バス停ではなんでも起きる 「星に仄めかされて」(多和田葉子)

「地球にちりばめられて」の続編、新しいメンバーがムンンとヴィタだ。
ムンンはSusanooの弟だという。
自分がどこから来たのか、海のじゃない生みの親を知らず、里の親が名前をつけた。
病院の半地下で皿洗いをしている二人は同時にやとわれたけれど、そして顔は似ているけれど兄妹ではない。
二人は舌が長いから、普通に話しにくいので自分たちで作った特別な言葉で話す。
舌が余ってしまう部分にラリラリを捕捉して「おいらラも遠くから来たララ。」みたいに。
なにかあると二人は踊る。
彼らの病院にはベルマー医師もいる、クヌートの友だちだ。
皮肉屋で不機嫌で偏屈で人の意見を聞かず自分が一番頭がいいと思っていて、、、みんなから嫌われているけれど、看護師のインガだけはそういうところを好いている。
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前編からの登場人物。

Hiruko:読者・僕には日本人のようだが、留学している間に母国が消えてしまって、北欧を転々として暮らす。
その間に「パンスカ」というスカンジナビア共通語を発明した。

クヌート:デンマークに住む言語学者の卵、Hirukoとパンスカに惹かれて彼女の母国語を話す人を探す旅に同行する。

アカッシュ:ドイツ留学中のインド人男性。女性として生きようと決心して赤いサリーを着て歩く。トリアーでHirukoとクヌートに出会い、同じ旅に出る。

ナヌーク:グリーンランド生れのエスキモー。クヌートの母親・ニールセン夫人の援助を受けてデンマークで語学を学ぼうとするが、学校がイヤになり、旅にでる。見た目から日本人と勘違いされることが多く、鮨職人を演じる。
ノラに助けてもらうが彼女のもとから逃げ出している。

ノラ:トリアーの博物館に勤めるドイツ人、ナヌークを恋する。

ニールセン夫人:クヌートの母親。ナヌークの学費と生活費を支援している。

Susanoo:福井で生まれた日本人。歳をとらなくなった。
造船を学ぶためにドイツに留学したものの、今はフランスで鮨職人となっている。
この物語のはじめは失語症と治療と言うことでベルマーの病院に行くのだが、そのあとをHiruko、ヌナーク、アカッシュ、ナヌーク、ノラが、追いかけてくる。

舞台劇のように個性ある人たちが個性ある言葉を交わし、または交わさない。
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(虎ノ門ヒルズ、香港焼味酒家 赤坂璃宮「海老ワンタンメン」 赤坂璃宮の譚さんによろしくと言って店を出たらエレベーターのところで本人に会えた。去年、本店で亡妻27回忌を開いた際のお礼をいえた。
初めて入ったビルでこんなことが起きるのも嬉しいことだ)

 きのう「不機嫌な世界」というブログをアップして、本書を読み始めたら、すぐに「ベルマーは語る」という章で
もし不機嫌の研究をしている学者がいるなら、話を聞いてみたいものだ。いや、他人の研究など信用できないから、自分自身を実験用のネズミとして使って研究した方がいいのかもしれない。不機嫌の要因として考えられるのは、食べ物、天気、衣服、睡眠、性生活、労働などだろう。
という文章が出てきたのにはびっくり。
でも政治、とくに嘘つきで独裁的で地球を破壊しつつあるような権力者の政治は不機嫌の要因にならないのだろうか。
不機嫌の要因に何をあげるかでその人間のことが分かるのだろう。
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(虎ノ門横丁)

