正月は淋しくもあり温かくもあり 「鏑木清方随筆集」&「はじめ」
2020年 01月 19日
ブログとツイッターとあいついで違った方の記事で取り上げられていたので、図書館から借りて読み始めた。 近代を代表する画家(1876~1972)の、いわゆる「珠玉の」随筆集。
戦前戦後の東京下町の四季折々の情景を描く。
もっとも、今の正月は、極端に言えば長い休みくらいなもので、かつてのような独特の祝祭気分がないのはぼくだけのことだろうか。
二日の晩に、かわいらしい子供の声で、おたから、おたからと、宝船の絵を売り歩いたことは昭和17年の文章で「いつからともなく聞こえなくなった」と書いているから、長野に住んでいたぼくが聞いたような気もするというのは勘違いだろう。
大晦日の晩に、初音といって竹で作った笛をホーホケキョと鳴らしながら売りに来たことはちゃんと覚えている。
門礼者、至り好みの(芸者の)春着姿、佐倉炭、白炭、櫛の歯を引くが如く、生野暮うす鈍(のろ)、、縁が遠くなった言葉をスマホで確かめながら読むのも楽しい。 ゆうべは、お粥と素うどんを食べ飽きたカミさんが行きたいというので、いっしょに「はじめ」に行った。
食べられるものがあるだろうか、いつ腹痛が起きるかとこわごわだったが、ママやお客さんたちのあたたかな励ましもあり、「ふろふき大根」(味噌はぼくが食った)、「湯豆腐」をウマイウマイと食べて、もう少し何かないかと思ったら「とろろ雑炊」、これがドンピシャ大当たり、完食した。
マスターが急須の支度をしてくれたり、気分転換も出来て明るい顔でご帰還、「はじめ」リハビリは成功だった。
ぼくはやはり「牡蠣酢」「スペインオムレツ」「蓮根と豚肉のピリ辛」、心配しながら飲むから酔わないのと、ゆっくり食べるのにつきあうために、ひとりで行く時よりたくさん飲んでしまった。
戦前戦後の東京下町の四季折々の情景を描く。
歓楽の後を追って、あげしおに寄せる波のように、すぐひたひたと襲い来る哀傷のやるせなさ。誰しも子供心には覚えのあることであろう。凧揚げ、追羽根の興はなかなか尽くべくもないうちに、うそ寒い西風飈々と軒並みに立つ笹の葉を揺すって春着の袖を吹き翻えすころともなれば、遊び足りぬうらみをとどめて各々家へと呼びもどされる。そんな時分のやるかたない淋しい思いが、いつか潜在意識として残されているのか、正月を楽しむそのうちに、ひとしお身に沁む哀愁の、それは店に立てたる金屏風の、あかるい表くらい裏、そこにそのまま正月があるのではないかという気がする。昭和13年の文章、ぼくとは時代も環境も異なるけれど、正月の楽しさの陰にひそむ哀愁を、夕方家に呼び戻されて淋しかった子供の記憶に胚胎するというのは面白いし頷けもする。
もっとも、今の正月は、極端に言えば長い休みくらいなもので、かつてのような独特の祝祭気分がないのはぼくだけのことだろうか。
二日の晩に、かわいらしい子供の声で、おたから、おたからと、宝船の絵を売り歩いたことは昭和17年の文章で「いつからともなく聞こえなくなった」と書いているから、長野に住んでいたぼくが聞いたような気もするというのは勘違いだろう。
大晦日の晩に、初音といって竹で作った笛をホーホケキョと鳴らしながら売りに来たことはちゃんと覚えている。
雪とならずに氷雨となった冷たい雫の、楓などの小枝にこまかい瓔珞のように凍りついてさらさらと北風に軽いひびきを伝えるのを、硝子戸越しに眺めることも、この季節のたのしみの一つにかぞえていた。「如月小品」という文章のなかの一節、この気分(実体験としてはそういう住環境についぞ住まなかったが)を懐かしく思う。
門礼者、至り好みの(芸者の)春着姿、佐倉炭、白炭、櫛の歯を引くが如く、生野暮うす鈍(のろ)、、縁が遠くなった言葉をスマホで確かめながら読むのも楽しい。
食べられるものがあるだろうか、いつ腹痛が起きるかとこわごわだったが、ママやお客さんたちのあたたかな励ましもあり、「ふろふき大根」(味噌はぼくが食った)、「湯豆腐」をウマイウマイと食べて、もう少し何かないかと思ったら「とろろ雑炊」、これがドンピシャ大当たり、完食した。
マスターが急須の支度をしてくれたり、気分転換も出来て明るい顔でご帰還、「はじめ」リハビリは成功だった。
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そらぽん
at 2020-01-19 16:30
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やっぱり「はじめ」はサンクチャリですわ 滋味豊かな
とろろ雑炊、よき人々 よいお酒! すべてが◎ですね~
「正月の楽しさの陰にひそむ哀愁」で 盆踊りの夜の遠くに
聞こえる太鼓の音を想いました 子供心に秋を感じて?
とろろ雑炊、よき人々 よいお酒! すべてが◎ですね~
「正月の楽しさの陰にひそむ哀愁」で 盆踊りの夜の遠くに
聞こえる太鼓の音を想いました 子供心に秋を感じて?
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ikuohasegawa at 2020-01-19 16:43
「ふろふき大根」「湯豆腐」「とろろ雑炊」重畳、重畳。
私もご相伴にあずかりたいです。
私もご相伴にあずかりたいです。
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wawa38 at 2020-01-19 21:31
奥さま、とろろ雑炊が食べられてよかったですね。気分転換は薬の一種かもしれませんね。saheiziさんが奥さまに寄り添われる様子、いつも温かくやさしいので感心しています。はやく全快されますように。
鏑木清方のこと、中学の美術の先生に教わったことを思い出しました。
鏑木清方のこと、中学の美術の先生に教わったことを思い出しました。
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hanamomo60 at 2020-01-19 22:15
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doremi730 at 2020-01-19 23:15
奥様もお粥と素饂飩で、私と一緒でしたね。
今日、ちょっと友人とのランチに頑張っていって
3杯だけ日本酒を飲んだら、3時間も咳が止まりました!
そのあとに番茶飲んでから酷くなったけど。。。
百薬の長を証明(^^;
今日、ちょっと友人とのランチに頑張っていって
3杯だけ日本酒を飲んだら、3時間も咳が止まりました!
そのあとに番茶飲んでから酷くなったけど。。。
百薬の長を証明(^^;
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saheizi-inokori at 2020-01-20 10:00
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saheizi-inokori at 2020-01-20 10:01
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saheizi-inokori at 2020-01-20 10:04
> wawa38さん、これから内視鏡の検査に出かけます。
きょうは一人で行けそうです(精神的に)。
鏑木清方、名前と作品のいくつかは見たことがあったけれど、こんな滋味豊かな文章を書くとは知りませんでした。
持つべきものはブログの友ですね。
きょうは一人で行けそうです(精神的に)。
鏑木清方、名前と作品のいくつかは見たことがあったけれど、こんな滋味豊かな文章を書くとは知りませんでした。
持つべきものはブログの友ですね。
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saheizi-inokori at 2020-01-20 10:07
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saheizi-inokori at 2020-01-20 10:11
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at 2020-01-20 23:47
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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saheizi-inokori at 2020-01-21 09:54
> 鍵コメさん、やっぱりね、うまかったならいいか^^。
by saheizi-inokori
| 2020-01-19 11:42
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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