妻が作家であること 「資本主義と倫理 分断社会をこえて」

ゆうべ、録画しておいたプロ野球中継をみた。
2007年の日本シリーズ、中日対日ハムの第5戦、それまで3勝の中日は53年ぶりの日本一に王手がかかった。
日ハムはダルビッシュ、その年の沢村賞投手にふさわしく、みごとな力投で8回まで1点に抑える。
ところが中日の先発山井は、決め球のスライダー、制球ともに冴えて、バックの好守もあり、なんと8回裏までパーフエクトに抑える。
あと1回3人で完全試合、9回を迎えて満場の観衆は、とうぜん山井コール。
しかし落合監督は、その年の必勝パターンを踏襲、ピッチャー岩瀬を告げる。


岩瀬のプレッシャーは大きかったと思うが、みごと3者凡退に打ち取る。
非情の采配、と評する向きもあったが、ずいぶん後になって、落合と森コーチが、岩瀬に代えるに当たっては葛藤があったが、山井が4回から右手中指のマメをつぶして出血があったこと、山井本人が8回終了後森に訊かれて「岩瀬さんに代わって欲しい」と言ったことが明かされている。

きのうの放送には、そのとき捕手を務めた谷繁が解説に出演して、継投について「なにしろ優勝したかった」と肯定している。
山井が完全試合に挑んで打たれると、流れが変わり、次の試合が北海道で行われることもあり、優勝が逃げていくと、監督・コーチ・選手たちは感じていたようだ。

僕はプロ野球は、その日のニュースで勝ち負けだけを確かめて一喜一憂するアンチジャイアンツでテレビ中継はめったに見ない。
現役の時に縁があって東京ドームや神宮球場のチケットをいただくことが多かったが、みんな社員にあげてしまった。
しかし昨日はゲーム内容もさることながら、満員の観衆が大騒ぎする、いつもならうるさく感じる、歓声が心地よかった。
野球も相撲もないとなると思いのほか寂しいものだ。
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水村美苗の夫君であり宇沢弘文の弟子でもあるという岩井克人の講演録「経済の中に倫理を見出す―資本主義の新しい形と伝統芸能―」を読んだ。
格差拡大など、現代資本主義経済が人々の幸福に結びつかず、動揺の真っ只中にある。
分断社会をこえる社会像を構築するために資本主義の本質を問い直して、「倫理」の働きを見出し、活かしていこう、そんな気持ちなのか、溝畑佐登史の序が分かりにくいのだが、2018年10月京都大学経済研究所で開かれたシンポジュウムの冒頭講演の記録だ。

資本主義の基本である「契約」が、対等の個人同士を前提にしているのに対して、「信任」関係は契約することができない人や組織の間に生じる。
それは信任する側の信頼とされる側の忠実義務から成り立つ。
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忠実義務は法によって義務化される(ここでハートの「法の内的観点」を引っ張り出す)こともあるが、本質的にはイマニュエル・カントの言った「他人の幸福の促進を自己の目的とする」「人間の倫理的義務」である。
資本主義の発展には会社制度の普及が不可欠であったが、会社の経営者の行動は「忠実義務」という倫理性が前提になっている。
資本主義の中核には信任関係=倫理性があるのだ。
つまり倫理性には普遍性がある。

それで?と聞きたいところで話は終わっている。
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文楽の人形遣いの主遣いと黒衣の二人の関係は、主体的に芸術上の忠実義務を果たす者と黒衣=外部規制=法によって忠実義務を果たす未熟者との関係だ、などと言い出す。
「浄瑠璃遣い」(人形遣いのこと)などという、聞いたこともない言葉をなんども使うけれど、太夫の働きについてはひと言も言及しない。
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「母の遺産」は、水村美苗の家族がモデルのように登場する。
(岩井と違って)夫・哲夫はフランス文学者であり、パリに留学したことになっている。
浮気をして主人公・美津紀が離婚に踏み切るところもこの小説の読みどころの一つとなっている。
ググってみると水村=岩井夫妻は離婚していないようだ。
もちろん小説にでてくる夫と岩井は違う人物だ。
それでも
その教授は、哲夫の人となりを美津紀よりもよほどよく知っていたのである。哲夫なら学究肌の人間とちがってフランス文学研究一筋でやっていかねばという思いこみは薄い。しかもあの腰の軽さは新しい学部(国際学部)を設立する時などは重宝する。
と書き、「三年目なのに、論文のほうはすっかり行きづまっちゃってるんだ」と言って博士号を取らない、「書物を通して世界を理解しようという学者らしい抱負さえない」それでいて野心はそこそこもち続け「難解なフランス語の概念をつかい、よく分からない短い文章を売れない雑誌に書き続けているうちに」「マスコミの片隅でようやく得た場所を守ること自体が目的となって」いる哲夫の人間像がなんとなく髣髴する講演のような気がした(あったこともない岩井さん、申し訳ない!)。
作家を妻にもつことはシンドイことのようだ。
Commented by soymedica at 2020-04-29 14:42
水村はあの小説書いた後で友人から「離婚したの??」と何回も聞かれたようです(爆)。
岩井克人って背が高くて若いころはモテたでしょう、という感じではありますが。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 15:11
> soymedicaさん、私もウイキぺディアに満足しないで、ちょっとしつこくググって見ました。
ばかねぇ、フィクションに決まってるじゃないの、と云われてもねぇ。岩井さんの感想を訊きたいものです。
Commented by noboru-xp at 2020-04-29 18:35
私も観ました。落合はあまり好きじゃなかったので
当時はほとんど見ませんでした(*_*;
Commented by りんご at 2020-04-29 18:35 x
「あの腰の軽さは新しい学部(国際学部)を設立する時
 などは重宝」が笑えます  
 国際学部って看板は誰が考えたのでしょう すごい~
     
Commented by Deko at 2020-04-29 19:31 x
こんばんわ
母の遺産はご自分の実体験からの私小説?波乱万丈に生きても平々凡々に生きてもあっという間の一生ですね。自分が幸せだつたか死ぬときでなければ分からないのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 21:35
> noboru-xpさん、そうですか!
私はどちらかというと落合が好きですよ。あったこともないけど。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 21:35
> りんごさん、今はあちこちにあるようですね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 21:38
> Dekoさん、私小説と言えるのかどうかわかりませんが、彼女の私生活が根っこにあるような感じがします。
おもしろいですよ。
Commented by j-garden-hirasato at 2020-04-30 06:45
高校野球は見るんですが、
プロ野球は、テレビで見ないですね。
特に、応援しているチームもないので。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-30 07:54
> j-garden-hirasatoさん、高校野球もない、かと言って静かな夏ではなさそうですね。
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by saheizi-inokori | 2020-04-29 13:40 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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