元禄時代・三人の作家たち 「日本精神史」&「日本文学史序説」

かれこれ70日、床屋に行かなかった。
いくら「さらば草原よ」であっても耳にかかった毛先がうっとうしくなっていたら、カミさんがチョキチョキ床屋をやってくれて、ずいぶんさっぱりした。
子供の頃、風呂敷をクビに巻いて、母がバリカンをかけてくれたことも思いだした。



虫や髪の毛が入っていた、汚れていた、洗ったら使い物にならなくなった。
クレームが1000件を超しているというアベノマスクは、450億円という巨額な浪費に怒りを覚えるけれど、寸法が足りないところはどこかユーモラスではある。
チンチクリン、という言葉を思いだす。
衣替えのときに小さくなった服を着せて「チンチクリンだねえ、新しいのを買わなくちゃいけないか」とため息をついていた母の面影が浮かぶ。

コロナは、思い出を運んでくる。
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冷凍庫のスペースを開けるために正月からとっておいた餅をお汁粉にしてもらった。
いつもは納豆餅で食うのだが、たまにはこういうのもホッとしていい。

ユングの共時性理論について書いてある老松克博の本を読んでいたら、こっちを読みたくなった。
単に飽きたのか、それとも僕の無意識に潜む元型が僕の自我に働きかけたのだろうか。
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「元禄文化の遊戯とさびと人情ーー西鶴・芭蕉・近松」。
性の欲望と喜びを人間的なものとして肯定し、人びとの物欲・金銭欲や日々の経済的な営みを人間的・社会的に価値あるものとする思想。
西鶴の「好色一代男」「好色一代女」「日本永代藏」などの思想だが、現代はそれらが人間的というには遥かに度を越えて、人間を「モンスター的に」支配しているように思う。
西鶴を読んだことがないけれど、これからも読もうとは思わない。

芭蕉は、「笈の小文」に、
西行は和歌に、宗祇は連歌に、雪舟は絵に、利休は茶に携わったが、各分野をつらぬくものは一つだ。風雅がそれだが、風雅の基本は大自然に従い四季を友とすることだ。見るものすべてが花の美しさを具え、思うものすべてが月の美しさを具えている。ものが花に見えないなら野蛮人と同じだし、心が花でないようなら鳥や獣と変わらない。野蛮人や鳥獣の境地をぬけ出して、大自然に従い大自然に帰一しなければならないのだ。(長谷川・現代訳)
と書いている。
長谷川は、この指摘を「日本古来の芸術の伝統をその核心においてとらえたもの」と評価し、芭蕉は、人間や人事をも包みこんだ大自然を、いかに対象化するか、広大無辺の大自然をどうにかして俳諧のことばに表現しようと、おのれと思考と感性のすべてを注ぎ込んで努力に努力を重ねたという。
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(そっちに行きたいよ~)

西鶴や芭蕉より10年ほど遅れて生まれてきた近松門左衛門は、文楽を見ることによって、急に親しみのある存在になった。
心中の場面などの凄惨・残酷さについて
あえてそこにまで踏み込むのが近松の作劇術だった。演じるのが生身の役者ではなく、木と布で作られた人形であることが残酷な舞台を見やすくしているだけでなく、こちらの思い入れ次第で残酷さが重くも軽くもなることが、観客にとっての救いとなる。演じるのが人形であることによって残酷さが非現実化され、観念的な残酷さへと昇華される。人間の演じる残酷な心中の美しさが、劇の大当たりの原因の一つとなり、、
とあるのは、納得できる。
僕が歌舞伎より文楽を好むのは入場料などのこともあるけれど、文楽の方が歌舞伎より「嘘っぽくなくて心に迫る」ように感じるからかもしれない。
顧みれば、古くから歌われ、語られ、演じられた恋について、不条理と無縁の恋はほとんどなかったといっていい。死に向かうのを必然の道とする心中物において、近松は、恋の内奥にひそむ不条理性に強く光を当てることになった。そこには、人が思わずたじろぐような深淵がのぞいている。が、近松はたじろがない。ひたと深淵を見つめ、恋の不条理を人間性ゆたかな情念の劇として表現するのが近松におけるリアリズムだった。
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長谷川の本と加藤の本を並行的に読むのはいつもの通りだ。
日本文化の生んだ「愛の死](Liebestod)の表現のなかに、以前も以後も、近松の「道行」を抜くものはない。19世紀のドイツ人が管弦楽で表現したものを、18世紀初めの日本人は三味線の伴奏する言葉で表現したというべきであろう。遂げられぬ恋から永遠の恋への飛躍、死において万事を超越する情熱、歴史の中にあって同時に歴史の外にあるもの。その青年時代に俳諧を学んだということが事実であるとすれば、このような近松の文体もまた連歌の技法と関係があったのかもしれない。けだし連歌は、道行の文章のように、句から句へと何処までも続けながら、それぞれの瞬間の附け句の味に、作者と読者の注意を集中させるからである。もしこの推測が正しいとすれば、浄瑠璃の「道行」を一挙に完成した近松門左衛門も、独立の俳句に抒情詩の重みを与えた松尾芭蕉も、町人の生活を描くことで短編小説を画期的に洗練した井原西鶴も、およそ17世紀後半に日本語の新しい局面をひらいた作家たちは、すべて連歌の世界から出てきたということになる。
ね、並行して読む楽しさが分かるでしょ。
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Commented by tsunojirushi at 2020-04-20 12:49
こんなふうにしっかりとした「学ぶ読書」をする習慣がなく、ことによると知らぬまま死ぬようです。恥ずかしいです。と、いつもこちらに来ては思っています。
芭蕉の言葉が響きました。きのう、飽きもせずゴッホの書簡の映像作品を観ていましたが、通ずるものがありました、自然に対する姿勢の中に。自然の美しさや神秘を畏れ、それに突き動かされて制作をする。という感じ。