そしてもう少し読んでいくと、こんどはベルマーとクヌートの会話でアカッシュのことが話題になって、なんでインド人が出てくるのかとベルマーが訊く。
「どうしてインドが出てくるんだ」
「ここはデンマークだ。インド人がいてもおかしくはないだろう。でもアカッシュはコペンハーゲンに住んでいるわけじゃない。ドイツのトリアーに留学している。ナヌークを探してHirukoとトリアーに行った時に、偶然バス停で友達になったんだ。」
「バス停は友達をつくる場所か」
「バス停で知り合った女性と結婚した男性だっている。バス停で心臓発作を起こして死んだ人もいる。バス停で陣痛が起きて子供を産んだ人だっている。バス停ではあらゆることが起こりうる。
というやり取りが出てくるではないか。
僕が、手伝おうとしない夫と、その夫に悪口を吹き込んだ誰かの愚痴を大声で繰り返す老婦人にバス停で出会ったことなどちっとも珍しいこっちゃないとクヌートは言いたいらしい。
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小説そのものはなんだか得体のしれない展開をみせて、次作では、失われた列島の言葉を探して彼らは大船旅に出るようだ。
僕も驥尾に付して、船に乗り込むとするか。
ムンンがみんなにソーベツのプレゼント・お守りとして、レグレス星(ライオンの心臓・人を幸せにする)、アークトゥルス星(大熊座を追いかけて北を旅する)、ベテルギウス星(いろんな人に見つめられている赤い星)、シリウス(近くて明るいから見つけやすい)、カペラ(太陽に似ている)をあげる。
僕にはくれないけれど、みんなのあとをついていけばいいと思う。
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夜中に何度も目が覚めて、そのたびに落語を聴くか、この小説を読むかしていたら、とうとう最後まで読んでしまった。

Commented by unburro at 2020-10-13 17:19
>不機嫌の要因として考えられるのは、食べ物、天気、衣服、睡眠、性生活、労働などだろう。

なるほど…
この不機嫌の要因の中に、独裁的で反知性的で嘘つきな政治、
というのは入らないのか?
ということですね。むうぅ…難しいですね。

しかし、酷い政治状況の中でも、
「食べ物、天気、衣服、睡眠、性生活、労働など」が
満足できるものであったなら、不機嫌にならないかも
しれない。とは思います。
残念ながら…

社会や政治に対して、批判し、不安を共有し、抵抗することは
とても大事なことで、
それを「機嫌良く」出来れば良いのですよね…

先ずは、お身体の痛いところを少しでも減らすことが
必要か、と思いますが、鎮痛剤など効きにくいのでしょうか?
身体に浸み込んだ痛みの記憶を消すほど、グッと効く薬と
出会えると良いのですが…
物事を信じ易い、思考が単純な人の方が、痛み止めは効き易いらしいので、佐平次さんのように頭脳明晰な方は、鎮痛剤が効きにくい
のかも知れません…残念ながら…
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-13 18:39
> unburroさん、私は自分が「食べ物、天気、衣服、睡眠、性生活、労働など」に満たされていても、飢えている人や住むところのない人などがいて、差別が横行し、権力者たちがなすべきことをせず、嘘で固まった反知性的統治をしている、今の日本に対しては不機嫌です。
これらの実態をみてはとうてい機嫌よく抵抗したり批判したりなんて器用な真似はできません。
Commented at 2020-10-13 22:24
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by j-garden-hirasato at 2020-10-14 07:16
虎ノ門横丁
お店でお客さんの数が、
全然違うんですね。
Commented by unburro at 2020-10-14 08:18
おはようございます。
昨日の私のコメント、読み返すと、全く酷い物言いです。
心から反省しています。本当にごめんなさい。

あまりに、佐平次さんがお辛そうなので、励ましたい気持ちが
裏腹な言葉遣いになってしまったのです。
もっと、ゆっくり養生していただきたい。出来ることなら
もう少し楽な気持ちで居ていただければ、痛みも減るのでは
ないか、と愚考したのですが、それにしても、鎮痛剤が効きにくいのではないか、などというのは馬鹿な言い様でした。

