「はじめ」で嬉しきまどい 「鏑木清方随筆集」

まだ木の芽も萌えず、何処にも春来るというしるしも見えない時、枯枝のすくすくと簇って立つ紫陽花の古枝に、銀杏の殻を割って取り出した実のような、僅かに緑の丸い芽がかじりついているのを見出す。ことしも霜柱を踏み、紫陽花の芽をもとむる頃となった。（「鏑木清方随筆集」から）

昭和１６年１月の文章、コンクリートの道を歩きながら、土の感触を思いだしていた。
長野では、雪が溶けてぐちゃぐちゃの道が朝のうちは凍って霜柱もあったけれど、紫陽花の芽は見られなかった。
サンチを連れて散歩のとちゅう、ワンちゃんＯＫの店でグリーンカレーでランチをとる。
カミさんが内視鏡検査に行ったので、落ち着かない気持ちを宥める意味もあった。帰って、国会中継を見る。
アベ以下、茂木、麻生、西村の各大臣の演説のどれも画面を見ずに聴いていると、内容の味気なさ、発声の幼さ・未熟さ、少しもリーダーとしての威厳を感じさせず、むしろ貧相なのだ。

上記の「鏑木清方随筆集」に、西園寺公望が首相のときに料亭に文士を招いて清宴を開いた、その第一回に雨が降った。

雨声会とは、その席上誰が名づけたのか、風流宰相の招宴にふさわしい名として取沙汰されたのであった。今考えて見てもこの会の名はよくついている。よくついているというよりは、すらすらと作為なく、懐かしみのある、いかにもしめやかな、床しいまどいという気がうかがえる。

１０人余りのまどい、飲み手もいてじっさいには賑やかだったろうが、雨声会という会名には少しももののみだるるけしきを思わせない、と書いている。
当節の宰相が芸能人を集めて飲み食いするけしきとはだいぶ異なるようだ。
もっともこの会には漱石、四迷、逍遥は招かれても欠席している、生臭いものもあったのか。
都立大学までパンとコーヒー（粉）を買いに出たが、クリニックからの連絡がないのが気になって、そそくさと帰宅する。
バスのなかで、「今起きたところ」と鎮痛剤から覚めたというラインが入ったきり、もう結果を聞いているだろう、「異常なし」ならどんなに長くても１０分とはかかるまいに、などと気を揉むがなかなか連絡がこない。
さてこそ、と腹を決めた頃に、電話があって「異常なし」、先生の話を聞くまで待たされたという。
やれやれ、昨日からなにも食わずにいてフラフラだというから、ホッと祝いの晩飯を「はじめ」で。「そう！よかったねぇ」ママと居合わせたお客が合唱。
焼き大根、肉じゃが、ポテサラ、やっぱり「とろろ雑炊」を感謝をこめて食べていた。
いっしょに心から喜んでくれる店、ありがたくも楽しいまどいなりき。