うちでは、つんつるてん、でした^_^
Commented by Deko at 2020-04-20 12:54 x
こんにちわ安倍マスク本当にちんちくりんですね。若い方に言ったらそれ何語と言われそうです。saheiziさんは文学から歌舞伎文楽落語趣味も多彩で多方面にわたり知識人日常いつも本が傍にあるのでしょうね。加藤周一さん文芸評論家知識人色々顏を持った方連れ曰く最も尊敬している一人だという事です。。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-20 13:14
> tsunojirushiさん、そうそう、つんつるてん、それもありましたね。
今も使っているのかな。服はこっちの方が使ったかも。マスクはチンチクリン。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-20 13:18
> Dekoさん、どれも中途半端です。
加藤周一こそ知の巨人ですね。
Commented by tona at 2020-04-20 16:12 x
サンチ君、どこに閉じ込められてしまったのですか。
加藤周一は一度も読んだことがありません。
ご紹介の部分だけでも理解しようかと、貧弱な頭で頑張っています。
↓さまざまな先生のを読むだけで半日かかったりしています。
色々有難うございます。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-20 17:07
> tonaさん、居間から廊下越しに私の部屋を覗いています。
加藤周一は私もそんなに読んだわけではないのですが、「夕陽妄語」とか「高原好日」などエッセイが読みやすくて面白かったです。
Commented by ikuohasegawa at 2020-04-21 05:16
読みかけの「日本精神史」思い出しました。
TVのコロナ報道は食傷気味ですから丁度よい。再び読みます。
Commented by 寿限無 at 2020-04-21 06:26 x
「造化にしたがひ、造化にかへれとなり」と芭蕉は言うのです。
そこに俳諧を詠む姿勢があります。それが精神・哲学なのでしょう。
Commented by at 2020-04-21 06:50 x
佐平次様に刺激を受けて、朝食に野菜を食べるようにしています。
今朝はレタスの玉子和え竹輪入りでした。
キャベツは梅干しと味醂と塩でもんで食べています。
風雅な芭蕉は自然を観賞、野暮な私は自然を食しています。
葱白く 洗ひたてたる 寒さ哉
Commented by j-garden-hirasato at 2020-04-21 07:00
マスク、届かないですね。
いつ届くのだろう…。
ほんとに、届くのか?
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-21 08:49
> ikuohasegawaさん、いろいろ目先を変えて読んでいます。
本の散歩です。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-21 08:51
> 寿限無さん、長谷川は芭蕉の求道を宗教のそれと比較しています。
Commented at 2020-04-21 09:25
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-21 09:35
> 福さん、わたしは毎食野菜を食べます。
夜はボール一杯生野菜を食べてからほかのものを食べるようにしていますよ。
大野暮!^^。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-21 09:37
> j-garden-hirasatoさん、欠陥、不衛生なマスクなど貰っても怖くて使えませんね。
虫が出たとかシミがあったとか1900件のクレームだそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2020-04-21 09:40
> 鍵コメさん、覚えていますとも。
でも、あれってあまり意味がないような気もします。
ジャンルでお邪魔することがないものですから。

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by saheizi-inokori | 2020-04-20 12:17 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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