思いやりのある、優しい人になってください 「ザ・ミッション 最終講義 戦場からの問い」(山本美香)
2019年 10月 22日
2009年、自衛隊はイラク・サマーワの復興支援を終える。
それを自衛隊・国は「撤収」といい、山本は「撤退」という。
撤収が「任務終了」のようなニュアンスがあるのに対して「撤退」は「逃げた」ようなイメージがある。
山本は、
何故、死を賭してまで戦場にジャーナリストがいることが求められるかを如実に物語るエピソードではないか。 2012年、シリアのアレッポで政府軍の銃撃を受けて45歳の人生を終えたフリー・ジャーナリスト、山本美香が早稲田大学でジャーナリスト養成講座の教壇に立った「最終講義」だ。
アフガニスタン、イラク、シリアなどの世界紛争の現場に飛び込んで、戦争というより、そこで生きている人びとの
イラクでは取材しているホテルに政府軍がロケット弾を撃ち込み、隣の部屋のロイター通信の記者が死亡、そのとき彼女はカメラを捨てて、救助しようとした。
そのことについて、生徒たちの感想、君ならどうする?を尋ねる。 (久しぶりに恵比寿をぶらぶら、かつて夜遅くまで飲んだビルがまだあった)
殺される3か月前の講義「メデイアと戦争」を読んでいると、生き生きと語る姿が彷彿して、ああ、この彼女はすぐに自分が非業の死を迎えるということを、ちらとも考えなかったのだろう、と胸が痛む。
巻末に、彼女が所属したアジアプレスの野中章弘代表が、山本は日頃から、安全には最大限の注意を払っていて、「スクープが撮れるような局面でも決して無謀な取材はしない」と語っていたことを痛惜の言葉で伝えている。
彼女を撃ったシリア兵よ、お前はとんでもないことをしたということを自覚しているのか。
早稲田大学出版部
「講義後の学生さんへのメッセージ」
日本で暮らす私たちにとって戦争は遠い国の出来事と思うでしょう。しかし、世界のどこかで無辜の市民が命を落とし、経済的なことも含めて危機に瀕している。その存在を知れば知るほど、どうしたら彼らの苦しみを軽減することができるのか、なにか解決策はないだろうかと考えます。
紛争の現場で何が起きているのか伝えることで、その国の状況が、世界が少しでも良くなればいい、そう思っています。伝え、報道することで社会を変えることができる、私はそれを信じています。
「日本にかかわること」がニュース選択の重要なポイントの一つであることは否定しません。しかし、それだけではない。例えば世界の安全は日本の安全につながります。人道的な見地からも、目をそらしてはいけない大切なことがたくさんあるはずです。それを「仕方がないこと」「直接関係がないこと」と排除してしまうのでは、ジャーナリズムの役目を果しているとはいえません。そうした広がりのない視点と態度は、形を変えながら私たちにかえってきます。(中略)
社会にはさまざまな考え、職業、立場の人たちがいます。メデイアの世界に身を置くと、力を持っていると勘違いしてしまうことがあります。高みから物事を見るのではなく、思いやりのある、優しい人になってください。
それを自衛隊・国は「撤収」といい、山本は「撤退」という。
撤収が「任務終了」のようなニュアンスがあるのに対して「撤退」は「逃げた」ようなイメージがある。
山本は、
宿営地にものすごくロケットとかを撃ち込まれていましたし、宿営地外活動は最終的にほとんどできてなかった。それでも逃げるようにして出ていったわけです。、、とにかく撤退の日にちをはっきりさせないとか、裏口から出ていって表門から出ていかないとか、それは宿営地の地権者とのトラブルが発生したこともあって、申し訳ないけれど本当に逃げるようにして出ていった印象が強かった。と本書のなかで語っている。
何故、死を賭してまで戦場にジャーナリストがいることが求められるかを如実に物語るエピソードではないか。
アフガニスタン、イラク、シリアなどの世界紛争の現場に飛び込んで、戦争というより、そこで生きている人びとの
人の心というのは一回ではつかみきれないから、もし本当にその問題を取り扱いたいと思ったなら、拒絶されても拒絶されても拒絶されても、もう一回聞きに行く。(追いかけまわすストーカーみたいになってはだめですよ)先入観にとらわれないほんとうの気持ちや生活を取材し発表してきた。
