた元日本兵 「日本蒙昧前史」

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化粧液、こうして逆さまにして最後まで使う。
逆さまにしてからの方が長い間使えるような気がする。
ソースの瓶もそうだ、口が大きすぎる。
ドバドバとむだに使わせて、出にくくなったらさっさとポイしろってことか。
自分で作ったものに愛がないぞ。
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【蒙昧】知識が十分でなくて、物の道理が分からないこと(新明解)。
日本が壊れ・蒙昧な国になろうとする蒙昧前史(フィクションと作家は断る)。

大阪万博(1970)のドタバタ劇が語られる、いつまでも決まらない「会長」、難航する用地買収、
まだ日本での開催も承認されておらず、19世紀半ばにロンドンで始まったとされる万国博覧会とはいかなるイベントなのか、国際見本市とはどこが違うのかも分からぬ段階から、大阪府は、訪日外国人による輸出取引で八億ドル乃至九億ドル、観光収入で五億ドル、参加各国の建物建設費で一億五千万ドル、合計十五億ドル前後の外貨収入を見込んでいた。
地上65メートルの太陽の塔の目玉に籠城して8日過ごした「目玉男」がいた。
北海道旭川で育って、6歳の頃、誰よりも慕って、あとをつきまとって離れなかった姉・11歳が砂利トラにはねられて死んでしまった。
自動車に対する怨念・憎悪を抱きながら進学校に進んで柔道部に入るが、ある日自分では親友だと思っていた二人の背中をふざけて押そうとすると、思いもかけない侮蔑の混ざった冷ややかな低い声で「触るな!」といわれ、それっきり友人はいなくなった。
北大に入った男は「葉隠入門」(三島由紀夫)を、その「独善的な美意識、ナルシシズム、自らの死後も世界は存続することへの無関心、無責任に吐き気さえ覚えながら」読みつつも、
経済合理主義と芸能全盛の現代に対するあからさまな蔑視、批判を恐れぬ開き直り、そして人間をじっさいの「行動」へと駆り立てる、内的情熱への賛美に、目玉男はすっかり取り込まれてしまった。
そして、素人目にも愛敬が感じられる太陽の塔には好感を持ちつつも
このイベントが掲げる「人類の進歩と調和」というテーマ、人間が対峙するいかなる難題も、必ず人間の知恵によって解決され得るという楽観主義、未来志向、科学技術信奉に対しては、一言物申さねば気が済まなかった。
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目玉男が「投降」し万博が終わり、「葉隠入門」の作家が割腹自殺をし、万博開会式前日にも会場に来ていたノーベル文学賞受賞作家がガス管を咥えて死に、連合赤軍事件浅間山荘事件があり、冬季オリンピックも札幌で開かれ、それらの事件や出来事以上に人々に驚きと困惑を与えた人がいた。
グアム島のジャングルの奥深くで、日本が戦争に負けたことも知らぬまま、二十八年間も洞窟の中に身を潜めて暮らしていた元日本兵だ。
じっさいは「生きて虜囚の辱めを受けず」の戦陣訓に囚われていたのでもなく、日本が敗戦したことも分かっていた。
軍部への信頼などとっくに失墜していた。
ひたすら、捕まったら処刑されることを恐れていたのだ。

大騒ぎして迎えた日本だったが、国の対応は冷たかった。
さんざん待たされた挙げ句の軍人恩給額は、年間10万円にも満たなかった。
やむなく彼は、帰国後結婚した妻も伴い全国を講演して歩いて生活費を稼ぐ。
日本列島改造論、公定歩合の引き下げによるカネ余りで建設資材・繊維・食糧の価格高騰、石油ショック、、カネカネカネの世の中になった。
元日本兵は参議院選挙に全国区で出馬する。
徹底してカネを使わない選挙で、無料と聞いて録画してもらったNHKの政見放送の一部
帰国して何よりも驚いたことは、高層ビルディングが林立する大都市でも、東京~新大阪間を三時間十分で結ぶ新幹線の速さでも、欧米風に変わってしまった生活習慣でもありません。豊かさや新しさならば、それはどの時代にもあったものです。私がどうしても受け容れることができないのは、世の中のありとあらゆる価値が、金額で、数の多少で推し量られるようになってしまったという愚かさ、馬鹿さ加減、ただその一点であります。

