暴力がファシズムを産み、亡国への道を用意した 「悪党・ヤクザ・ナショナリスト 近代日本の暴力政治」

おととい良く寝たから夕べはダメかと思ったが、まずまず眠れた。
サボることを覚えたが、元気がでるといろいろやりだす。
洗濯ものを干しにベランダに出るとくらくらするくらいの日差しにたじろいだ。
水やりは帽子をかぶって首に保冷剤を押し付けて。
ちょっとここだけ、のつもりで掃除を始めると、次々に気になりだして結局、いつもより丁寧な大掃除になった。
ストレッチも含めて3時間ほど、汗びっしょりになってシャワーを浴びる気分はとてもいい。

シャワーを浴びて髭を剃りながら聴いていたラジオの「悩み事相談」、どこにも行けない子供に夏の思い出を作ってやりたいけれど、なにかいい知恵はないか。
答えは聞き損じた。
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自身を顧みず筆者の可能性を信じてくれた両親に、まずは何よりも感謝を捧げたい。日本滞在時に温かく受け入れてくれた日本の家族にも深い感謝を。おばあちゃんの強さ、心持ち、歴史への愛情がこの本に反映されていることを望んでいる。彼女が本書を生きて目にすることができないのが残念だ。
「自身を顧みず」とか、「温かく受け入れてくれた日本の家族」など、語られない事情があるような気もする、筆者の「謝辞」。
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2003年にハーバード大学に提出した博士論文を大幅に加筆したものだという。

博徒と壮士が自由民権運動の暴力的な抵抗を助長した結果、明治の元勲らが民主的改革に動き、二十世紀初頭の民主主義運動の主導者として、壮士や院外団は民衆運動に息を吹き込み、政権を転覆させることもできた。
自民党とヤクザの協力体制は、戦後日本における保守政権の強化と長期化を支えた。
影の存在ではなく、公然と、組織的、制度的に政治と暴力が結びついたのだ。
本書の表紙は吉田磯吉、学歴もなく北九州の博徒の大親分であり、筑豊に誕生した新しい商人層や労働者の支持を受けて衆議院議員になる。
自らを侠客としてなんら恥じるところはなかった。
暴力の政治を「あたりまえ」のこととして受け入れていると、その先は地獄への道だ。

政友会の内務大臣・床次竹二郎とヤクザの親分たちが協働して結成した(1919年)国粋会、酒井栄蔵というヤクザの親分によって1922年に設立された正義団。
この二つの組織は、イタリアのスクァドリズモ(黒シャツ隊)やナチス・ドイツの突撃隊(SA)と同じように、ファシズム運動を目的としていた。
彼らはいずれも、民族共同体、単一性、純粋性といった概念を強調する形で国家の歴史を創作し、自らを文明の腐敗から国家を守る者と位置づけた。ここで暴力は国民を守る妥当な手段であるにとどまらず、高貴さや浄化力、侍と侠客の時代への敬意を宿した美的な行為へと近づくことになる。
彼らは労働争議にも積極的に介入し、経営側についてヤクザも動員し暴力の行使をためらわない。
彼らの目的は政敵に勝つことではなく、ある特定の概念や思想を葬り去ることにあった。
彼らは、単なるヤクザ集団以上の存在であり、政治家、軍人、官僚、実業家を巻き込んだ、国家主義的なネットワークの中心にいたのだ。
国内だけでなく、朝鮮、山東半島、満州などに拠点を設けて、日本が帝国主義を推進するのを公然と助けたのだ。

彼らが、政友会と結んで議会内でも暴力を行使(田中義一の糾弾演説を行う清瀬一郎を攻撃、首を刺したりした)し、著名な暗殺事件やクーデターが起きると、批判の声は政党そのものに及び政党政治の終焉につながる。
そして、きのうの敗戦記念日までは一直線だった。
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(きのうのランチ、納豆と梅干しだけてすまそうと思ったら、あまりにも少量、二個にしたが、それでも食い終わるのに一分もかからなかった)

国粋会や正義団の主張は現在、アベ一統・日本会議などの「美しい神の国・日本」「歴史改竄」「日本民族の単一性・卓越性」などと重なるようだ。

壮士(例えば大野伴睦)、ヤクザ(たとえば笹川良一、児玉誉士夫)、院外団などの「活躍事例」が具体的で血沸き肉躍る、なんていうと暴力礼賛みたいだけれど。
院外団壮士が、誰を殴ったか、どこを殴ったかに応じて報酬額が決まった、有名な政治家だと支払いは良くなった、なんて話もおもしろい。
戦後、A級戦犯岸信介が作った岸新党、自民党へのCIAの資金援助のくだりなどもちゃんと書いている。
60年安保のときに国会に警察官を導入して採決を強行したこと、反対運動に対して暴力団を投入したことを批判する漫画も載っている。
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那須良輔の「総理大臣閣下」と題して、「世界」176号(1960.8)に掲載された。

左上は
院外の圧力には屈しない。デモは敵だ、学生は敵だ、女・子供も敵だ。デモ隊を撃滅せよ。国際共産党を討て。
いくら敵でも一人の女性の生命がなくなったらお気の毒の一言くらい言えないのか!
国会前のデモ隊と警察・暴力団の衝突で東大生・樺美智子が死亡したのだ。
本書では「岸首相自ら刑務所時代の仲間である児玉誉士夫に接触し、暴力的右翼団体を結成するよう依頼したというのが定説である」と書いている。

