小春日和の銀座で音楽の玉手箱 「くろださんのいるところ」

黒田恭一さんは名前だけは知っていた。
レコードの解説を読んだり、ラジオで声を聴いたこともある。
その黒田さんが亡くなって10年、「くろださんのいるところ~黒田恭一さんの思い出に」という集いに誘われて参加した。
王子ホール、この前にある焼き鳥屋には来たことがあるが、この中に入るのは初めて、チラシを良く見ないで、北区の王子駅の近くに行けば見つかるだろうと思った。
でもせっかくなら少し早めに出て王子の近辺を散歩しようと、スマホで我が家からの所要時間を調べていて、銀座にあることに気がつかされた、まことに危ないところだったよ。
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こじんまりした美しいホールに集いしは、どこから見ても、知性と上品がセンスのいい服に身を包んでいるような紳士淑女然とした方ばかり。
お着物が多くちょっとケバイ歌舞座とも違う、爺さんも目立つジミな能楽堂とも違う、寄席の弥次喜多連とはさらにちがう、顔つきがそれぞれ違うのだ。
どこにでも顔を出す僕の顔はどんな顔?
寄席がいちばん自然でいられ、能楽堂にはやや馴れてきたが歌舞伎座では違和感、そして今日もちょっと落ち着かない。
でも上等なコーヒーの香りが漂う落ち着いたカフェのような雰囲気に少しづつ馴染んで開演を待った。
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「くろださんのいるところ」実行委員会が、作ったパンフレットは、くろださんが語りかけてくるような親しみとやさしさ、そして黒田さんへの畏敬と追慕の念にあふれている。
「くろださんのいるところ 黒田恭一アーカイブ」も見てくださいね。
空腹のつらさを忘れたグルメにほんとうの美味しさがわからないように、音楽のきけない寂しさを知らないききてには音楽の素晴らしさがわからないと思う。
パンフレットの冒頭に載っている「音楽のよろこび」という黒田さんの文章の一部だ。
子どもの頃、お金持ちの女の友だちから、レコードを聴かせてやるから、公衆電話をかけろ、電話口で聴かせてやる、といわれて寂しかった僕にもこの会に参加する資格があるってことだ。
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ハープの上をこっち側と向こう側と、10本の指が、指人形のように躍ると妙なる音が湧いてくる。
ハープの響きを楽しむところにとどまらず、吉野直子だけにもたらしえた音楽を味わうことになる。

明日は吉野直子が聞けると思うと、もう一日生きていようと思う。
黒田さんがそう書いたハープでシャコンヌを聴く喜び。
モーツアルトの音楽に選ばれた、歌心を宿した指の持ち主
と評された鈴木大介が、柔らかくつぶやくように、こんなモツアルトもあるのかと驚かせる。
ききて目ざしてまっすぐ飛んでくる情熱
たしかに風貌からして、鈴木大介とは対照的だ。
長谷川がバッハを演奏した後、そのふたりがビアソラを演奏する。
バッハのときと違って、メランコリックに夢みる乙女のようにチエロがむせび、ギターが和す。
黒田さんは、ピアソラを日本に紹介した人で「人生であったもっともチャーミングな男」と評した由。
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(ロビーに展示されていた黒田さんとピアソラの写真)

後半の塩谷哲の「ブラームス 交響曲第三番第三楽章より」と[Life with you」も素晴らしかった。
映画「さよならをもう一度」を観たことがあったか、映画音楽だけをラジオで聴いていたのか、もうはっきりしないが、その頃の僕を包んでいた空気を懐かしく思いだしていた。

さいごに、黒田さんの「やあ!」というような写真が写されて、「僕はモツアルトしか聴かないというような、一つの穴にこもらないで、いろんな楽しみを!」といい「週末の楽しみでCDを尻取り遊びのようにかけていく」楽しさなどを語り、リヒャルト・シュトラウスの「子守歌」をもっとも好きな歌として聞かせてくれた。

