俳諧師・西鶴の虚実 「西鶴の感情」(富岡多恵子)

日本精神史で西鶴と芭蕉、近松門左衛門の元禄三作家のことを読んで、ブログに西鶴のことを
性の欲望と喜びを人間的なものとして肯定し、人びとの物欲・金銭欲や日々の経済的な営みを人間的・社会的に価値あるものとする思想。
西鶴の「好色一代男」「好色一代女」「日本永代藏」などの思想だが、現代はそれらが人間的というには遥かに度を越えて、人間を「モンスター的に」支配しているように思う。
西鶴を読んだことがないけれど、これからも読もうとは思わない。
なんて書いたのだが、翌日書棚にハタキをかけていて気がついたのが本書だ。
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10年以上も前に買って、二三頁読んでそのままになっていた。
なんども本の始末をしたのに、お目こぼしでそこに置いてあった本に、目が行き手が伸びた。
ちょっとした「意味のある偶然」、共時性=シンクロニシテイだ。
一代女が、現実のなかでは身心荒廃して生活はどんどん下降していくにもかかわらず、「感傷」を感じさせないのはこの手の作者の「仕業」であろう。つまり、作者西鶴は人間の生(性)に「感傷」とは対極の感情―それをどのように名づけるか―をもっているのではないかと思わせる。一代女にあっては生即ち性のとり扱いを世間に流通する「感傷」に浸していたら、いわゆる「女の業」でカタがつきかねない、男の「性」の情動が「仕方のないもの」であるなら女のそれも同様という「感傷」で対称になり、その「仕方のないもの」が女の場合「底知れぬ深さ」或いは「底知れぬ怖さ」という、さらなる「感傷」が重なって直視を避けさせる。西鶴はこの種の「感傷」でなく、世間的「形容詞」を用いず、虚構(騙り)まじりの事実のディテ―ルによって、冷酷でなく直視の冷静を保っている。
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西鶴は52歳で亡くなる晩年も俳諧師であった。
芭蕉の登場により「24時間に二万三千五百句」で名を馳せた西鶴の俳諧は
俳諧師としての、時流をはずれたという自覚があり、それでいて悪意の誹謗には俳諧師として徹底抗戦、一方で地方の愛好家(アマチュア)にはあくまで大坂の著名なる点者として乞われれば点をして、おそらく点料またはお礼を受けとる。ここには、俳諧実作者、俳諧保守者、職業点者の姿があり、三様を兼ねそなえるからこそ「俳諧師」なのであろう。これは、「俳諧」を見すて、或いはそれから離れて、その世界から無縁となって自立した散文作家の姿ではない。
町人身分とはいえすでに商人ではない一介の「俳諧師」が
「浅ましく下れる」(芭蕉の西鶴の散文に対する批評)ほどに、ひとの生活や心を「くまぐま迄探り求め(芭蕉評)」、盗み見ては、それをモトに咄をつくって売る「作者」である。特に深く学問とてあるわけでなく、世の中の仕組みや道徳に感情をあらわにするにはその生業といえるものは虚業である。そういう認識が、「作者」を兼ねていたこの「俳諧師」には生じていたのではないだろうか。そのこと自体が『世間胸算用』では「批評」となって作品の完成度をもたらしたのであって、庶民の生活を醒めた目で鋭くおもしろく描いたからというだけで晩年の傑作になったのではないと思われる。
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近松の虚実皮膜の論では、芸のマコトは虚と実のわずかなスキマにあったのだが、西鶴の「美遊(びゆ・遊びの極致)」は、ウソのかたまり―虚のなかに辛うじて在りうる。

時代がすすみ、文明が開化し、「真実の愛」が至上のものとしてひとびとに追求されるようになり、ウソでつくられたものへの憧憬が消えて糾弾がはじまり、ひとに遊びの能力が失われる時、当然のこととして、西鶴は「複雑」であり、かつ、理解されがたい人物となってしまうのである。
ぼくの西鶴印象はずいぶん薄っぺらなものだったようだ。
廓や役者、人びとの暮しなど細部にめくばりした時代考証(それだけでもとても面白い)を交えつつ、西鶴の作品の勘所を引用(筆者の現代語‣意訳がありがたい)されていて、古典落語の登場人物の実相を見るように興味深くもあり、西鶴を読みたくなった、富岡多恵子のものも、共時性の導くに任せて。