私自身、自分は機嫌良く過ごしているつもりでも、胸の内に
不機嫌を抱えているから、こんな冷たい言葉を並べてしまった
のかもしれません。まだまだ未熟者であることを深く自覚しました。
どうぞご寛恕いただければ幸いです。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 09:24
> 鍵コメさん、私もうまく書けません。
心では分かっているつもりでも、書いてみるとその考えが浅いのではないかと、書くのをやめようかと思うことが多いです。
でも一介の老人のタワゴトだと割り切ってその日その日でテキトーなことを書き殴っています。
この今を嬉しく生きていく条件と言うか、環境はなんなのか、それは人さまざまでしょうね。
カミさんの検査結果が良ければすべてオーライと言う日もあり、翌日は天気次第だったりもします。
けさはスガが国民をバカにしていることに不機嫌です。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 09:26
> j-garden-hirasatoさん、時間帯とか平休日の違いですね。
写真は11時20分の開店前と12時近くの二種類です。
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 09:37
> unburroさん、おはよう。
私もとっさに返信してから、少し考えました。
unburroさんが、やさしい気持ちで励ましていただいているのはわかっていたのに、スガ連中のあまりの酷さに怒りまくっていたので、ついきつい言い方になってごめんなさい。
そして、抵抗・批判するにしても笑顔をもってできるようにしなくちゃ駄目だなあとも思います。
ゆうべは久ぶりに右を下にして寝ても平気だったので、しめしめ直ったかなと思ったら、まだ少し痛みます。
でもこれは私の不機嫌の原因としては大したことではないのですよ(ブログネタ、ジョ-クみたいなもの)。
昨日、古い友人からブログを読んだと電話があって、彼も腰痛だと言って坐骨神経痛のことを講義してくれ、ロキソニンを飲むとCRE(腎臓)が悪くなるから、カコナールにしなさい、なんてアドバイスしてくれるではありませんか。
Commented by unburro at 2020-10-14 10:12
早速のお返事ありがとうございます。
ほんとうに優しいお言葉を頂き、胸のつかえが溶けました。
これからも、この過ちを忘れずにブログに対峙していこうと
思います。

そして、大事な事。
ご友人からのアドバイス、素晴らしいです。
ロキソニン系は良くないです。
まさに、カロナールが、最適だと思います。
義母の介護の中、主治医からの処方もカロナールでした。
強さ(濃さ?)に200、300、500、とか段階があるので、
医師と相談しながら弱いものから試して、しっかり効くものを
服用されるのが良いと思います。
強いものでも副作用は少ないので、グッと押さえ込んで
痛みをピリッとでも感じ無いくらい、まで効くものを飲まれる
と良いと思います。

どうぞお大事になさって下さい。
少しでも痛みが減りますようにお祈りしております。
(お掃除など、無理しないで下さいね…)
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 11:24
> unburroさん、さっそくありがとう。
リリカ、ってのも処方されたことが(別のクリニックで)あります。
カロナール、なんか関西系?
リリカは夢見る乙女系。

Commented by unburro at 2020-10-14 12:24
リリカは、神経系、メンタル系の薬なので
名前は可愛いけれど、ヤバイです。
処方する整形外科も多いようですが、害多く益少ない、
飲んじゃいけないクスリです。

何度もお邪魔してすいません。

カロナール、軽な〜る、ホンマ!関西弁ですね…^ ^
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 13:11
> unburroさん、ありがとう。
かわいい名前には毒がある?
りりかちゃんには近づかないことにしましょう。
Commented by ginsuisen at 2020-10-14 21:24 x
わー。譚さんのワンタン!えびたっぷりですよね。しかも譚さんとも遭遇とは、素敵。
まだ、この虎ノ門ヒルズいけてないのですー。いかなくちゃ!
Commented by saheizi-inokori at 2020-10-14 21:57
> ginsuisenさん、相変わらず、いやむしろ以前よりほっそりして精悍な感じになりました。
マスクの譚さんをみのがさなかった我が眼光もいまだ健在?
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by saheizi-inokori | 2020-10-13 15:47 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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