イラクでは取材しているホテルに政府軍がロケット弾を撃ち込み、隣の部屋のロイター通信の記者が死亡、そのとき彼女はカメラを捨てて、救助しようとした。
そのことについて、生徒たちの感想、君ならどうする?を尋ねる。
「正解はこれ」と一つに決まっているものではありません。そこを逆に忘れないでほしいと思います。私たちが習う大前提、基本はあるけれど、現場、現場によってそこから先どう動くか。どうするかは、その場に居合わせた個人個人が決めなければいけないのだと。そこはどんな取材をしていても、日本で警察関係の事件を取材していても、相手の顔を撮るのか、撮らないのかも含めて、常に自分の意識が必要になってきます。マニュアルで決まっているからこうしましたというところに、決して陥ってほしくないと思います。彼女がイラク戦争開戦時に日本の新聞テレビ各社が記者を撤退させた中でバクダッドに残った判断もジャーナリストとして実際を目で見て伝えたいという意識があったからだ。
殺される3か月前の講義「メデイアと戦争」を読んでいると、生き生きと語る姿が彷彿して、ああ、この彼女はすぐに自分が非業の死を迎えるということを、ちらとも考えなかったのだろう、と胸が痛む。
巻末に、彼女が所属したアジアプレスの野中章弘代表が、山本は日頃から、安全には最大限の注意を払っていて、「スクープが撮れるような局面でも決して無謀な取材はしない」と語っていたことを痛惜の言葉で伝えている。
彼女を撃ったシリア兵よ、お前はとんでもないことをしたということを自覚しているのか。
早稲田大学出版部
日本で暮らす私たちにとって戦争は遠い国の出来事と思うでしょう。しかし、世界のどこかで無辜の市民が命を落とし、経済的なことも含めて危機に瀕している。その存在を知れば知るほど、どうしたら彼らの苦しみを軽減することができるのか、なにか解決策はないだろうかと考えます。
紛争の現場で何が起きているのか伝えることで、その国の状況が、世界が少しでも良くなればいい、そう思っています。伝え、報道することで社会を変えることができる、私はそれを信じています。
「日本にかかわること」がニュース選択の重要なポイントの一つであることは否定しません。しかし、それだけではない。例えば世界の安全は日本の安全につながります。人道的な見地からも、目をそらしてはいけない大切なことがたくさんあるはずです。それを「仕方がないこと」「直接関係がないこと」と排除してしまうのでは、ジャーナリズムの役目を果しているとはいえません。そうした広がりのない視点と態度は、形を変えながら私たちにかえってきます。(中略)
社会にはさまざまな考え、職業、立場の人たちがいます。メデイアの世界に身を置くと、力を持っていると勘違いしてしまうことがあります。高みから物事を見るのではなく、思いやりのある、優しい人になってください。
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tsunojirushi at 2019-10-22 12:08
亡くなられた経緯は存じ上げていても、専門的なことは、不勉強にして解らないのです。しかし、この記事のタイトルに抜粋していただいたこの一文、心にしみます。
人間として持たなければならない、もっとも大切なことは、これに尽きると思っています。
ありがとうございます。
私信ですが、先日「しようがなくない」と掛けてくださった言葉、とても助けになりました。感謝しています。
人間として持たなければならない、もっとも大切なことは、これに尽きると思っています。
ありがとうございます。
私信ですが、先日「しようがなくない」と掛けてくださった言葉、とても助けになりました。感謝しています。
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saheizi-inokori at 2019-10-22 13:00
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slow33jp at 2019-10-22 14:15
2008年だったか、シリアにひとり旅して
感じた事はどこに行ってもアサド大統領やアサド氏の父親の銅像やポスターが目につく嫌な雰囲気でした。
でもローカルの人々は優しく 遺跡や自然は素晴らしかった!