カテゴリーなどにこだわらず自由自在に極上の音楽を楽しむ。
軽薄にして雑食の僕も少し激励された感じ。
僕は、きょう聴いた音楽を一枚のCDにしてくれたら、真っ先に買うだろう。
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レセプションへの呼びかけもあったし、用意されていたおつまみも旨そうだったが、僕には企みがあった。
以前、居残り会などで何度もお世話になった「球磨川」が近くにある。
このところ、すっかり足が遠のいていたので、店が混みだす前に覗いて久闊を叙して、できれば一杯やりたかったのだ。
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入れましたよ、マスターも元気で「あら、どうしたの?」なんて、冷たいそぶりをみせながらも、うまいものを出して、話し相手にもなってくれて、ちょっと気がかりだったことを解消できてよかった。
大きな徳利2本で切り上げて、まだ時間が早かったので、こんどは「はじめ」でビール、おつまみは「春菊のゴマ汚し」と「なめこおろし」、珍しい人二人にも遇えたりして、充実の一日なりき。
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(これは今朝の収穫)

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Commented by koro49 at 2019-11-20 16:05
オキザリスの『わたしの』には、私も笑顔^^。
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-20 17:52
> koro49さん、どんな子かな。
Commented by maru33340 at 2019-11-20 19:09
黒田さんのラジオの解説はしゃれた所があって好きでした。
近くで開かれていたのにこのコンサートのこと見逃してました。
残念(>_<)
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-20 19:14
> maru33340さん、それは残念でした。サービス精神も旺盛な方だったようですね。
Commented by hanamomo60 at 2019-11-20 22:51
こんばんは。
先ほどはコメントをありがとう。
黒田さんがピアソラを日本に紹介してくださったのですね。
私もピアソラ大好きです!
さだまさしの息子の音楽ユニット ツケメンの演奏するピアソラもすばらしかったです。

いい音楽のひと時でしたね!
Commented by k_hankichi at 2019-11-20 23:29
いいなあ。それは聴きたかったなあ。ちょっと濃い味の解説をするかたでしたが、折り目正しいという印象で、ヒールになりかけたり邪険になりかけているときには黒田さんの解説が効きました。
Commented by hisako-baaba at 2019-11-21 05:50
素敵な音楽会と美味しそうなご馳走。
歩いてどこにでも行かれることが先ず羨ましいです。
リハビリの目標を「電車で都内の公園に行く」としている私。
Commented by at 2019-11-21 06:30 x
クラシック、能楽と多趣味でいらっしゃいますね。興味関心が狭い自分は大いに反省させられます。
『球磨川』というお店の良さが文章から伝わってきます。
霜月の 牡蠣に仄かな 香のありて
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 06:56
> hanamomo60さん、知らない人も共に楽しむ、ちよっと教会の集いみたいな雰囲気もありました。
ツケメン、探してみよう。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-11-21 07:16
生演奏も聴き、
美味しいモノを食べて、
至福の時間を過ごされましたね。
羨ましい限りです。
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 09:56
> k_hankichiさん、なるほどね、わかります、その感じ、死せるもの生けるものを感じせしめました。
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 09:58
> hisako-baabaさん、ほんとに感謝の一日でした。
できるうちにできることをやりたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 10:01
> 福さん、浅く、広くとまではいえないけど浅くても動きまわっています。
牡蠣の香りを楽しむ前に、つるっと喉ごしとあじを楽しんでしまいました。
その前に、目も。
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 10:02
> j-garden-hirasatoさん、ありがたいことです。
Commented by doremi730 at 2019-11-21 17:41
素敵なコンサートの後に、懐かしい店で一杯!
いい一日でしたね♪
Commented by saheizi-inokori at 2019-11-21 18:06
> doremi730さん、ぽかっといいことづくめの一日になりました。
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by saheizi-inokori | 2019-11-20 12:42 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(16)

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