手に入れた「掃除婦のための手引き書」

けさも雲助「私の東京物語」は、志ん生の思い出。
師匠の馬生が親父の志ん生と一緒にくらすことになって、その弟子たちも大師匠の身近で世話をすることになる。
志ん生が洒落を言っても緊張して、笑うこともできず、「あ、そうなんですか」なんて、噺家にもあるまじき朴念仁だ。
たまに稽古をつけてくれても、あの志ん生風だから、そのたびにやり方が変わって覚えようがない。
将棋の相手をさせられるが、インチキをする志ん生にはかなわない。
日本文化遺産みたいな存在の放つオーラを全身に浴びての修行が、雲助落語の豊かな土壌を造ったのだろう。
志ん生、馬生、志ん朝、その家族、訪れる人々、なんと贅沢な修行であったことか。
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きのうは、暑い盛りに床屋、50日ぶりだ。
さっぱりして、都立大学に買い物に行く。
かどの栃木屋でチキンカツを頼んでおいて、その先のタクパンで予約しておいたパンを受けとる。
頼んでおいたものだけでなく、丸い天然酵母のパンもひとつ買って、肉屋に戻り、ほかほか揚げたてのカツを、袋の口を開けたまま受けとる。
湯気で蒸れないように、こぼさないように、気をつけて持ち帰るのだ。
自然食品のスーパーで、いきのよさそうなツルムラサキとカミサンの飲み物を買う。
このほかに、古本屋、台湾料理、津軽のばっちゃカフェ、珈琲屋、セレクトショツプ、八雲餅のちもとなども、ときどき寄る店だが、さいきんは、やや不要不急領域になってしまった。

とはいえ、本屋には寄りたい。
「掃除婦のための手引き書」(ルシア・ベルリン)!
なんども図書館に予約しようとしたが、在庫なしだった短編集だ。
本屋に入るたびに平積みになっているのを横目に、そのうち図書館で買ってくれるのを待とうと我慢しているうちに、その存在を忘れていた。

家を出るときは、そのつもりがなかったから、カフェで読む本を持ってこなかった(買い物がけっこう嵩張るし)。
だが、思ったよりすいすいと買い物が済んだのと、コーヒーが飲みたい。
となると、本がなくちゃ。
2200円の「掃除婦、、」は高いなあと、手軽な文庫本を探すが、一階は見てくれだけの新書しかない。
二階に上がる(降りる)元気はない。
題名につられて買って、スカスカの内容に懲りるくらいなら、えいっ!思いきって、新書二冊買ったつもりで、「掃除婦、、」を手にした。
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今の僕にとっては、読みたかった本を読むためにカフェに行くのは、もはや必要緊急なのだ。

がら空きのカフェの片隅で、香り高いコーヒーを啜りながら、新しいページをめくる。
ニューメキシコの、張り紙の多い水浸しの床のコインランドリーでの、アル中のインディアンとの出会い。
カラフルなインディアンの洗濯物がまわる。
記述される一つ一つのものが、生き生きとした世界を作り上げる。

夢中になって速読にならないように、エンジンブレーキをかけながら二編だけ、想像をふくらませながら読んだ。

岸本佐知子 訳
講談社

Commented by ppjunction at 2020-08-21 12:42
「掃除機ーー」は私も気になっていた本です。
女性推薦だけでなく男性諸氏に評判が良いようでーー気になります。
やっぱ、思い切って買ってみますね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-21 12:47
> ppjunctionさん、私は掃除夫でもありますし。
Commented by soymedica at 2020-08-21 14:28
「掃除婦のための」は評判良いですねえ。私もこれから読む本リストに入れています。
最近では本は電子版があるものはすべてそれにしています。紙の本は買ったらすぐに近所の古本屋へ(漫画の本をほとんど扱わない不思議な店)。でもこの間、危うく自分の売った本をもう一度買ってしまうところでした…。
Commented by tsunojirushi at 2020-08-21 16:31
こちらでお名前を知って、YouTube で雲助さんの落語など聞いてみています。
そんなに読みたくて面白い本がおありだなんてそれだけで羨ましい。
年を取ってなかなか本に共感できなくなりました。とても乱暴に言うと、どんな話もみんな呑気に思えるんです。
Commented by ginsuisen at 2020-08-21 22:50 x
あまりの美女ぶりに惹かれて購入しました。すでに亡くなられていると知って・・・驚きました。
でも、完読できてません。うーん、読んでいて辛かったのです、もう少し時間を置けば完読できるかも。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-22 05:41
> soymedicaさん、かつて本を会社に寄贈し続けました。
いまふと読みたくなるものもあります。
このブログは寄贈する本の紹介メールから始まったものです。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-22 05:43
> tsunojirushiさん、たしかに悩み深きときは読書欲も衰えますね。
しやにむに本でごまかすときもあります。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-22 05:47
> ginsuisenさん、そうですね。
たしかに辛い。だから少しづつ読みます。
Commented by at 2020-08-22 06:53 x
道具屋で買ったものを明るいとこでよく見ると「今川焼」と書いている。
この小噺に象徴されるように、
生産性と採算性とに支配された高度管理社会(新メディアが支配しているとは貴ブログでのご指摘)では説明不可能な志ん生。
まこと日本のファジー文化の遺産ですね。

Commented by saheizi-inokori at 2020-08-22 08:40
> 福さん、それで志ん生を聴いていると、心が休まるのかなあ。
「およしよ、戦なんて」弁慶も七つ道具を売っちゃう。
Commented by j-garden-hirasato at 2020-08-22 09:39
不要不急の外出を控えろ、
GoTo〇〇が始まったら、
あまり言われなくなりましたね。
状況が少しづつ変わってきた、ということもありますが。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-22 10:34
> j-garden-hirasatoさん、小池知事は言ってるようです。
中途半端ですね。
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by saheizi-inokori | 2020-08-21 10:34 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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