それが数年で壊れるなど思いもしなかった。
戦争になる時は庶民は全く分からず
不満が蓄積されて ある日爆発したのに
事態は進展せずISは小さくなったけど
未だアサド大統領の勢力は衰えず…
最初 シリアもこれで変わるのかと
推移を見守っていたけども
ジャーナリストの死もとてもショックでした!
なぜ世の中は平和にならないのか残念でなりません。
感じた事はどこに行ってもアサド大統領やアサド氏の父親の銅像やポスターが目につく嫌な雰囲気でした。
でもローカルの人々は優しく 遺跡や自然は素晴らしかった!
それが数年で壊れるなど思いもしなかった。
戦争になる時は庶民は全く分からず
不満が蓄積されて ある日爆発したのに
事態は進展せずISは小さくなったけど
未だアサド大統領の勢力は衰えず…
最初 シリアもこれで変わるのかと
推移を見守っていたけども
ジャーナリストの死もとてもショックでした!
なぜ世の中は平和にならないのか残念でなりません。
彼女の講義は私の胸の奥底に残り、今も何人かの戦場ジャーナリストの報告を読んだり聞いたりする度に思い出します。戦場ジャーナリストの使命は、いま世界で何が起きていて誰が苦しんでいるのかを戦場から遠く離れた私たちに知らせること。絶対に無駄にはならない尊い仕事だと思います。危ないのにどうして?と単純に考えるのは平和な日常を暮らしている自分の間違いだと気付かせてくれた本です。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
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pallet-sorairo at 2019-10-22 14:56
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stanislowski at 2019-10-22 15:06
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suzume-ritu at 2019-10-22 15:42
少し前に荻上さんのラジオで、戦争とジャーナリズムの特集を聞いて、そこにもアジアプレスの野中さん出演していらっしゃいました。いろいろ重なるところがありました。山本さんの本も読んでみたいと思います。
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saheizi-inokori at 2019-10-22 16:07
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saheizi-inokori at 2019-10-22 16:11
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saheizi-inokori at 2019-10-22 16:13
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saheizi-inokori at 2019-10-22 16:15
> stanislowskiさん、私も通りいっぺんのプロフィルでしか知らなかったのです。他の著作も読んでみるつもりです。
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saheizi-inokori at 2019-10-22 16:18
> suzume-rituさん、命をかけて真実を知らせてくれるのに対して、受け手の私たちの感度の鈍さ!今更ながら情けないです。
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そらぽん
at 2019-10-22 21:33
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fusk-en25 at 2019-10-22 21:45
戦場でなくても。。外国で暮らすことは。
一つの場所でそれぞれのシーズンを3回送って(住んで)初めてわかると。
昔言われたことがあります。
石の上にも3年ではありませんが。。
その国の人々の思考や嗜好がわかるようになるまでには時間がかかるということですね。
それでいてなお。戦場である緊迫感や傷み。悲しみ。恐怖も。。
ある上での取材への気持ち。。人間に対する優しさだけが。。それを可能にするのかもしれないなあという気がしました。
一つの場所でそれぞれのシーズンを3回送って(住んで)初めてわかると。
昔言われたことがあります。
石の上にも3年ではありませんが。。
その国の人々の思考や嗜好がわかるようになるまでには時間がかかるということですね。
それでいてなお。戦場である緊迫感や傷み。悲しみ。恐怖も。。
ある上での取材への気持ち。。人間に対する優しさだけが。。それを可能にするのかもしれないなあという気がしました。
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saheizi-inokori at 2019-10-22 21:55
> そらぽんさん、きっと誰かが受け継いでくれると、彼女のためにも信じたいです。
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j-garden-hirasato at 2019-10-23 06:18
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saheizi-inokori at 2019-10-23 06:47
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saheizi-inokori at 2019-10-23 06:51
> fusk-en25さん、山本は戦前、戦中、戦後と継続して取材することの重要性をあげています。そのようにしてみて始めて見えてくるものがあると。
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pallet-sorairo at 2019-10-23 09:48
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saheizi-inokori at 2019-10-23 10:37
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at 2019-10-23 15:22
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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saheizi-inokori at 2019-10-23 17:34
by saheizi-inokori
| 2019-10-22 11:30
| 今週の1冊、又は2・3冊
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