藤田美菜子 訳
朝日新聞出版

Commented by テイク25 at 2020-08-16 17:11 x
よく眠れて良かったです。

暴力団、ヤクザ、腹黒政治家の結託。安倍晋三が自分のお気に入りの人物を市長にするのにチンピラを使って相手候補を恫喝したという話もあります。(チンピラというのが肝の小さい彼らしい。)
自由民権運動の頃から博徒、ヤクザ、暴力と政治が延々と黒く繋がっていたということなのですね。嫌だ嫌だ。
Commented by unburro at 2020-08-16 17:44
古今東西、権力は暴力とは、裏で、ほぼイコール、
なのだと思いますが、
堂々と表舞台に出てくるのは、矢張り恥ずかしいし
マズいと思います。
ヤクザやマフィアが、総理大臣や大統領になってはいけないのです。
しかし、今の政治家は、その恥ずかしいという感覚を失ってしまったのでしょうね。
総理が長州、副総理が筑豊で…
その他の子分たちも顔付きが堅気じゃない(笑)
暴力的血脈が、ドロドロと表出していますね。

理性や知性では、倒せないのが暴力政治だと思います。
と、最近、諦めモードです。
おそらく、今後、変化するとしたら、
もっと強大な、暴力的かつ金にモノを言わす誰か、が
「この馬鹿者!お前たち引っ込め!」って、登場して、
知性的な指導者を推薦する、みたいなストーリーしかない。
でも、そんな映画みたいな、水戸黄門的な黒幕、はいないよね…
と、悲観的に想像しています。

この本の作者、エイコ・マルコ・シナワさんも興味深いですね。
Commented by okanouegurasi at 2020-08-16 21:31
すごいな!博士論文だから、文献の出どころとか資料を提示しないと審査に通らないので、しっかり集めて書いたと思います。
でも、なんとなく知ってるよな~話に聞いているよな~ですね。
Commented by りんご at 2020-08-16 22:50 x
エイコ・マルコ・シナワ氏と解説をして下さった
saheiziさんに感謝いたします!  
いつか知りたいと思っていたことでした

きょう日本特集で家族(夫,両親,妻子等)や「何もしない
人」を貸し出すビジネスについて報道番組がありました
本音と建前,枠に入らない者が疎外され易い社会が亢進?
1時間程の解説とインタビュ―を聞いてるのが辛かったです 
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-16 22:51
> テイク25さん、民主主義も暴力と関わりながら進展することもあったということが、なんとも。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-16 22:54
> okanouegurasiさん、巻末に註や出典が網羅されています。
なんとなく知っていたような話を、暴力と政治という視点で見ることによって、メインの話になってきました。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-16 22:58
> りんごさん、そんなビジネスがあるのですか。
たとえば父代わりになる人を出張させる、そんなことでしたら、ちよっとテレビで見たことがあります。
それですか?
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-16 23:06
> unburroさん、権力が、軍、警察のような暴力を持つのならともかく、政党がアウトローを制度的に取り入れて民主主義を進めようとした、これは必ずしも日本だけの特殊性とはいえないようです。
興味深い学者に会えました。
Commented by りんご at 2020-08-17 02:06 x
「たとえば父代わりになる人を出張させる」
というか父親だと子供は思っている。。わけで
親戚数十名とか病人の親向けに婚約者とか? 
しかしすべて嘘ですものね。。     
Commented by hisako-baaba at 2020-08-17 06:10
お元気ですね。そして綺麗好き。お掃除よくなさいますね。
面白そうな本ですね読みたいけど・・・積読古本の山。
私はアイスタオルを首に巻いています。濡らして振って、時々振れば3時間つめたいです。洗濯干しはベランダに日が当たらなくなる午後しか出来ません。
Commented by j-garden-hirasato at 2020-08-17 06:29
政治とヤクザの関係、
今もでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-17 08:49
> りんごさん、小説か演劇の世界ですね。
仮面家族?
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-17 08:50
> hisako-baabaさん、アイスタオル、いいですね。
探してみましょう。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-17 08:51
> j-garden-hirasatoさん、今もあるでしょう。
花見の会にも登場していましたね。

Commented by hisako-baaba at 2020-08-17 11:13
アイスタオルは1本千円以上のがしっかり冷えます。おもに柄物
いろんな色の無地の安い方はちょっ
頼りなかったです。洗濯機で洗えます。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-17 12:14
> hisako-baabaさん、ありがとう!
Commented by Deko at 2020-08-17 13:56 x
保坂正康さん関口宏さんの終戦特集の番組の中にそのような話が出ていました。大野伴睦 岸信介 の密約の立会人が児玉誉士夫との事でした。表舞台に出ない人達が色々な処で暗躍していたのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-08-17 16:57
> Dekoさん、岸は安倍晋三に「政治家は目的のためには嘘をついてもいい」といったという良くできた話もあります。
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by saheizi-inokori | 2020-08-16 13:37 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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