誤解しないでください、これは懐古趣味ではない、過去への郷愁ではない、これはむしろ予見なのです。そう遠くない将来、進歩派を自称する日和見主義者たちが、少数派を装った多数派が、恥ずかしげもなく開き直って、愚かさに加担し始めることでしょう。そして、もっとも愚かな人間は、その愚かさがゆえに、最高の権力を手中に収めるのです。

愚かさの蔓延によって滅びるのが資本主義国家の宿命なのだとしても、その前にこの国がもう一度戦争に巻き込まれることだけはないよう、じっさいに戦争を経験した人間の一人として、それだけは願って止みません。
得票数は二十六万二千五百四十七票、最下位当選の共産党議員よりも三十万票以上少ない完敗だった。
僕は、この演説を今初めて読んだ。
でもあのとき読んでも動かされなかったかもしれない。
僕も愚かさに加担して(必死に)生きていたのだ。
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蒙昧真っ只中の現日本。
山下夫人、目玉男の姉、横井夫人、素敵な女性が登場する小説だ。

文藝春秋
Commented by unburro at 2020-10-19 12:08
大阪万博の時、私は小学5年生でした。
万博へは、学校の遠足を含め数回行きましたが、
目玉男、って、全く記憶に無かったです。

1970年、色んな事があった年だったんですね…
よど号ハイジャック、アポロ13号、植村直己のマッキンリー登頂
ビートルズ解散、三島由紀夫…

目玉男って
「太陽の塔」の目玉の所に籠城したから、目玉男なんですね!

横井正一さんは、子ども心に衝撃的でした。
つい先日、
「勤め先のパートさん(50代女性)が、休憩が終わって、椅子から立ち上がる時に、ヨッコイショーイチ! って、言ってて、なんか笑った」
と、娘が言ったので、
「それは昔、横井正一という人がいて…」と説明したのですが、
50代女性のパートさんも、たぶん横井さんを知らないままに、
「よっこいしょ」という時の掛け声として、子どもの頃に
親や年配の人が使っていたのを聞いて、覚えていて、
今も使っているのだと思い、何というか、時の流れ?を
しみじみ思いました。

なんか、詰まらない話ですいません。
でも、50年前も大変な時代だった、そして、50年後の今の私達も
今は大変な時代だ、と思っている。その事に人間のしたたかさ、
大衆の強さ、ようなものをつくづく思います。
Commented at 2020-10-19 12:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 12:52
> unburroさん、私はこの年でもっとも記憶に残っているのは三島の割腹です。房州館山の研修寮に向かう途中、タクシーでニュースを聞いて呆然としました。彼の遺作「豊穣の海」を読んでいる最中でした。
今起きていることの重さを気づかずに過ごしているのは、大衆の強さでもあり、愚かさでもあるのだと思います。だってあの頃より今の方がマズシイ生き方をしてると思います。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 12:54
> 鍵コメさん、この元日本兵は横井さんです。小野田さんは中野学校出の士官、大分違いますね。
Commented by テイク25 at 2020-10-19 13:43 x
横井正一さんの政見放送演説が素晴らしいですね。と言っても通り過ぎたずっと後になった今頃知ったのですが。今読むと心に突き刺さるような言葉です。あの頃に資本主義の本質を見通しその正体を告発しているなんて本当にすごい。ああ、それなのに私はと肩を落とさざるを得ません。

今現在、私たちは目の前で何が起こっているかを知っているのですから、後になってその意味を知ったなんてことのないようにしましょう。
Commented at 2020-10-19 14:24
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by IK at 2020-10-19 15:31 x
>>もっとも愚かな人間は、その愚かさがゆえに、最高の権力を手中に収めるのです。

すごい言葉を残されていたんですね。びっくりしました。
「日本蒙昧前史」 読んでみます。
Commented by jyariko-2 at 2020-10-19 15:57
自分で作った物に愛がないぞ っていいですね
そう思う事良くあります
愚かさの蔓延 今がその時に思えて背筋がゾ~っと寒くなりました
今日は気温も低いけれどそれ以上に身震いするほど寒くなりました
GOTOで観光地はにぎわっているようですが
皆さーん コロナの蔓延以上に怖いですよーって叫びたいです
Commented by takoomesan at 2020-10-19 17:19
同じようなこと、してるね!
Commented by kuroguly18 at 2020-10-19 18:53
横井正一さんとは驚きです。
普通の人がこれほどの先見の明を持っていることに驚きました。
途中までは小野田さんだと思って読んでいましたが・・・