近松門左衛門の義理の甥が、赤穂四十七士のひとり近松勘六であり、その遺児ふたりを養子にしていた、門左衛門は赤穂の新藩主浅野長友および大石良昭に誓って赤穂藩の「塩の道」づくりに十年間挺身、その際スペイン語も身につけた、浄瑠璃「賢女の手習い幷新暦」を竹本義太夫で上演したときに西鶴は大御所・加賀掾で「暦」をかけたが、門左衛門の圧勝となった。
こんな話も無学な僕にはハツミミだった。
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さてコロナウイルスは虚実の虚=ウソを炙りだす。
世界の嘲りの的になった欠陥アベノマスクの発注をめぐって不可解な闇がみえてきた。
なぜか公表が遅れた第四の会社は福島県にあるペーパーカンパニーらしい。
アベノマスク4社目、福島みずほ議員の追及直後から登記簿の閲覧不可能に(田中龍作ジャーナル)
福島にはタックスヘイブンもあるようだ。

日本のPCR検査が途上国レベルであることも、炙りだしてくれた。


Commented by テイク25 at 2020-04-28 17:29 x
「一代女が現実のなかでは身心荒廃して・・・世間的「形容詞」を用いず、虚構(騙り)まじりの事実のディテ―ルによって、冷酷でなく直視の冷静を保っている。」この一節がとてもいいですね。

様々な面での日本の醜さ、お粗末さをコロナが暴き出しました。さぁ私たちはどうする?蜂起しましょう。責任を取らせましょう。嘘つきなおんぼろアベ政権を倒すしかないではありませんか。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-28 17:39
> テイク25さん、アベを倒し、アベがもたらしたこの国の、とくに与党の腐敗を剔抉しなければなりませんね。
アベノマスクの裏事情をみてもそれは想像以上に広く深くどす黒く侵出していると思われます。
Commented by りんご at 2020-04-29 01:38 x
アベやアベ(的)な者は、もうもうごめんです 
私達の人生は貴重です 一刻も早く去ってもらいたい 

辻仁成TwitterでパリNY対談を読み、更に痛感しました
コロナが一段落しても、社会はコロナ以前に戻ることはない
封鎖の中で「今日臨終」と毎日を大切に暮らしている(同じ!)
リーダーの基底要件は「民の側に立ち 一緒に乗り越える人」
Commented by j-garden-hirasato at 2020-04-29 07:41
西鶴は52歳で亡くなる…
昔は、短命でしたね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 07:48
> りんごさん、嘘をいわないこと!
あした死んじゃうかもしれないんだから。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 07:49
> j-garden-hirasatoさん、人生五十年、私もこんなに生きるとは思いもしませんでした。
Commented by tona at 2020-04-29 09:14 x
地方衛生研究所と保健所が「ほぼ独占」・・・だったのですか。
どのような仕組みになっているのか解明。
なぜ優秀な医療機関に、、
もう次々とばれてくる内容に唖然です。
武漢よりの新型コロナウィルスは絶えて、今のは西欧やアメリカからのだそうでより強力ですってね。途中でコロナも性質を変わるって言っていましたが。薬も早く認可して軽・中症者をどんどん救っていきたいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-29 09:46
> tonaさん、コロナの検査の実態はほんとに闇の中です。
もう3か月、おなじことばかり言いあっていますね。
Commented by at 2020-04-30 06:30 x
西鶴の雑食的な享楽主義はある意味、現代社会に先駆けていた・・・
あ、その前提が今や崩壊しつつあるのか。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-30 07:53
> 福さん、西鶴自身は享楽主義だったのか、ちよっと分からないけれど現代よりも楽しむ人はどーんと楽しんだように感じます。
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by saheizi-inokori | 2020-04-28 12:12 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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