ある程度の人は、戦後の経験なども踏まえ、あの戦争の本質を見抜いていたのだと思います。
私の父は純粋に天皇を信奉していましたが、母は戦争も天皇も批判的に見ていました。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:01
> テイク25さん、横井さんはサバイバルの能力もすごいけど、社会の本質をつかむ力もあったのですね。
それはもしかしたら一体のものかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:02
> 鍵コメさん、なにも謝ることはありませんよ。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:04
> IKさん、フィクションですよ。
でもかなりが事実だと思われます。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:07
> jyariko-2さん、今テレビニュースを見ながら「大東亜共栄圏」という言葉を思い出しています。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:10
> takoomesanさん、同じようだけどより悪質になっています。
大政翼賛の議会でも東條批判の演説はあったのです。もっともその人は自殺に追い込まれましたが。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 19:12
> kuroguly18さん、あの戦争が侵略戦争であることは、私たちは授業で教わったのです。
Commented by Deko at 2020-10-19 19:51 x
こんばんわ
戦争により人生を翻弄され日本に帰国した横井さん小野田さん違つた眼で日本を日本人を見つめたのではないでしょうか。
政見放送を今聞いたとしても当てはまるように思えます。
Commented by wawa38 at 2020-10-19 20:23
三島由紀夫が割腹自殺した時、私は肋膜炎で入院中でした。ラジオから流れるニュースに、えっ、と思わず声にした記憶があります。
万博もノーテンキに行きましたし、横井庄一さんのことも思い出します。
よき時代を生きてきたと思っていましたが、いろんな出来事がありました。まさに、「過ぎ去った後に、初めてその出来事の意味を知る」です。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 21:33
> Dekoさん、カネカネカネの日本になっているのは辛かったでしょうね。
それから今は自己責任というもっと辛い社会になりました。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-19 21:36
> wawa38さん、そして中曽根だの小泉だの竹中だのが跋扈して、自己責任の味もそっ氣もないひどい社会になりました。
Commented by doremi730 at 2020-10-19 23:07
横井正一さんの演説、初めて拝読しました。
心にグサグサささります。
こんな先見の明がある方を当選させられなかった
我々は本当に愚か者ですね
Commented by okanouegurasi at 2020-10-20 00:09
横井さんの政見放送を始めて知りました。
目玉男)は覚えていますが、報道は通り一遍で、面白半分だったような...いろんなことがりましたよね。若くて立ち止まって考えたりもしなかったなあ...胸にすとんと落ちる良いブログで、感謝です!!
Commented by j-garden-hirasato at 2020-10-20 07:05
消費を促すことも、必要です(笑)。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-20 09:34
> doremi730さん、選挙公報をちゃんと読むこともしなかったなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-20 09:35
> okanouegurasiさん、今もいろんなことが進行中、注意深くあらねばと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-20 09:36
> j-garden-hirasatoさん、そうではありますが、無駄に使わせたり捨てさせた李するのは、ね。
Commented by tona at 2020-10-20 09:36 x
目玉男(まだ北海道に元気で生きておられた)、作家の割腹自殺(濠を挟んでこちら側の学校に勤めていてまだ校内に居ました)、自殺したノーベル賞作家(義弟の方の親戚で結婚式で会いました)、28年後に出てきた元日本兵(本を読んで驚きました)。あの頃は実に目まぐるしかったです。これだけ書いていただくとてもよく覚えています。その後のことはな内科のきっかけがないと霧の中という頭の状態ですね、
目玉男のお姉さんは知らなかったです。どんな人かはこの本を読まないとわからないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-20 10:11
> tonaさん、お姉さん、11歳で交通事故に遭って亡くなりました。
幼い弟が、デパートの鳥やで飼われているジュウシマツを可愛そうに思って逃がして、叱られているときに「あなたは男の子なんだから、そう簡単に反省してはいけない」というのです。

Commented by at 2020-10-21 06:39 x
万博ではパビリオンという用語が記憶に残っています。
親と観に行った同級生の自慢する声、得意な調子・・・

70年代はじめは揺れ動きながら、分裂と融和を同時に発生させていた、そんな時代ですね。
最近亡くなった筒見京平には「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)があります。
何にグッバイしたのか?70年代よ。

Commented by saheizi-inokori at 2020-10-21 08:41
> 福さん、私はあんなにも多くの人々が行列を作って見るということが今でも納得できません。なんか恐ろしいのです。
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by saheizi-inokori | 2020-10-19 11:20 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(30)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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